表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/79

4-2-3 ゼノンの魔法

プレゼンテーションが始まると、スクリーンにはゼノン・サイエンスが新たに開発した高出力エネルギーデバイスが映し出された。


従来技術を大きく上回る変換効率。


革新的なエネルギー制御システム。


次々と示される実験結果に、会場からは感嘆の声が上がる。


「すごいね! これ、本当に魔法みたい!」


隣で恵麻が目を輝かせながら小声でつぶやく。


「……そうだね」


杏子は苦笑しながら答えた。


「確かに、魔法みたいだ」


だが、その笑みはすぐに消えた。


説明が進むにつれ、胸の奥に言いようのない違和感が広がっていく。


理論に穴はない。


計算式も整っている。


だから会場の技術者たちも誰一人として疑わない。


だが杏子は最後に示された実験結果を見た瞬間、眉をひそめた。


──伸びすぎている。


数式が間違っているわけではない。


実験方法も不自然ではない。


それでも、この出力を得るために必要な”重さ”が、どこか足りない。


具体的に説明できるわけではない。


だが、杏子は前世で、大規模な魔法を幾度となく扱ってきた。


膨大な魔力がどれほどの現象を生み、その代償としてどれほどの力を必要とするのかは、理屈ではなく感覚として身体に刻み込まれている。


だからこそ分かる。


あの出力を、この程度の入力で維持できるはずがない。


まるで、どこかから都合よくエネルギーが湧き出しているかのような説明だった。


もちろん、そんなことはあり得ない。


魔法ですら、そんな理屈は存在しないのだから。


やがて発表が終わり、来場者たちは思い思いに歓談を始めた。


「ねぇ、杏子。どう思った? すごかったよね?」


恵麻が期待に満ちた表情で尋ねる。


杏子は少し考え込んでから答えた。


「……正直に言うと、引っかかる」


「引っかかる?」


「うん。あのデバイスの効率」


杏子は展示パネルへ視線を向けた。


「あの数値が本当なら、今までのエネルギー工学そのものがひっくり返る」


「それだけ画期的ってことじゃないの?」


恵麻は素直に聞き返す。


「そういう話じゃない」


杏子はゆっくり首を振った。


「技術が進歩することと、理屈が消えることは別なの」


そこまで口にしてから、しまったと思う。


今の言い方では説明になっていない。


恵麻は案の定、不思議そうな顔をしていた。


「たとえばファンタジーでもさ」


杏子は慌てて言葉を探す。


「魔法だから何でもできる、なんて世界は少ないでしょ? ちゃんとルールがある。

現実だって同じ。便利になることはあっても、急に法則そのものが消えたりはしない」


恵麻はしばらく考え込み、それから首をかしげた。


「うーん……難しいなぁ」


「私も専門家じゃないから」


杏子は肩をすくめて笑う。


「ただ、何となく変だと思っただけ」


その”何となく”の正体を、自分だけは知っていた。


魔法を知っているからこそ、おかしい。


それだけは確信できる。


—-


その後、二人は展示ブースを一通り見て回り、再びアラン・ヒューストンと顔を合わせた。


「お二人とも、今日は楽しんでいただけましたか」


アランは人当たりのいい笑顔を浮かべる。


「はい!」


恵麻は嬉しそうに頷いた。


「プレゼン、本当に感動しました!」


「ありがとうございます」


アランは満足そうに微笑む。


「あれは我々の技術の結晶です。近い将来、もっと皆さんを驚かせられるでしょう」


その言葉を聞き終えると、杏子は静かに口を開いた。


「あの、一つだけ聞いてもいいですか」


「もちろん」


「プレゼンで示されていたエネルギー効率なんですが……あれ、本当に実測値なんですか?」


アランの目がわずかに細くなった。


しかし、その表情はすぐに営業用の笑みに戻る。


「ええ。厳密な検証を経たデータです。安心していただいて結構ですよ」


「そうですか」


杏子は淡々と続けた。


「でも、実験条件や誤差まで考えると、あの数値は少し出来過ぎているように思えたんですが」


一瞬だけ沈黙が落ちる。


アランは笑みを崩さない。


「鋭い視点ですね。ですが、そこから先は企業秘密です。申し訳ありません」


丁寧な受け答えだった。


何一つ不自然な言葉はない。


それなのに杏子は、胸の奥で警鐘が強く鳴るのを感じていた。


この男は答えていない。


質問をかわしただけだ。


—-


帰り道。


恵麻はパンフレットを嬉しそうに抱えながら歩いていた。


「やっぱりすごい会社だったね!」


その笑顔を見て、杏子は小さくため息をつく。


「……あの男、やっぱり信用できない」


「またそんなこと言う」


恵麻は苦笑する。


「科学って奥が深いし、私たちには分からないこともあるんじゃない?」


杏子は答えなかった。


分からないから疑っているのではない。


分かるから、おかしいと思っている。


だが、その理由だけは口にできなかった。


恵麻は人を疑うことを知らない。


だからこそ、狙われる。


その予感は、セミナーの日よりもはるかに強くなっていた。


もし自分の考えが当たっているなら、ゼノン・サイエンスはまだ何かを隠している。


そして、その中心に恵麻が巻き込まれるようなことだけは、絶対に避けなければならない。


杏子は静かに決意する。


次に動きがあれば、自分の目で確かめる。


あの”魔法のような技術”が何なのか、その正体を暴くために。

ブクマで小桜たちの応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ