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4-2-20 麗蘭

AquaLilyこと麗蘭れいらは、高校生ながらキュートな笑顔と明るい性格で人気を集めるグラビアモデルだった。


少し天然で、どんな場面でも軽妙なトークを繰り出す彼女は、バラエティ番組にも引っ張りだこ。「美人だけど親しみやすい」と評される一方で、その少し抜けたところも含め、多くの人から愛されていた。


麗蘭自身もそんな毎日を気軽に楽しんでいた。思ったことをそのまま口にしてしまう癖があり、ときには発言が思わぬ騒ぎになることもあったが、それでも「ま、何とかなるっしょ!」と笑って乗り越えてきた。


そんな順風満帆だった日々は、ある事件を境に音を立てて崩れていく。


熱心なファンだったはずの男が次第に行動をエスカレートさせ、ついには自宅まで押しかけてきた。


恐怖に駆られた麗蘭が逃げようとしたその瞬間、男が足を滑らせて彼女にぶつかり、そのまま二人とも階段を転げ落ちた。


大怪我を負った麗蘭は、下半身の自由を失う。


モデルとしての仕事は続けられなくなり、SNSにも「もう終わった人」「奇跡なんて続かなかったね」といった心ない言葉が並ぶようになった。


「はいはい、好きに言ってれば?」


画面の前では笑って見せても、スマホを閉じたあと、その笑顔は長く続かなかった。


そんな娘を救いたい一心で、母親は次第に信仰宗教へ傾倒していった。


「麗蘭がまた歩けますように」


毎日祈りを捧げ、やがて家計を顧みず寄付まで始めるようになる。食費さえ切り詰められる生活になり、麗蘭は何度も首を横に振った。


「それ、本当に意味あるの?」


それでも母は涙ぐみながら答えるだけだった。


「あなたが歩けるなら、それでいいの」


そんなある日、母親が嬉しそうに差し出してきたのは、「魔導AI」と呼ばれる謎のアプリだった。


「これなら奇跡が起きるのよ! 寄付なんてしなくてもいいって!」


「あーもう、分かった分かった! 一回やってみればいいんでしょ!」


半ばやけくそでアプリをインストールする。


起動した瞬間、画面に文字が浮かび上がった。


『そなたの望みは何か』


麗蘭は考えるより先に叫んでいた。


「歩けるようになりたい!」


その瞬間、全身を温かな感覚が包み込む。


恐る恐る立ち上がる。


一歩。


また一歩。


痛みはない。


「……え、マジ!?」


気づけば涙を流しながら笑っていた。


「歩けてる! 本当に歩けてるじゃん!」


それから彼女の周囲では、まるで奇跡が連続するかのような出来事が起こり始めた。


モデル業界から再び声がかかり、SNSのフォロワーも一気に増加する。


「やっぱり麗蘭は奇跡の子!」


そんな言葉まで飛び交うようになった。


だが、その奇跡は次第に歪み始める。


身近な人の事故や不幸が続き、どこか不吉な空気が漂い始めたのだ。


「……なんか最近、ヤバくない?」


麗蘭は笑い飛ばそうとしたものの、その笑顔はどこか引きつっていた。


「事故、多すぎない?」


やがて信者たちは彼女を「奇跡の巫女」と祭り上げようと押しかけてくる。


「ちょ、ちょっと待ってってば!」


麗蘭は両手を振った。


「私、そういうキャラじゃないし!」


だが誰一人として耳を貸そうとはしない。


「もう、いい加減にしてよ!」


耐えきれなくなった麗蘭は家を飛び出し、そのまま当てもなく街を歩き続けた。


気づけば公園のベンチに腰を下ろし、初めて人目も気にせず涙を流していた。


「……全部、なかったことにできたらいいのに」


そのとき、不意に静かな声が響いた。


「ここで捨てるくらいなら、最初から奇跡なんて願わなければよかったんだ」


麗蘭は驚いて顔を上げる。


そこには、短い髪をポニーテールにまとめた少女が立っていた。スマートフォンを片手に、まっすぐ麗蘭を見つめている。


「だ、誰?」


「私は聖奈。未来を変えるために来たの」


「未来?」


麗蘭は涙をぬぐいながら首をかしげる。


「え、なにそれ。新しい芸能事務所?」


「違う」


「じゃあ……宗教の勧誘?」


「それも違う」


聖奈は小さくため息をついた。


「あなた、本当に楽天的ね」


そう言うと、麗蘭のスマートフォンへ視線を落とす。


「そのスマホ、貸して。どうせ魔導AIが入ってるんでしょ?」


「え、分かるの?」


半信半疑のままスマホを差し出すと、聖奈は迷いなく画面を操作し始めた。


指先は驚くほど速く、まるで誰かと会話でもしているかのように次々と操作を進めていく。


やがて画面を閉じると、静かにスマホを返した。


「これで暴走は止めたわ」


「……え?」


麗蘭は思わずスマホと聖奈の顔を見比べた。


「え、すごっ! どうやったのそれ!? もしかして私、これから魔法少女とかになれちゃう感じ?」


「違う」


聖奈は即座に否定する。


「暴走していた力を止めただけ。それ以上使えば、あなた自身も周囲も、もっと取り返しのつかないことになる」


その真剣な口調に、麗蘭の笑顔が少しだけ曇った。


「……そっか」


少し間を置いて、小さく頭を下げる。


「なんか、ごめん」


「謝るのはまだ早い」


聖奈は静かに言った。


「これからどうするか。それを決めるのは、あなた自身だから」


その後、聖奈は麗蘭を家まで送り届けた。


別れ際、玄関先でふと立ち止まり、静かな口調で告げる。


「あなたには特別な資質がある」


麗蘭は目を丸くした。


「え? 私?」


「そう。もし本気で未来を変える力が欲しいなら、私と一緒に来てほしい」


そう言い残し、聖奈は夜の街へ歩き去っていった。


数日後。


麗蘭は何度もその言葉を思い返していた。


未来を変える。


そんな大それたこと、自分にできるとは思えない。


それでも、あのまま見捨てずに助けてくれた聖奈の姿だけは、どうしても忘れられなかった。


結局、考え抜いた末に彼女はメッセージを送る。


「ねえ」


『何?』


返信は驚くほど早かった。


「なんか私でもできることある? その、未来を変えるってやつ」


少し間を置いて返ってきた答えは、とても簡潔だった。


『もちろん』


『あなたの明るさと行動力は、この世界に必要だから』


その一文を見た瞬間、麗蘭は思わず吹き出した。


「明るさが取り柄ってこと?」


小さく笑ってから、画面へ向かって頷く。


「……ま、何とかなるっしょ!」


こうして麗蘭は、AquaLilyとしてオラクルコードへ加わることになった。


深刻な空気になれば真っ先に冗談を飛ばし、誰かが落ち込めば笑わせようとする。


その天真爛漫さは、ときに周囲を振り回しながらも、不思議と仲間たちの心を軽くしていた。


未来を守るという重い使命の中で、彼女の笑顔は誰にも代えがたい支えとなっていくのである。


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