4-3-5 聖奈と愛蓮
「その話……本当なんですか?」
ShadeSheep──愛蓮の声には、隠しきれない戸惑いが滲んでいた。
普段は冷静沈着な彼女も、今回ばかりは平静を装いきれないらしい。
「まあ、普通は信じられないよね」
OracleLion──聖奈は苦笑を浮かべながら肩をすくめた。
その飾らない口調に、愛蓮の緊張もほんの少しだけ和らぐ。
「それで……その剣は、今どこにあるんですか?」
恐る恐る尋ねる愛蓮に、聖奈は何でもないことのように答えた。
「家にあるよ」
「……えっ?」
「だって持ち歩いてたら警察に捕まるでしょ。危険物所持とかで」
あまりにも現実的な返答だった。
そのギャップに愛蓮は思わず言葉を失い、小さく息を吐く。
「そういうものなんですね……。それで、その”神託”というのは、どういうことなんですか?」
「詳しくは私も分からないんだけど、剣が『そうだ』って教えてくれるんだ」
聖奈は少し考えるように視線を泳がせた。
「たぶん、長年追い続けてきたロキスヴェインの魔力を、何らかの方法で感じ取ってるんじゃないかな」
「魔力の痕跡を……察知するんですか?」
「かもしれない。でも、そこは剣も教えてくれない。『その時が来れば分かる』って。本当に神託って呼ぶしかない感じ」
そう言って顎に手を添え、小さく息をつく。
「ただ、一つだけ確かなのは、ロキスヴェイン本人が直接動く可能性は低いってこと」
そう言って顎に手を添え、少しだけ考え込む。
「じゃあ、どうするおつもりですか?」
「きっと彼には、まだたくさんの手駒がいる。その一つ一つを止めていくしかないんだと思う」
その声に迷いはなかった。
愛蓮は黙って頷きながらも、先ほど聞いたミーナの話を思い返していた。
ロキスヴェインを追い続けるためだけに、人生を懸けて世界を巡った女性。
それでも最後には、あと一歩届かなかった。
その歳月の重さを想像しただけで、胸の奥が重く沈んでいく。
「……何十年も、ですか」
思わず漏れた呟きには、途方もない時間への虚しさが滲んでいた。
そんな愛蓮の表情を見て、聖奈は静かに口を開く。
「徒労に思えるかもしれない。でも、誰かがやらなきゃ、未来はもっとひどいことになる」
「それは……分かります。でも、本当に私たちにできるんでしょうか」
まだ迷いは消えていない。
聖奈は小さく微笑んだ。
「私だって、自分が選ばれた理由なんて分からない。でも、あの剣は私を信じてくれた。だったら、その期待に応えたいと思ったんだ」
一度言葉を切り、まっすぐ愛蓮を見つめる。
「未来なんて、一日じゃ変わらない。でも最初の一歩は、誰かが踏み出さなきゃ始まらないから」
愛蓮はしばらく黙っていた。
その言葉は決して理想論ではなかった。
未来の破滅を目の当たりにした人間だからこそ口にできる、静かな覚悟だった。
「……一つずつ進むしかない、ということですね」
「そう。時間はかかるかもしれない。でも、それが今の私たちにできることだから」
その答えに、愛蓮はゆっくりと頷く。
そして、一瞬言葉を選ぶように視線を伏せてから口を開いた。
「……ゼノンを支援していた勢力ですが、ロキスヴェインの影響がある可能性はありますか?」
聖奈は少し考え込む。
「正直、それは分からない。ロキスヴェインがどこまで手を伸ばしているのか、獅子の剣にも判断できないみたい」
そう前置きして続ける。
「でも、あの時、剣は確かに魔法の気配を感じたらしい。ただ、それはロキスヴェインのものじゃない。もっと別の何か……たぶん、魔導AIを使ったものだろうって」
「魔導AI……ですか」
愛蓮は静かに息をつく。
「それもまた、厄介そうですね」
「うん。ロキスヴェインとは違う種類の脅威。でも、だからこそ警戒しないといけない」
聖奈の眼差しが僅かに鋭くなる。
「ゼノンを操っていた魔導士。そいつが何者であれ、きっとまた私たちの前に現れる」
その言葉には、不思議な確信があった。
愛蓮は静かに聖奈を見つめた。
世界を救うという話は、まだ現実味がなかった。
それでも一つだけ、はっきり分かることがある。
この人は、ずっと一人で未来を背負ってきた。
──ならば、せめて今度は一人では歩かせたくない。
その想いは、小さな決意となって胸の奥に根を下ろし始めていた。
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