アレックス様の秘密
その後お茶を飲み終えてそろそろ帰ろうとアレックス様と共に客間を出た。公爵邸の長い廊下を見てふとアレックス様の部屋に入れてもらえなかったことを思い出した。
あんな頑なに見せようとしないと逆に気になる。今なら見せてもらえるかもしれないと興味本位で私の前を歩くアレックス様に声をかけた。
「アレックス様、私アレックス様の部屋を見てみたいです」
するとアレックス様の身体があからさまにビクッと震え、ゆっくりと後ろを振り返った。その表情は硬くとても緊張しているように見える。
「私の部屋、ですか?」
「ええ。以前婚約披露パーティーが終わった後頑なに部屋を見せてくださろうとしなかったので何故かと思いまして」
「それは、その・・・・」
しどろもどろしてはっきりしない態度のアレックス様。よほど知られたくないことでもあるのだろうか。秘密の趣味とか?それなら踏み込むべきではないのかもしれないけどやっぱり気になる。
「どうしてもいやだと仰るなら諦めます。でもこれから夫婦になると言うのに隠し事があるなんて悲しいです」
私はわざと悲しそうな振りをしながらアレックス様の情に訴えた。アレックス様に対して遠慮するのはもうやめた。もちろん配慮は必要だけどできるだけ言いたいことは伝えることに決めたのだ。その方が立ち止まってモヤモヤ考えるよりずっといい。
私の訴えにうッと言葉を詰まらせているところを見るとどうしても見せたくない、見せられないものではなさそうだ。何か別の理由があるような・・・・?
とりあえずあと少しで陥落しそうなので私は最後の一押しをしてみることにした。
「アル様お願いします」
胸の前で手を組み上目遣いでアレックス様に懇願する。アレックス様が望んでいた愛称呼びもしてみたのだから効果はそこそこのはず。
さっきは愛称で呼ぶことにあれほど抵抗があったのに以外にもすんなり呼べてしまったことに私自身少し驚きを覚えた。
「・・・・・・わかりました」
はぁっと深いため息を漏らしてアレックス様は渋々了承してくれた。そして玄関ホールへと向かっていた道を引き返してアレックス様の部屋へと向かっていく。
そんなに見せたくないものって一体どんなものかしら?ワクワクと不安が入り混じった複雑な心境でアレックス様の後について長い廊下を歩いた。
しばらく歩いたところでアレックス様が急にピタッと止まった。そしてこちらに振り返って声をかけてきた。
「ここが私の部屋です。見せる前に一つだけ約束してください」
「何でしょうか?」
「あなたにとって衝撃的なものが中にありますが、どうかわたしを嫌いにならないでください」
懇願するような縋るような目で訴えてくるアレックス様の様子に一気にワクワク感が消え不安が大きくなっていくのを感じた。
やばい、自分でグイグイいっといて何だけど、見るのが怖くなってきた。でも今更やっぱりやめますーなんて言える雰囲気じゃない。
私は震える手でドアノブを握った。
カチャっと静かな音が響いた後ドアはゆっくりと開いた。
「!!!」
そこに広がる光景は確かに衝撃的なものだった。ゆっくりとアレックス様の顔を見ると手で顔を覆って項垂れている。今ではこの反応をするのも納得できる。
私はゆっくりと部屋の中へと進んだ。グルッと見回すとどれも同じものが四方の壁一面に貼られている。いや、どれも同じ人、というべきか。
壁に貼られているのは私。学園時代の者からごく最近に至るまでの私がまるで写真のように紙に映し出されている。
これは・・・・・記憶の念写?アレックス様が見て記憶した私を映し出して毎日眺めてるの?
っていうかこんな高度な魔法を何てことに使ってんのよ。
しかも映っているのはどれもこれも私だけ。教科書を持って笑っているのはおそらく学園時代の物だろうけど確か左右には友人がいたはずだ。でもここにはいないということはアレックス様の記憶の中から友人の姿だけ削除されているということだろう。
えーーーーーっと、これ前世でなんていうんだっけ?あ、そうだ!
「ストーカー!」
「はい?」
聞きなれない言葉に手で覆っていた顔をあげきょとんとするアレックス様。
はっ!いけないいけない。ついうっかり心の声が叫び出ちゃった。
「あ、な、何でもありませんわ。少し動揺してしまっただけです」
「そうですよね。いきなり奇声を発するほどのことをしている自覚はあります」
奇声って・・・・。確かに何を言っているのか分からないと奇声にも聞こえるわよね。
アレックス様は再び俯いてなぜこんなことをしてしまったのかぽつりぽつりと話してくれた。
「学園であなたを見つけた時は本当にうれしかった。最初は接点など無くても遠くから眺めているだけでよかったんです。でも段々とそれだけでは足りなくなってしまった。声をかけるわけにはいかない、でももっと一緒に居たい。気が付けばあなたの姿を念写していました。いけないことだと知りながらも妙に心が満たされて今まで続けてしまいました」
「・・・・・・・・・」
何と言ったらいいか分からずただ茫然とアレックス様を見た。そんな私の様子に自虐的な笑みを浮かべるアレックス様。
「気持ち、悪いですよね。私だってどこかの令嬢がこんなことをしていたら屋敷ごと焼き払っていると思います。それなのに嫌わないでくれ、なんて虫のいいことを言ってしまって・・・・」
気持ち悪い?確かに少し前ならそう思って全て燃やしていたかもしれない。でも今は不思議とそんな気持ちが起きていない。
「あの、アレックス様?」
「ああ、もうアルとは呼んでくれないんですね。当然です。軽蔑されても何も言えません」
「あ、アル様!私の話を聞いてください。私気持ち悪いなんて思っていませんよ?」
「・・・・・・・・・はい?」
跳ねるように顔をあげ私を見つめてくる。その瞳には理解できないという気持ちと多少の期待が入り混じっている。私は軽く息を吐くとアレックス様の目を見つめ返した。
「確かに衝撃的な光景でしたが、それだけ私を想ってくださっているということでしょう?もっと変な趣味があるとか別の女性の念写が飾ってあるよりはよっぽどいいです」
「そんな!他の女性なんて興味ありませんよ!あなた以外はどれもこれも野菜にしか見えません」
「レイラ様も?」
「レイラは友人ですが女性として見たことはありません。感覚で言えば男友達と変わりません」
「レイラ様が男友達・・・・」
あんなに美人なのにこの言われよう・・・。お互い興味が無いからこそ成立する関係なのかもとふと思った。もしアレックス様に少しでも気があるなら男友達と同列に扱われるのはプライドが許さないだろうから。
「それにしても、そんなに見られたくないなら事前に処分しておくことは考えなかったのですか?今後公爵家との行き来が増えるほど露呈するリスクは高まるのに」
「あなたの顔が映っているんですよ?私に処分することができると思いますか?」
あり得ないという顔で言い切るアレックス様。私が受け入れたことに安心しているのか、堂々と開き直っている。半ばやけにもなっているのかもしれない。
まあ、何が一番驚いたかって私がこの状況を嬉しいと思っちゃってることなんだけどね。いよいよやばいわね、私も。




