4-2-15 秘密結社の噂
杏子はある日、自宅のリビングでいつものように地元のニュース番組を眺めていた。
その日の特集は地方選挙。地元ではほとんど無名だった新人議員が、予想を覆して当選したことが大きく取り上げられていた。
解説者たちは「地元密着の堅実な活動が有権者に支持された」と口を揃えて分析している。
だが、その説明は杏子にはどこか腑に落ちなかった。
「最近、こういうニュース多くない?」
テレビを消し、ソファへ身を預けながら独り言のようにつぶやく。
「なんていうか……やたら同じ方向の意見ばっかり流れてくる感じがするんだよね」
その声に、隣で雑誌を読んでいた従姉妹の美夜子が顔を上げた。
「どういう意味?」
大型連休で実家へ帰る途中、杏子の家へ立ち寄って一泊する予定だった美夜子は、地方誌でライターとして働いている。取材で町を歩き回ることも多く、噂話や地域の空気には人一倍敏感だった。
「ニュースとかSNSとかさ。急に同じ話題ばっかり盛り上がることってあるでしょ? 誰かが空気を作ってるみたいで、ちょっと気持ち悪いなって」
美夜子は雑誌を閉じ、小さく頷いた。
「それ、私もちょっと思ってた。特にあの議員さんね。本当に無名だったのに、急にSNSで『正義の味方』みたいに持ち上げられ始めたじゃない」
杏子は身を乗り出す。
「やっぱり?」
「もちろん、本当に支持が広がっただけかもしれない。でも取材先では、『誰かが裏で仕掛けてるんじゃないか』なんて話も聞いたわ」
「裏で?」
「例えば、AIを使って話題を広げるとか、世論を誘導するとか。今なら技術的には珍しい話じゃないしね」
「AI?」
杏子は少し拍子抜けしたように笑う。
「そんなの今どき普通でしょ?」
「そうね。AIそのものは珍しくないわ。でも、それを使って世論を操る人がいるとしたら、少し話は変わってくる」
美夜子は肩をすくめた。
「フェイクニュースを流したり、特定の候補だけを目立たせたり。そういう噂は昔からあるし」
「まあ、ありそうな話ではあるね」
杏子はそれ以上興味を示さず、再びソファへ寝転がった。
すると美夜子は少しだけ声を潜める。
「もっとも、これは本当に都市伝説なんだけど」
「今度は何?」
「そういう世論操作を専門にやってる連中がいる、なんて話もあるのよ」
杏子は思わず吹き出した。
「秘密結社ってやつ?」
「そうそう」
美夜子も苦笑する。
その時だった。
隣で静かに本を読んでいた小桜の手が止まる。
「へぇ……AIを使う秘密結社なんているんだ」
小桜は目を輝かせた。
「その組織、何て名前なの?」
美夜子は少し考えてから答えた。
「確か、オラクル……コードだったかな」
「もっと詳しく聞かせて」
急に身を乗り出した小桜へ、美夜子は少し戸惑ったように笑った。
「本当に噂話よ? SNSの裏で暗躍してるグループで、AI技術を使って世論を操作してるとか、気に入らない相手を社会から消してるとか……そんな都市伝説」
「都市伝説でも、火のないところに煙は立たないって言うじゃない」
小桜は興味を隠そうともせず、さらに問い掛ける。
一方の杏子は呆れたように立ち上がった。
「はいはい、好きに盛り上がって」
嬉しそうに話を聞く小桜を一瞥し、小さく笑う。
「都市伝説なんて聞けば、すぐその気になるんだから」
それ以上気に留めることもなく、軽く手を振って自室へ戻っていった。
残された小桜と美夜子は、その後もしばらくリビングで話を続ける。
都市伝説として語られた『オラクルコード』。
そして、その背後にある”AIで人を操る”という噂話。それは笑い飛ばすには、どこか現実味を帯びすぎていた。
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