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第3話 ループ3回目

 3回目だ、と颯太は思った。


 窓の外の空が青い。隣に詩がいる。ポケットに告白メモがある。全部同じ。全部、また同じだ。


 でも——今回は、少し違うことをする。


 颯太はUIを開いた。前の2回は困惑して眺めるだけだったが、今度は違う。理系の頭を使う。これはデータだ。読み解ける情報だ。


STATUS

Lv1

HP:1

ATK:1

DEF:1

SPD:1

スキル:なし


(HP:1——つまりボクは一撃で死ぬ。ATK:1、DEF:1、SPD:1——全部最低値。でも「1」は「0」じゃない。ゼロじゃないなら、上がる余地がある)


 颯太は時計を確認した。10時29分21秒。


 1秒後に、空が割れる。


 そして——22秒後に、詩が死ぬ。


(22秒。何ができる)


 頭の中でシミュレートした。ベルトを外すのに約3秒。立ち上がって体勢を整えるのに2秒。詩の席まで最短ルートで4秒。魔物が出現する窓までの距離と迎撃に必要な攻撃力——


(無理だ。ATK:1では魔物に傷ひとつつけられない)


 答えは出ていた。今のステータスでは、何をしても詩を守れない。でも——颯太はその結論を、前の2回とは違う目で見ていた。


(「今は」無理なだけだ)



 空が割れた。


 3回目でも悲鳴は怖い。揺れは体に堪える。それでも颯太の目は、パニックの機内を観察していた。


 クラスメイトたちがステータスを確認し合う。磐が大声で自分の数値を叫んでいる。陰山が颯太のUIを覗きに来る前に、颯太はUIを閉じた。


(どうせ笑うだろ。見せる必要はない)


 その代わり——颯太は詩を見た。


 窓の外の異形が、詩の方へ向かっている。まだ見えない。まだ窓の向こうだ。でも颯太には、それが来ることがわかっている。2回見たから。


(来る。あと15秒で、あの黒い腕が窓を破る)


 颯太はベルトを外した。立った。機体が傾く前に通路に出た。前回より1秒早い。


 詩の座席まで走った。隣の清水(しみず)が「え」と声を上げた。颯太は構わず、詩の前に立った。


 詩が颯太を見上げた。


「颯太くん……? どうして——」


 颯太は答える余裕がなかった。窓を見ていた。


 来る。


 来る——。


 黒い腕が窓を砕いた。颯太は体を張った。詩をかばうように両腕を広げた。


 そして——


 HP:1。


 触れた瞬間に、颯太は弾き飛ばされた。紙切れのように。壁に叩きつけられた。息ができない。視界が歪む。骨が折れた感覚がある。


 それでも颯太は詩を見た。


 黒い腕は颯太を弾いた後、また詩に向かっていた。


(——届かなかった)


「颯太くん!」


 詩の声が聞こえた。颯太の名前を呼んでいた。


 そのまま——詩の声が止まった。


 颯太は床の上で、目を閉じた。体が動かない。詩が死んだ音が、耳の奥に残っていた。


(ボクが弾き飛ばされるのに0.3秒もかからなかった。ATK:1では、体を張っても意味がない。壁にしかなれない。それも、紙の壁だ)


 怒りが来た。


 詩への怒りじゃない。魔物への怒りでもない。自分自身への怒りだ。こんなステータスで何ができると思っていたのか。こんな数値で詩を守れると思っていたのか。


NOTICE

スキル発動:死に戻り

リセット地点へ移行します


 白くなる前に、颯太は一つだけ数字を確認した。


 レベルアップの経験値ゲージ。わずかだが、動いていた。


(……増えてる)



 4回目。


 また同じ場所。また同じ青空。また詩が隣にいる。


 颯太はUIを開いた。


STATUS

Lv1

HP:1

ATK:1

DEF:1

SPD:1

スキル:なし

経験値:3/100


(3。今回の行動で3入った。じゃあ100集めればLv2になる。Lv2になれば何が変わる。どこまで上がれば詩を守れる——)


 颯太の頭が、静かに回り始めた。


 プログラミングをやっていてよかった、と初めて思った。これはループするアルゴリズムだ。毎回少しずつ変数を変えて、最適解を探す。今は初期値が最悪なだけだ。繰り返せばいい。何度でも繰り返して、最適な行動を積み上げればいい。


(ただし——詩が死ぬたびに、ボクは詩の死に慣れていく)


 それだけが、怖かった。


 詩の声が止まる瞬間に、慣れたくなかった。詩の肩が冷たくなる感触に、慣れたくなかった。何十回繰り返しても、それだけは慣れてはいけないと思った。


(慣れたら——ボクはもう、戻ってくる意味がない)


 颯太はポケットの告白メモを握りしめた。


 空が割れる一秒前。詩がふと颯太を見た。


「颯太くん、なんか顔色悪いよ? 大丈夫?」


 颯太は少しだけ笑った。


「大丈夫。……ちょっと考えごとしてた」


(大丈夫じゃない。でも——キミに心配させたくない。今だけでいい。あと一秒だけ、笑っていてほしい)


 詩が「そっか」と言って、また窓の外を見た。


 颯太はその横顔を、目に焼き付けた。


 笑っている。温かい。まだ、生きている。


(必ず守る。何十回かかっても。何百回かかっても)


 空が割れた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ループをアルゴリズムとして捉える颯太。でも「詩の死に慣れてはいけない」だけは、数式にならない。そこが好きです。

次話もよろしくお願いします!

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