4-3-4 伝説の剣を抜け
「──こうして皇帝ルシウスとロキスヴェインは、この世界へ転生した」
「……いや、ちょっ、待って!ストップ!」
聖奈は思わず剣の話を遮った。
修学旅行で訪れた森の奥深く。不思議な感覚に導かれるように足を踏み入れた先で見つけたのは、大岩に突き刺さった一本の剣だった。
しかも、その剣は人の言葉を話す。
半信半疑のまま話を聞いていたものの、語られる内容はあまりにも現実離れしていた。
「そんな話……本気で信じろっていうの?」
困惑する聖奈をよそに、剣は淡々と語り続ける。
「ロキスヴェインは皇帝ルシウスを先にこの世界へ送り、魔力転送経路を開いた。そして毒蛇の仮面の力を借り、自らも転生を果たしたのだ」
「転生? 魔力転送? それじゃ、まるでゲームか映画の話じゃない」
思わず苦笑いを浮かべる。
だが、その空気は次の一言で一変した。
「お前が信じようが信じまいが、この世界は滅びの危機に瀕している。そして、それを止める役目がお前にはある」
「……冗談、でしょ?」
聖奈の表情から笑みが消えた。
剣は静かに答える。
「ならば、見せよう。私が見てきた未来を」
その瞬間、剣身から眩い光が溢れ出し、森一帯を白く染め上げた。
視界が光に飲み込まれる。
気づけば、聖奈は見知らぬ大地に立っていた。
そこは、世界の終わりだった。
空を埋め尽くす無数の翼を持つ悪魔たち。その巨大な影が大地を覆い、世界から光を奪っている。
地上では死人の群れが蠢き、クジラほどもある魔獣が街を踏み潰しながら暴れ回っていた。
焼け落ちる建物。
響き渡る悲鳴。
崩れ落ちる大地。
熱風が肌を焼き、鼻を刺す血と煙の臭いが現実のものとして押し寄せる。
「うそ……」
聖奈は逃げ惑う人々に押し流されるように走った。
転んだ人が踏みつけられ、助けを求める声は悲鳴にかき消されていく。
何もできない。
ただ逃げることしかできない。
「これって……何……?」
足が止まる。
あまりにも絶望的な光景を前に、身体が動かなかった。
その瞬間。
世界を揺るがす巨獣の咆哮が轟き、衝撃だけで聖奈は地面へ叩きつけられる。
「もう……だめ……」
心が折れかけた、その時だった。
世界が再び光に包まれ、すべての景色が溶けるように消えていく。
気づけば聖奈は、森の中で膝をついていた。
「……今のは?」
肩で息をしながら呟く。
何も変わらない森の景色が、ひどく遠く感じられた。
ほんの数瞬前まで、自分はあの終わりゆく世界にいた。
人が倒れ、街が崩れ、命が失われていく光景を、この目で見てしまった。
「……あれは、私が見てきた未来だ」
剣の声が静かに響く。
聖奈は唇を震わせる。
「そんな……ただの幻でしょ?」
そう言い聞かせても、焼けた空気の臭いはまだ鼻の奥に残り、耳には悲鳴がこびりついて離れなかった。
「私の力をもってすれば、時空を切り裂くことも不可能ではない。無論、容易ではないがな」
その言葉に、聖奈は息を呑んだ。
目の前にあるこの剣は、もはや常識で測れる存在ではない。
「……本当に未来から来たっていうの?」
「そうだ。この未来を変えられるのは、お前だけだ」
「私だけって……なんで私なのよ! そんなの無理に決まってるでしょ!」
立ち上がり、思わず叫ぶ。
「お前が無理だと思うなら、この世界は本当に終わりを迎える。決めるのはお前だ。一歩を踏み出すか、それとも絶望に背を向けるか」
森に静寂が戻る。
聖奈は唇を噛み締めた。
脳裏には、さきほど見た光景が焼き付いて離れない。
悪魔の群れ。
逃げ惑う人々。
何もできず立ち尽くしていた自分。
「……嫌だ」
小さく呟く。
「そんな未来……絶対に嫌……」
震える声だった。
だが、その瞳には、少しずつ決意が宿り始めていた。
「もし……私に何かできるなら。私にできることがあるなら……やるよ」
剣はしばらく黙っていた。
まるで、その覚悟を確かめるように。
そして、静かに口を開く。
「ならば、私の真名を呼び、ここから引き抜け」
「真名って……まさか」
聖奈の脳裏に、先ほど聞いた剣の名がよぎる。
最期まで戦い抜いた悲劇の女が託した剣が、今まさに自分の目の前にあった。
剣は静かに口を開いた。
「私の名は──」
聖奈は震える手をゆっくりと伸ばし、岩に突き刺さった柄を強く握り締める。
その瞬間、時空を越えて受け継がれた意志が、新たな未来へと動き始める
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