表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
56/79

4-3-3 燃えよ剣

瀕死のミーナは、血の気を失った顔でロキスヴェインを睨みつけていた。


全身を貫く激痛に耐えながらも、その瞳だけは決して揺るがない。


「……皇帝は……どこにいる……?」


掠れながらも、その問いだけははっきりと響いた。


ロキスヴェインはわずかに眉をひそめると、遠くを見やるように視線を逸らし、やがて薄く笑みを浮かべた。


「ルシウス陛下か? 彼はもうここにはいない。すでに……この世界の人間ですらないよ」


ミーナはその言葉に眉を寄せる。


問い返そうとするが、胸を焼く痛みが言葉を奪っていた。


ロキスヴェインは構うことなく続ける。


「だが、心配はいらない。私もすぐに彼の元へ行く。お前がそれを追いかけることは、もう不可能だがね」


その時だった。


不意に、どこからともなく誰かの声が響く。


「早く、時間がないぞ」


辺りには誰の姿もない。


それでも、その声だけは確かにこの場に存在していた。


ロキスヴェインは当然のように頷くと、静かに懐へ手を差し入れる。


取り出したのは、かつて闇の女王が身に着けていた闇のデバイス──《毒蛇の仮面》だった。


仮面の双眸が妖しく光る。


次の瞬間、その口がゆっくりと開いた。


「おや、お前は確か……ミーナだったか。我を覚えているだろう? 長い間待たせてすまないが、今度こそ別れの時だ」


仮面が言葉を発するたび、重苦しい闇の気配が周囲へと滲み出していく。


ロキスヴェインは仮面を手にしたまま、静かに口を開いた。


「この仮面、『テネブローヴァ』のおかげで、新たな世界への扉が開かれた。転生という形で、新しい体と、新しい力を手に入れるのさ」


ミーナは苦しげに息を吐き、それでも鋭い眼差しをロキスヴェインへ向け続ける。


「……そんな……こと……させるか……!」


身体は限界を迎えていた。


それでも、その闘志だけは少しも衰えていない。


だがロキスヴェインは、その姿をただ愉しむように微笑んだ。


「さらばだ、ミーナ。お前との因縁も、ここで終わりだ」


ロキスヴェインが毒蛇の仮面を高く掲げる。


その瞬間、足元に広がった魔法陣は大地を覆い尽くすほど巨大化し、幾重もの術式が天空へ向かって立体的に組み上がっていく。


空が軋み、岩場が悲鳴を上げるように砕け始めた。


世界そのものが耐えきれず、音を立てて崩れていく。


渦巻く光は空間を引き裂き、その裂け目の向こうには、この世界とは異なる無数の光景が一瞬だけ映り込んだ。


それはこの世の魔法ではなかった。


世界そのものを書き換える、禁忌の大魔法だった。


「待て……!」


ミーナは立ち上がろうとする。


だが、力の入らない身体は言うことを聞かない。


それでも最後の力を振り絞り、獅子の剣を両手で構えた。


「燃えよ……『ブラゼリオン』!」


その真名が響いた瞬間、獅子の剣は紅蓮の炎を纏い、一筋の流星のようにロキスヴェインへと放たれる。


一直線に魔法陣へ吸い込まれていくその一撃は、あとわずかで届く──そう見えた。


しかし、その刹那。


ロキスヴェインの姿は、光とともに完全に消え去っていた。


獅子の剣もまた魔法陣へ飲み込まれ、その輝きごと跡形もなく消えていく。


「……くっ……!」


ミーナはその場へ崩れ落ちた。


もはや身体は指一本動かない。


薄れていく意識の中、それでも彼女の瞳には、安堵と悔恨が入り混じった涙が静かに滲んでいた。


彼女が最後に見たのは、光の中へ消えていった獅子の剣の残像だけだった。


「お願い……彼らを……追って……」


その言葉は風に溶け、やがて静寂だけが荒野に残った。


ブクマで小桜たちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ