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真夜中の迷い猫ラジオ 番外編  作者: もも


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9/9

本編回収編:女性の霊④

 その夜、三人は車の中でラキの場所をどうやって探すか話し合った。

 

 するとみやびが静かに言った。

 

「聞いてみます」

 みやびは目を閉じた。しばらくの間、静かに何かに耳を澄ませるように、微動だにしなかった。

 

 やがて目を開けて、「案内してもらえるそうです」と言った。

 

 翌日、三人は再びマンションへと向かった。

 女性の霊は、エントランスの前で待っていた。

 花にははっきりと見えた。

 

 いや、見えただけではなかった。昨日よりも、さらにはっきりと。輪郭も、表情も、仕草も、すべてが鮮明だった。

 

 花は思わず、隣のみやびをそっと見た。

 みやびが、小さく微笑んだ。

 

「……見えますか」


「見える」

 花は静かに答えた。

 

「はっきり、見えます」

 

 最近、なんとなく見えやすくなってきていた。気のせいかもしれないと思っていた。でも今、花は確信した。

 これは、気のせいじゃない。

 

 女性の霊は、花とみやびを見てから、ふと遠くを見るような目をした。

 

 それから、ゆっくりと両腕を丸めた。

 小さな命を抱きしめるような仕草だった。

 

 何も言わなかった。けれど、その腕の形が、その表情が、すべてを語っていた。白くて、小さくて、甘えん坊な犬。どこへ行ってもついてきた、大切な存在。

 

 女性の霊の顔は、その瞬間だけ、ひどく穏やかだった。愛おしさで、くしゃりと崩れそうなほど、柔らかかった。

 

「ラキ、可愛かったんですね」

 

 花は静かに言った。

 

 女性の霊は答えなかった。

 ただ、丸めた腕を、もう一度だけ、そっと抱きしめるように動かした。

 それで十分だった。

 

 女性の霊は、静かに歩き始めた。

 

「ついてきて」

 

 三人で女性の霊の後を追った。

 女性の霊は、マンションを出て、静かな住宅街を進んでいった。


 花にははっきりと見えた。

 みやびにも見えていた。


 蓮には見えなかったが、花が「右です」「次の角を左です」と静かに伝えると、黙って従った。

 

 十分ほど歩いたところで、女性の霊が足を止めた。

 そこには、こぢんまりとした霊園があった。

 花が看板を見ると、「永代供養墓 自動搬送式」と書かれていた。

 

「ここに、ラキが」

 花が訊ねると、女性の霊は静かに頷いた。

 

 蓮がすぐに管理事務所へ向かい、手続きを進めた。不動産屋として書類仕事には慣れていたし、細かいことは何とかなった。

 

 担当者が丁寧に対応してくれて、写真と指輪を小さな布に包んで、ラキの骨壷と一緒に納めてくれた。

 

 花は、その一部始終を静かに見守った。


 女性の霊も、花のすぐ隣で、じっとその様子を見つめていた。両腕をまた静かに丸めて、今度はその腕の中に、見えない何かをそっと抱きしめるように。

 

 担当者が「納骨が完了しました」と告げた瞬間、女性の霊が、ふっと息を吐いた。

 

 長い、長い息だった。

 何年分もの、緊張と不安と孤独が、一度に溶け出していくような。

 

 花はその横顔を見つめた。


 女性の霊の輪郭が、少しずつ、柔らかくなっていくのが分かった。

 

 怒りも、拒絶も、途方に暮れた表情も、すべてが溶けて、ただ穏やかな顔だけが残っていた。

 

 それから、ゆっくりと、その輪郭が光を帯び始めた。

 夜の闇に溶けるのではなかった。

 

 温かい、柔らかい光だった。まるで長い間凍りついていたものが、ようやく春の日差しに当たって溶けていくような、そんな光だった。

 

 女性の霊は最後に、花を見た。

 言葉はなかった。

 

 ただ、その目が、すべてを語っていた。

 ありがとう、と。

 やっと、ラキに会いに行けます、と。

 

 光は、静かに、静かに広がって——そして、消えた。


 後には、穏やかな空気だけが残った。

 

 花は、しばらくの間、その場所をじっと見つめていて、蓮が、そっと花の隣に並んだ。

 

「……成仏しましたか」

「はい」


 花は微笑んだ。

 

「ラキのところへ、行きました」

「そうですか」


 蓮は静かに頷いた。それから、霊園の空を見上げた。


「……良かったですね。三人一緒に、やっと」

「うん」

 

 花も空を見上げた。

 青く、どこまでも澄んだ空だった。


 みやびが、花と蓮の間にそっと立った。

 その大きな瞳が、柔らかく細められていた。

 

「お母さんと、ラキと、三人で、ようやく一緒になれましたね」

 

 風が、優しく吹き抜けた。


 まるで、返事をするように。




      おわり

 

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