本編回収編:女性の霊①
その話を蓮が持ち込んできたのは、よく晴れた休日の昼下がりのことだった。
こたつの前に座った蓮は、いつもより少しだけ表情が硬かった。
「新築マンションの案件なんですけど」
蓮はスマートフォンの画面を花に見せた。
「駅から徒歩五分、築一年、日当たり良好。条件は完璧なんです。なのに、入居者が全員、一ヶ月以内に出ていってしまって」
「理由は何て言ってるんですか」
「みんな口を揃えて、なんとなく居心地が悪いって。怖いとか、気持ち悪いとか、そういう具体的な言葉じゃないんですよね。ただ、なんとなく、いられない感じがするって」
蓮は少し間を置いた。
「俺も一回、内見の案内で入ったんですけど」
「感じましたか」
「……はい」
蓮は珍しく、はっきりとそう言った。
「玄関を開けた瞬間から、なんか、歓迎されていない感じがして。霊感とか全然ない俺でも、はっきり分かるくらい」
花はみやびを見上げた。
みやびは静かに頷いた。
「行きましょう」
その週末、三人でそのマンションへと向かった。
外観は真新しく、清潔感があった。エントランスのガラス扉も、共用廊下の床も、まだ傷一つない。条件だけ見れば、確かに申し分のない物件だった。
蓮がエントランスのドアを開けた瞬間、花は足を止めた。
「……花さん?」
「少し待ってください」
花は目を閉じた。
玄関の内側から、重たい空気が滲み出してくるのを感じた。冷たくて、暗くて、まるでこちらを押し返そうとするような、強い意志を持った気配だった。
みやびが花の隣で、静かに息を詰めた。
「強いですね」
みやびは低く言った。
「怒っています。それも、かなり」
「怒っている、というのは……」
「ここに踏み込んでほしくない。そういう強い意志を感じます」
蓮が神妙な顔で二人を見比べた。
「俺にも、なんとなく分かります。入りたくない感じがする」
「でも、入ります」
花は目を開けて、真っ直ぐ前を向いた。
「行きましょう」
三人でエントランスを抜け、廊下を進んだ。
一歩進むごとに、気配が濃くなっていった。蓮が無意識に歩調を緩めるのが分かった。みやびは花のすぐ隣で、着物の袖をそっと握り締めていた。




