第5話 ループ5回目
5回目だ。
颯太はUIを開いた。最初に確認するのが習慣になりつつあった。
STATUS
Lv1
HP:1
ATK:1
DEF:1
SPD:1
スキル:なし
経験値:11/100
(変わっていない。前回のループから引き継いだ経験値11はそのままだ)
死に戻りの仕組みが、少しずつ見えてきた。
毎回、同じ地点に戻る。10時29分21秒——空が割れる1秒前。記憶は全部引き継ぐ。経験値も引き継ぐ。レベルが上がれば、おそらくステータスも変わる。
(これはバグじゃない。仕様だ。この世界のシステムが、ボクだけにこの能力を与えている)
「なぜ」は、まだわからない。でも「どう使うか」は、考えられる。
今日——5回目のループで、颯太がやることは一つだ。
(守ろうとするのをやめる。今回は、見る)
◆
空が割れた。
颯太は動かなかった。
ベルトも外さない。立ち上がりもしない。座席に座ったまま、目だけを動かした。UIのログを開き、空き領域にメモを書き始めた。プログラムのデバッグをするように。
(時刻:10:29:22。空間の歪みが窓から侵入。魔物の実体化は窓から約0.5秒後)
機内が悲鳴に包まれた。磐が叫んでいる。陰山が泣いている。颯太の隣で詩が息を呑んだ。
「颯太くん——」
(今は、見ていなければ)
辛かった。詩の怯えた声が聞こえるのに、振り向かないのは。でも颯太は窓を見続けた。
(魔物の出現位置:22A・22B側の窓。つまり——詩の座席の真横だ。偶然か?)
黒い腕が窓を砕いた。颯太は目を細めた。観察した。
(速度:SPD換算で推定500以上。出現から詩への到達まで0.8秒。この8秒前に窓の外に影が見え始める)
腕が詩に向かった。一直線に。他の乗客には目もくれず。
(……ランダムじゃない)
颯太の中で、何かが引っかかった。
(5回とも、魔物は必ず詩を最初に狙う。他の席の人間を無視して、座席22Bの詩だけに向かう。これはランダムな攻撃じゃない。詩が——何かの理由でターゲットに設定されている)
詩の声が止まった。
颯太は目を閉じた。手がテーブルの上で震えていた。観察者でいようとしたのに、詩の声が止まった瞬間だけは、体が反応した。
(慣れてない。5回目でも、まだ慣れていない。それでいい)
NOTICE
スキル発動:死に戻り
リセット地点へ移行します
白くなる前に確認した。
経験値:18/100。
(今回は観察に徹した。経験値は11から18に増えた。守ろうとした前回より少ない。でも——今回のデータの方が価値がある)
◆
6回目。
また同じ場所。また青い空。また詩が隣にいる。
颯太はUIのメモを開いた。5回分のループで蓄積したデータが並んでいる。
【LOG:魔物の行動パターン】
・出現位置:常に22A/22B側の窓
・最初のターゲット:22B(日向詩)固定
・到達時間:出現から0.8秒
・事前兆候:8秒前に窓外に影
・颯太のSPD1では迎撃不可能(差:499以上)
(わかったこと:詩は狙われている。偶然じゃない。なぜ詩なのか——それが次の問いだ)
解けない謎が一つ増えた。でも颯太は不思議と焦らなかった。
プログラムのデバッグと同じだ。バグの場所が特定できれば、修正方法は必ず見つかる。
詩を見た。文庫本を膝の上に置いて、窓の外を眺めていた。雲の上の景色が好きなのかもしれない。ループを重ねるごとに、颯太はそういうことを少しずつ覚えていく。詩が右側を向いてぼんやりする癖。栞の代わりに指を挟む読み方。笑う時に少し首を傾ける仕草。
(全部ゼロから積み上げてきた。詩はボクのことを何も知らないのに、ボクはキミのことを少しずつ知っていく)
不公平だと思う。でも——それがボクに許された唯一の特権だ。
詩がふと颯太を見た。
「……なに考えてるの? ずっと難しい顔してる」
颯太は少し考えてから、答えた。
「どうしたら、キミを守れるか」
言ってから、しまったと思った。直接的すぎる。詩が目を丸くした。
「……え? 守るって、何から?」
「……まあ、なんでも」
詩は少し黙って、それから小さく笑った。
「颯太くんって、なんか変だね」
「……そうだな」
(変で結構だ。ボクは何十回でも同じ1秒前に戻って、キミが笑える世界を作る)
空が割れる一秒前。颯太はUIのメモに、新しい一行を追加した。
(問い:なぜ詩が最初に狙われるのか——)
この問いの答えが、全ての核心に繋がっていると颯太は感じていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
「ランダムじゃない」——なぜ詩が毎回最初に狙われるのか。この問いの答えが、全ての核心に繋がります。
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