表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/13

第9話 翼が、ボクの隣で戦い始めた

 空港を出た瞬間、世界の壊れ方が変わった。


 信号が全部消えていた。幹線道路のど真ん中で車が止まっている。ドアが開いたまま、運転席は空っぽだ。コンビニのガラスが割れて、棚が空になっていた。電柱が一本、根元から倒れて道を塞いでいる。


 でも——人がいた。


 逃げる人。泣いている人。そして——戦っている人。


 交差点の先で、作業着を着た男が魔物と向き合っていた。素手で。ATKがどれほどあるのか知らないが、男の拳が魔物に命中するたびに光が散った。男は一般人だ。でも自衛隊より強い。


(これが——能力覚醒した世界だ)


 颯太の後ろで陰山(かげやま)が「やばい」と呟いた。(いわ)は黙って歩いていた。さっきから黙ったままだ。



 大通りを北東に進んで10分ほどで、索敵スキルが反応した。


(前方50m——大型、2体)


「止まれ」


 颯太が低く言った。全員が止まった。


 路地の角から、黒い影が這い出てきた。空港で見たものより一回り大きい。足が六本ある。頭がない。光を吸い込む黒い表面が、ゆっくりとこちらに向かってきた。


 小鳥遊めい(たかなしめい)が悲鳴を上げかけた。橋本七虹(はしもとなにこ)が口を塞いだ。


「翼」


 颯太は翼だけに聞こえる声で言った。


「右の角から2体目が来る。あと3秒。まず左を頼む」


 翼が一瞬颯太を見た。


「……わかった」


 翼が前に出た。


 魔物との距離が10メートルを切った瞬間、翼が地を蹴った。SPD72——颯太より速い。翼の右拳が魔物の側面に叩き込まれた。


 その瞬間、翼の拳から光が散った。


 青白い光の粒が飛び散り——魔物の体に亀裂が入った。


「……っ!」


 翼が自分の手を見た。指先が青く光っている。UIに新しいスキルが表示されていた。


蒼井翼 STATUS(スキル覚醒)

Lv5

HP:195

ATK:150

DEF:88

SPD:72

スキル:体力強化Lv3 / 打撃強化Lv1【NEW】


「これが……スキルか」


 翼が呟いた。


(ATK150。打撃強化込みで——魔物に通る)


 颯太は前を見た。右の角から2体目が出てきた。


「翼、右!」


 翼が振り返らずに右に踏み込んだ。2体目の魔物の首元に拳を叩き込んだ。また光が散った。魔物が動きを止めた。


 颯太は1体目に近づいた。亀裂が入った魔物は動きが鈍っている。ATK22——普段は効かないが、亀裂に叩き込めば違う。颯太はその亀裂に手を当て、全力で押した。


 魔物が崩れた。


 2体目も翼の連打で動かなくなった。


 静寂。


 クラスメイトたちが固まって見ていた。誰も声を出さなかった。


「……すげえ」


 誰かが呟いた。


 翼が颯太の隣に戻ってきた。息が少し乱れていた。


「俺たち、結構いいコンビだな」


「……そうだな」


(そうだ。翼がいれば——詩を守れる確率が上がる)



 少し歩いたところで、翼が颯太に並んだ。


「なあ、夜刻」


「なんだ」


「お前、魔物の動きが見えてるよな。索敵スキルだけじゃないだろ」


 颯太は少し間を置いた。


「索敵スキルだ」


「……2体目が角から来ること、わかってたろ。索敵で出るのか、そういうの」


「出る」


 翼はしばらく黙って歩いた。それから言った。


「……お前、なんか変なんだよな。最初から」


「そうか」


「悪い意味じゃない。ただ——お前だけが、最初から落ち着いてた。空が割れた瞬間から」


 颯太は何も言わなかった。


(18回目だから落ち着いてた。でもそれは言えない)


「まあ、どうでもいい。お前が落ち着いてるなら、俺も落ち着いてられる」


 それだけ言って、翼は前を向いた。


(こいつは——本当に信頼できる)



 休憩のために路地に入った時、詩が颯太の隣に来た。


「さっき、怖かった」


「……ごめん」


「謝らなくていい。守ってくれたんだから」


 詩がUIを開いた。颯太は横から覗いた。


日向詩(ひなたうた) STATUS

Lv3

HP:45

ATK:8

DEF:10

SPD:15

スキル:共鳴感知Lv1


「「共鳴感知」って何なのか、よくわからないんだけど」


 颯太は目を細めた。


(共鳴感知——守護共鳴と関係があるのか。詩のスキルが「感知」系なのは……偶然じゃないかもしれない)


「……詩のスキルは、たぶん重要だ」


「え? なんで?」


「まだわからない。でも——絶対に重要だと思う」


 詩が「そっか」と言って、UIを閉じた。それからまた颯太を見た。


「颯太くん、さっきより顔色良くなったね」


「……翼がいると、心強い」


「そうだね」


 詩が少し笑った。颯太も、少しだけ笑った。


(一人じゃない。翼がいる。詩がいる。——ボクは、帰れる)


 大阪の空はまだ割れている。でも颯太のUIには、東京への道が光り続けていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

詩のスキル「共鳴感知」。颯太が「絶対に重要だ」と感じた理由は、まだ先の話です。

次話もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ