アレックス様の秘めた思い 2
「家庭教師のことが解決してから必死にあなたを探しました。謝りたくて、もう一度会いたくて」
「探してた?私を?」
「ええ。あなたをリンネイルの貴族だと思い込んでいたので何年もかけてリンネイルを探したのですが見つからず。もしかしたら貴族ではなく裕福な庶民だったのかもと貴族以外も探しました」
あの時は私もリンネイルの言葉を使っていたからそう思ったのね。私自身アルのことはリンネイルの貴族だと信じて疑わなかったのだもの。当然よね。
「だから学園の入学式であなたを見つけた時、心臓が止まりそうなほど驚き歓喜に震えました。それと同時に国内の貴族を探そうともしていなかった自分を呪いました。あなたはこんなに近くにいたというのに」
「えっ。そんなに長い間ずっと探していたんですか?あの、自分で言うのも何ですけど諦めようとは思わなかったんですか?」
「あり得ませんね。結婚するならあなたしかいないと思っていましたから。例え貴族でなくてもどうにかして両親を説得して結婚するつもりでした。早く見つけないと変な虫が付いたら困るでしょう?だから焦りこそすれ諦めると言う選択肢は初めからありませんでした」
「そ、そうですか」
変な虫って。確かに財産とか魔力目当ての変なのはたくさん寄ってきてたけど。寄ってくるたびに叩き落してたけどね。
そこでふと疑問に思うことがあった。
「でもそれならどうして声をかけてくれなかったのです?」
「学業に専念するために卒業するまでは誰とも婚約しないという噂を聞きましてね。だから卒業まで待つことにしたのです。その噂のお陰でまだ虫がついていないことも分かりましたから焦る必要はないと思いましたし」
「でも卒業パーティーでいきなり求婚しなくても在学中に親交を深めるとかいろいろやり方はありましたよね?」
そう、それがずっと引っかかっていた。アレックス様があのアルならどうして今まで黙っていたの?私を見つけた時点で打ち明けてくれていればこんなややこしいことにならなかったのに。
「それは・・・・すみません。先ほどのは言い訳です。本当は怖かったんです。8年前の話をしたとしてあなたは受け入れてくれないのではと。私のことを怒っているかもしれませんし、忘れているかもしれない。後者だった場合私は完全にやばい人です」
アレックス様の言葉に吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
やばい人って。確かに夢で思い出すまではぼんやりとしか覚えていなかったから、いきなり昔会ったアルだよ!とかキラキラな笑顔で言われても引いてたかもしれない。
「それを伏せて親交を深めたとしても、いや深めてしまったらいつうっかり求婚してしまうか分からなかった。もし求婚してしまったなら在学中であることを理由に断られる可能性は高い。そうなると全てが水の泡になってしまいますから」
「だから卒業パーティーまで待ったってことですか?」
「そうです。卒業してしまえば断る理由は一つ減る。あなたにとってウェールズ公爵家との縁談は断りづらいことを理解したうえで求婚したんです。それほどあなたを逃がしたくなかった」
熱のこもる瞳で訴えてくるアレックス様。
私を想う気持ちが思っていたよりも深くて何も言えなくなってしまった。そして何よりそれを嬉しいと感じてしまっている私がいることに驚いた。
「・・・・・・・最低ですよね。断れないのを良いことに無理やり婚約しておいて、その後は事情も話さずほったらかし。あなたが不満を言わなかったから勝手に慕われていると勘違いしてやりたい放題だった。穴埋めは全てが終わった後にすればいいと。多少の無理を通してもついてきてくれると思い込んでいました」
繋いだままだった手をそっと振りほどき目を伏せるアレックス様。受けた傷は一朝一夕に消えるほど簡単なものではないけど、私にも非がある。直接不満をぶつけることもせずアレックス様のことが好きなぶりっ子ちゃんを演じていたんだから。アレックス様が誤解するのも無理はないのかもと思った。
「いえ、私の方こそすみません。私も母に言われたんです。言葉にしないと伝わらないって。格上の相手だから、断れない相手だからと理由をつけて自分の口から嫌だと言うこともせず嫌がらせばかり続けていました。思い通りにいかないことに勝手に腹を立てて向き合おうとしてこなかったんです。私もアレックス様と同じですね」
「・・・・・・・私たちはある意味似た者同士だったのかもしれませんね」
私の言葉を聞いてアレックス様がボソッと呟いた。
似た者同士、か。確かにそうかもしれない。お互い本音をぶつけることもせず相手が受け入れてくれることを勝手に願っていた。そういう意味では確かに私たちは似ている。
「そうですね。だからこれからはお互い隠し事はしないでちゃんと向き合うようにしましょう。アレックス様、これからもどうぞよろしくお願いします」
私はアレックス様にペコッと頭を下げた。顔をあげてみるとそこには満面の笑みを浮かべるアレックス様。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。必ずあなたを幸せにしてみせます」
私もアレックス様も照れながらも朗らかな雰囲気に包まれていた。そんなとき部屋にノックの音が響いた。入ってきたのはアレックス様付きの侍女。どうやらお茶のお代わりを持ってきてくれたらしい。大事な話し合いだからと侍女にも席を外してもらっていたのだ。
湯気の立つ美味しそうな紅茶を私とアレックス様の前に置くとまた部屋を出て行った。早速一口飲んでみるととても香りが良くほんのり甘かった。先ほどまでは言いたいことを伝えないと!と意気込んでいたので紅茶の味も分からなかったけど、今は純粋にその味を楽しむことができる。
そこでふと思い出した。アレックス様と初めて二人でお茶会をした時もこの紅茶を出されたっけ。まあお茶会とは名ばかりの罰ゲームのような時間だったけど。
そういえば、あの庭園どうしてあそこまで絵本の庭園にそっくりだったのかしら?
「「あの」」
素朴な疑問を解決しようと声をかけるとアレックス様とかぶってしまった。
私はどうぞとアレックス様の話を促すとアレックス様が再び口を開いた。
「もしよろしければ当時と同じようにベル、と呼んでもいいでしょうか?」
「え?は、はい。どうぞお好きにお呼びください」
「良かった。私のこともどうかアルとまた呼んでください」
「うっ。努力します・・・・・いやアレックス様のことが嫌とかじゃなくていきなり愛称で呼ぶのは少し恥ずかしいと言いますか!」
私が難色を示したことにあからさまにしゅんとするアレックス様に私は慌てて弁明した。やっと和解できたところなのにいきなりそれはハードルが高い気がする。でも少しづつ慣らしていくと伝えると何とも嬉しそうな笑みを向けられた。
アレックス様ってこんなに笑う人だったんだ。ついこの前までは無表情を貫いていたから感情を表に出さない人なんだと思ってた。それが恥ずかしかったゆえの態度だったなんて、何かウケる。
「それでベルの話とは?」
私とは対照的にすでに愛称が定着している。思い返してみると助けてもらった時もベルって呼ばれてたような・・・?もしかして私のいないところでは私のことをそう呼んでたのかも。
「少し気になることがありまして。ここの庭園って昔からこんな感じなんですか?」
「というと?」
「私が大好きな絵本にあまりにそっくりなので、もしかしたらここが絵本のモデルだったのかと思ったんです」
「それはそうですよ。私が似せて作りましたからね」
「・・・・・・はい?」
似せて?作った?あの広い庭園を改造したの?
いや、待って。意味が分かんない。
困惑して思考が停止している私にアレックス様が教えてくれた。
「昔ベルが大好きな絵本の話をしてくれたでしょう?婚約が決まった時に大急ぎで絵本を取り寄せてそっくりに作り替えたんです」
あまりにも当たり前のように言われるので私の感覚がおかしいのかと疑ってしまった。
いや、いくら何でも婚約者の為にそこまでする?
「どうしてそこまでしてくれたのですか?」
「もちろんあなたに喜んでほしかったからですよ。・・・・・・もしかして迷惑でしたか?」
「い、いいえ!むしろとっても嬉しいですけど、何ていうかびっくりしたというか」
「驚いてもらえたなら良かったです」
嬉しそうなアレックス様を見て複雑な気持ちになってしまった。私の言っているびっくりとアレックス様が思っているのは少し違う気がするけどそこまでは言わなくていいよね、うん。




