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真夜中の迷い猫ラジオ 番外編  作者: もも


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8/9

本編回収編:女性の霊③

 問題は、形見がマンションの地下に埋まっているということだった。

 

 その夜、三人は車の中で頭を突き合わせた。

 

「建物の地下となると、勝手に掘るわけにはいかないですね」

 蓮が腕を組んで言った。

 

「管理会社に話をするしかないですが……信じてもらえるかどうか」

 

「どう説明するんですか」

 花が訊ねた。

 

「建設前にその土地に住んでいた方の遺品が、地下に埋まっている可能性がある、と言います」

 蓮は真面目な顔で続けた。

 

「嘘じゃないですし、遺品となれば管理会社も無視はできないはずです。あとは俺が粘り強く交渉します」

 

「任せてもいいですか」

 

「それが得意なので」蓮は静かに笑った。

 

 それから数日後、蓮は管理会社との交渉を終えて花に報告した。

 

「許可が出ました。来週、一緒に立ち会ってもらえますか」

「交渉、大変じゃなかったですか」


「まあ、三回くらい押し問答しましたけど」

 蓮はあっさりと言った。

 

「でも、遺品の可能性があるとなれば、放置するわけにもいかないですから。最終的には分かってもらえました」

 

 花はその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなった。霊感もなく、怪異の世界とは無縁なはずの蓮が、それでも諦めずに交渉し続けてくれた。それだけで十分すぎるほどだった。

 

 当日、作業員が丁寧に床下を掘り起こしていくのを、三人は固唾を呑んで見守った。

 

 土を一層ずつ、慎重に取り除いていく。

 深さ三十センチほどのところで、作業員のスコップが何かに触れた。

 

「……あります」

 作業員が静かに言った。

 

 出てきたのは、小さな金属の箱だった。長年土の中にいたせいで表面は錆びていたが、蓋はしっかりと閉まっていた。

 

 蓮が手袋をはめて、作業員から箱を受け取った。

 花の隣で、みやびが息を詰めた。

 

「気配が、強くなっています」

 みやびが小さく言った。

 

「近くにいます。ずっと、この瞬間を待っていたんだと思います」

 

 花は胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。

 蓮が、慎重に蓋を開けた。

 

 中には、二つのものが入っていた。

 

 一枚の写真と、金色の指輪だった。


 蓮がそっと写真を取り出した。


 少し色褪せてはいたが、二人の女性の顔は、はっきりと見て取れた。


 年配の女性と、その隣で微笑む中年の女性。肩を寄せ合って、どこか楽しそうに笑っていた。

 

 母と娘だと、一目で分かった。

 

「……仲良さそうですね」蓮が静かに言った。

 

「はい」

 花は写真をじっと見つめた。

 

「きっと、仲の良い親子だったんですね」

 次に、蓮が指輪を取り出した。

 

 長年土の中にいたとは思えないほど、美しい輝きを保っていた。柔らかな金色が、作業灯の光を受けてしっとりと輝いている。

 

「24Kですね」

 蓮が静かに言った。

 

「純金は錆びないから、こうして残るんです。ずっと、ここで待っていたんですね」

 

 その言葉が、花の胸に深く刺さった。

 指輪も、写真も、ずっとここで待っていた。掘り出しに来るはずだった人を、何年も、何年も待ち続けていた。

 

 花は蓮から箱をそっと受け取り、両手で包むように抱きしめた。

 

「……長い間、待たせてしまってごめんなさい」

 花は箱に向かって、静かに言った。

 

「ちゃんと、ラキのところへ届けますよ。お母さんの写真も、指輪も、全部一緒に」

 

 その瞬間、みやびが静かに目を閉じた。

 しばらくの間、誰も言葉を発しなかった。

 

 やがて、みやびがゆっくりと目を開けた。その瞳が、うっすらと潤んでいた。

 

「……ありがとう、と言っています」

 みやびは静かに言った。

 

「やっと、と。本当に、やっと、と言っています」

 それから、少しの間を置いて、みやびは続けた。

 

「ラキに、会いに行きます、と」

 部屋の空気が、ふっと軽くなった。

 

 凍りついていた冷気が、嘘のように消え去った。

 代わりに、どこからともなく、温かい風が吹き抜けた気がした。

 

 蓮が、視線を落としたまま、掠れた小さな声で言った。

 

「……良かったですね」

「うん」

 花は箱を胸に抱いたまま、目元をそっと拭った。

 

「本当に、良かったです」

 

 みやびは何も言わなかった。ただその大きな瞳が、静かにきらきらと光っていた。

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