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真夜中の迷い猫ラジオ 番外編  作者: ゆもニャ


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番外編④ :六匹の足音

 新しい家に来て、最初に変わったのは、音だった。


 マンションのときも賑やかだったが、一軒家は違った。


 廊下がある。和室がある。縁側がある。猫たちが走れる場所が、格段に増えた。


 朝、花が目を覚ますと、どこかで足音がしていた。


 トトトトッ。


 それからドタッ。


 それからまたトトトトッ。


 六匹が、家の中を縦横無尽に駆け回っていた。




 蓮がキャットウォークと縁側に脱走防止柵を取り付けたのは、引っ越しから一週間後だった。


 「DIYが得意なんですよ、昔から」と言って、週末に材料を買ってきた。


 花は「本当に得意なんですか」と聞いた。


 蓮は「まあ見ていてください」と言った。


半日かけて、縁側にイレクターパイプを組み立て、その枠に木の板やすのこ、防獣ネットをかぶせて、結束バンドで固定する。

 これで脱走防止柵が出来上がった。その後、リビングの壁に棚板を渡していった。猫が通れる幅で、高さを変えながら、壁を一周するように。最後に、キャットウォークからロフトに上がれる足場も作った。


「……すごいですね」と花は言った。


「本領発揮です」と蓮は言った。


「不動産と、DIYと、怪異対応が、俺の三本柱です」


「おかしな三本柱ですね」


「そうですね」と蓮は言った。


 キャットウォークが完成すると、猫たちが一斉に興味を示した。最初に上がったのはラテだった。次がのあ。そらが慎重に確認してから上がった。ルウがそらの後ろにべったりついていった。モカが一番最後に、おそるおそる上がって、景色に満足そうにした。


 うにだけが、下から見上げていた。


「うには上がらないんですか」と蓮は言った。


「うには、みやびのそばにいたいんだと思います」と花は言った。


 みやびが和室の縁側に座っていた。うにが縁側で丸まっていた。


「なんか、うにだけ別の時間軸にいますね」と蓮は言った。


「みやびが三百四十二歳だから、うにも影響されているのかもしれないです」と花は言った。


「それはどういう理屈ですか」と蓮は言った。


「猫なので」と花は言った。


「なるほど」と蓮は言った。納得した顔をした。




 猫たちは、それぞれの定位置を決めていった。


 そらは、リビングのソファの一番端。日当たりがよくて、花の帰りが見える場所。


 のあは、キャットウォークの一番高いところ。部屋全体が見渡せる。


 うには、みやびの和室。縁側で、みやびの隣。


 ラテは、蓮の枕元。蓮が寝るときはいつも一緒に丸まっている。


 モカは、キッチンの棚の上。食べ物の気配に敏感。


 ルウは、いつもそらの近く。そらが動くと、ルウも動く。


「ルウ、そらのことが好きなんですかね」と蓮は言った。


「好きなんでしょうね」と花は言った。


「オスとメスだから、そういうことですか」と蓮は言った。


「猫に聞いてください」と花は言った。


 そらがソファで丸まっていた。ルウがそらの隣に来て、そらの頭を舐めた。そらが迷惑そうに顔を動かした。ルウが気にせずまた舐めた。


「仲良いですね」と蓮は言った。


「ええ、本当に」と花は言った。




 みやびが和室に馴染んでいくのは、ゆっくりだったが、確かだった。


 最初の頃は、和室以外にはあまり来なかった。でも少しずつ、リビングにも顔を出すようになった。こたつに入るようになった。花と蓮のそばに座るようになった。


 みやびが変わった、というより、みやびが解けていった、という感じだった。


 長い時間をかけて、誰かの家にいさせてもらいながら、ずっと緊張していた何かが、ここに来てようやく解けていった。


 ある夜、みやびがリビングで花の隣に座って、テレビを見ていた。


 猫が画面に映ったとき、みやびが「あ」と言った。


「どうしましたか」と花は聞いた。


「猫が、画面の中で走っていたので」と、みやびは言った。


「面白いですね、テレビ」


「みやびはテレビを見たことなかったんですか」


「あまり、ちゃんと見たことがなかったです」と、みやびは言った。


「いつも、後ろから見ていたので。隅の方から」


 花はみやびを見た。


「今は、隣から見ています」と花は言った。


 みやびが、少し間を置いて、「はい、隣から見てます」と言った。


 そらが、みやびのもう片方の隣に来て、丸まった。


 三人と一匹で、テレビを見た。




 ある週末の午後、蓮が言った。


「そういえば、この家に来てから、怪異に一件も遭遇していませんね」


「そうですね」と花は言った。


「みやびさんがいるから、寄ってこないんですかね」


「どうですか」と花はみやびに聞いた。


「そういうわけではないと思います」と、みやびは言った。


「ただ、この家は、空気が整っているので。怪異が入りにくいのかもしれないです」


「空気が整っている」と蓮は言った。


「それは、みやびさんのおかげですか」


「みなさんのおかげです」と、みやびは言った。


「猫も含めて」


 のあがキャットウォークから下りてきた。モカがキッチンの棚から降りた。ラテがどこかから走ってきた。ルウがそらを起こした。うにがみやびの和室から顔を出した。


 六匹が、リビングに集まってきた。


「全員集合ですね」と花は言った。


「珍しいですね」と蓮は言った。


「みんな同じ場所に来るのは」


 六匹が、それぞれの場所に落ち着いた。


 蓮とみやびと花が、それぞれそこにいた。


 庭の木の影が、縁側に落ちていた。


 静かな午後だった。でも、静かすぎなかった。


 足音が、また聞こえた。


 トトトトッ。


 ルウがそらを追いかけ始めた。


 この家の、六匹の足音が、また始まった。

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