4-2-24 サンセット・ビーチパーティー
ゼノン・サイエンス社主催のイベント「サンセット・ビーチパーティ」は、夕暮れの海辺を舞台にした豪華なリゾート体験をテーマとして、多くのインフルエンサーとそのファンを招いて盛大に開催されていた。
潮風が心地よく吹き抜け、オレンジ色に染まり始めた海辺には笑顔があふれている。特設ステージではライブパフォーマンスが続き、ビーチではファンとの交流を楽しむインフルエンサーたちの水着姿があちこちで見られた。
その一角では、智絵里の周囲に大勢のファンが集まり、明るい笑い声が響いている。
「今日はみんなと直接お話しできて、とっても嬉しいです! 私の配信を見てくれてる人も多いですよね?」
彼女が笑顔を見せるたび、あちこちからカメラのシャッター音が鳴り響いた。
少し離れた場所では、それを警戒するように見守る二人の姿があった。小桜と紫音である。
「楽しそうで何よりですけど……なんだか落ち着かないんですよね」
小桜は周囲へ視線を巡らせながら、小さく息をつく。
紫音も人混みを見渡しながら肩をすくめた。
「護衛なんて面倒だけど、まあ仕事と思えばね。あの智絵里って子、ずいぶん人を惹きつけるみたいじゃない」
「そういうタイプだからこそ狙われるんですよ。特に今回は……」
小桜の視線は、ビーチの端に立つひときわ派手な女性へと向けられた。
大きな帽子とサングラスで顔は隠しているものの、人目を引く水着姿と堂々とした立ち居振る舞いは、この賑やかな会場でも目立っている。
(……あんな人、招待客に居たっけ?)
その女性──麗蘭ことAquaLily。
サングラス越しに智絵里を見つめるその表情には、冷たい怒りが宿っている。握り締めた拳は、わずかに震えていた。
(オラクルコードが負けた……そんなこと、あっていいわけがない)
麗蘭は智絵里から視線を逸らさない。
(智絵里? あんな子なんかに負けるなんて……)
その胸を満たしているのは、もはやゼノン社への反発でも、ZPGへの危機感でもなかった。
オラクルコードを敗北へ追い込んだ智絵里への嫉妬と屈辱。そして、その借りを返したいという思いだけが、彼女の心を支配していた。
そのとき、智絵里のもとへ一人の若い女性が歩み寄ってきた。
ゼノン社のインターン、恵麻だ。
彼女は軽やかな足取りで智絵里に挨拶すると、小桜たちにも丁寧に頭を下げた。
「今日はお疲れ様です。こういうイベントに関わるのは初めてなので、緊張しますけど楽しいです」
智絵里も笑顔で応じる。
「恵麻さんも頑張ってるんですね! こんな大規模なイベントを支えるなんて、すごいです」
「いえいえ、私は雑務ばかりで、ちょっと恥ずかしいくらいです。でも、夜のドローンショーだけは私たちのメイン業務ですからね。一万台のドローンが夜空を飛ぶ光景は、本当に見応えがありますよ」
その言葉に智絵里は目を輝かせた。
「一万台!? 本当にそんなことができるんですね! すごい……絶対に見逃せません!」
しかし、その隣で聞いていた小桜だけは表情を曇らせる。
胸の奥に、小さな違和感が引っ掛かった。
「ねえ、恵麻さん。そのドローンショーのセキュリティって、本当に万全なんですか?」
恵麻は少し不思議そうな顔をした。
「ええ、もちろんです。でも……何か心配なことでもあるんですか?」
小桜はすぐには答えず、楽しそうに笑う智絵里へ視線を向けた。
(嫌な予感がする……ただの杞憂ならいいけど)
その夜、パーティのクライマックスとして、一万台のドローンによるショーが予定されていた。
しかし、その華やかな舞台の裏では、麗蘭の計画が静かに動き始めていた。
彼女は人気の少ない場所へ移動すると、手にしたスマホをゆっくりと操作する。
そしてサングラスの奥で、不敵な笑みを浮かべた。
「今度は私が見せてあげる……あんたたちに、本当の屈辱を」
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