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4-3-6 麗蘭と菫

智絵里は自宅のリビングで、菫と麗蘭を迎え入れていた。


二人は「オラクルコード」の幹部を名乗っており、ただ事ではない雰囲気に、小桜と紫音も警戒を隠さず同席している。


さらに、ゼノンへ直ちに通報しないことを条件に参加を認められた恵麻も加わり、室内には重苦しい緊張感が漂っていた。


居心地悪そうに椅子へ腰を下ろした菫は、一度深呼吸してから智絵里を見上げる。


「私たちがここへ来たのは、お願いがあるからです。『オラクルコード』のリーダーである聖奈さんと幹部の愛蓮を……止めてほしいんです」


あまりにも唐突な言葉だった。


智絵里はもちろん、小桜も紫音も思わず顔を見合わせる。


「ちょっと待って。幹部のあんたが、リーダーを止めてほしいって……どういうこと?」


紫音が率直に問い返す。


静かに口を開いたのは麗蘭だった。


「私たちは、聖奈さんに恩があります。菫も、愛蓮も、私も……だから、ずっと信じてついてきました」


そこで言葉を切り、小さく目を伏せる。


「でも最近は、組織の空気が少しずつ変わってしまったんです」


「変わった?」


紫音が眉をひそめる。


「未来のためという目的は、私たちも理解しています。でも、そのためなら手段を選ばなくてもいい、という考え方が、幹部だけじゃなく一般のメンバーにも広がってしまって……」


麗蘭は苦しそうに続けた。


「最初は、本当に些細なことだったんです。でも今では、平気でSNSを荒らしたり、嫌がらせをしたりする人まで出てきました。私も、その空気に流されかけていたんです」


智絵里は慎重に問いかける。


「つまり、その流れについていけなくなった、と?」


「……はい」


麗蘭は静かに頷いた。


「このままでは、組織は取り返しのつかない方向へ進んでしまう気がするんです。そして、聖奈さんにも、手に負えなくなるような気がして……」


その言葉に、菫もゆっくりと口を開いた。


「聖奈さんは『未来の破滅』を止めるためだと言っていました。でも、その未来が何なのか、私たちは詳しく知りません。ただ、彼女の『神託』を信じて動いていただけなんです」


智絵里は、その言葉に引っかかった。


「その『未来の破滅』って、具体的には何なの? リーダーから聞かされてないの?」


菫は申し訳なさそうに首を横へ振る。


「詳しいことは何も……。未来を守るために行動しなければならない、とだけ。それを『神託』と呼んでいて、私たち幹部は、それを疑うことなく受け入れていました」


「曖昧すぎる……」


恵麻が小さく呟く。


その視線は智絵里へ向けられていた。


「じゃあ、ゼノンを狙ったのも神託だったの?」


菫は少し黙り込み、やがて小さく息を吐いた。


「……はい。ゼノンの件も、聖奈さんは『神託』だと言いました。でも、それ以上のことは私たちにも分からなくて……」


「そんな説明で納得しろっていうほうが無理よ……」


恵麻は困惑を隠せなかった。


紫音が鋭く問いかける。


「じゃあ、あのドローン自爆は? あれも、あなたたちの計画だったの?」


麗蘭はびくりと肩を震わせた。


その問いを予想していたかのように、ゆっくりと視線を落とす。


「……あれは、私の魔導AIが暴走したせいなんです」


絞り出すような声だった。


「本当に……申し訳ありませんでした」


深く頭を下げる。


あの時の爆発が脳裏をよぎったのか、その肩は小さく震えていた。


麗蘭の深々とした謝罪に、紫音は思わず言葉を飲み込んだ。


怒りに任せて責め立てるつもりだったが、その様子は言い訳を並べる人間のものではなかった。


「暴走したなら、自分じゃ止められなかったんでしょ?」


麗蘭は頷き、横にいる菫に視線を向ける。


「……はい。私には、どうすることもできませんでした。最後は……菫が助けてくれました」


菫は何も言わず、小さく頷くだけだった。


麗蘭は胸の前でそっと手を握りしめ、当時を思い返すように続ける。


「前に暴走した時、聖奈さんが魔導AIを調整してくれたんです。……そうじゃなかったら、今頃もっと酷いことになっていたと思います」


その言葉が落ちると、部屋はしばらく静まり返った。


謝罪の中に混じる僅かな信頼が、この場の空気をさらに複雑なものにしていた。


重い沈黙の中、智絵里、恵麻、紫音の視線は自然と小桜へ集まる。


この場で最年少ではあるが、魔導に関する知識では誰よりも頼れる存在だった。


小桜は一人ひとりの表情を見渡し、静かに口を開く。


「……お二人のお話で、状況はだいたい理解できました」


少し間を置いて続ける。


「でも、分からないことを分からないまま動くのは危険です。まずは『神託』が何なのか、それを確かめる必要があると思います」


その声は穏やかだったが、芯は揺るがない。


「オラクルコードを止めるとしても、根拠が曖昧なままでは、同じ間違いを繰り返してしまうかもしれません。慎重に進めるべきですが、時間をかけすぎるのも危険です」


智絵里は小さく頷き、恵麻と紫音も視線を交わしながら同意する。


小桜はようやく表情を和らげ、穏やかに微笑んだ。


「今日はここまでにしましょう。一度それぞれ情報を整理して、改めて集まりませんか。そのほうが、落ち着いて次のことを考えられると思います」


その言葉に、菫と麗蘭は張り詰めていた表情を少しだけ緩めた。


ようやく、自分たちの話を最後まで聞いてもらえた。そんな安堵が、二人の表情に静かに滲んでいた。


紫音たちが帰る支度を始める中、小桜だけはその場に残り、静かに考え込んでいた。


やがて何かを決意したように、ゆっくりと顔を上げる。


「……恵麻さん」


呼び止められた恵麻は足を止め、小桜へ視線を向けた。


その真剣な眼差しに、先ほどまで見せていた穏やかな表情とは違うものを感じ取る。


「少しだけ、お話ししたいことがあります。この後、お時間をいただけませんか?」


恵麻は表情を引き締め、小さく頷いた。


ブクマで小桜たちの応援をお願いします!

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