お父様の策略 2
「まあまあ、落ち着きなさいベル。今日は子爵と仕事の話をしに来たんだ。日時のやり取りをしている時にご子息のトーマス君も今結婚相手を探していると聞いてね、それならちょうどいい機会だから会わせてみようとなったんだよ」
「お父様、私一応まだ婚約者がいる身なんですけども?」
「見合いなんて堅苦しいものじゃない。トーマス君はベルの友人だし気軽な気持ちで会ってくれたらと思っていたんだ。それにアレックス君とも今後どうなるか分からないだろう?早めに視野を広げておくのも悪くないと思ってね」
「だからと言って、どうして貴族も良く訪れる街で、しかも人の多いカフェで会うことにしたのですか!貸し切りならともかく通常に営業してましたわよね?婚約者のいる身でありながら両家の親も揃って他の男性と会っていたらどんな噂を立てられるか分かりませんわ!」
私の言葉にお父様はニコニコしている。予想と違う反応に嫌な予感しかしない。隣にいるお母様は深いため息を吐いて頭を抱えている。
「・・・・・・・・まさか、それが目的でしたの?」
わざと人目に付くところで婚約者でない男性と会えば通常はふしだらだと噂される。でも私の場合アレックス様のせいで何度も危険な目に遭っている。この場合普通の貴族ならこう考える。『散々蔑ろにされた挙句心身ともに傷ついた。だから婚約を解消して他の男性に乗り換えようとしている、あるいはすでに婚約を解消しているのでは』と。
令嬢の噂話は本当にあっという間に広がる。きっとすぐに親切などこかのご令嬢がアレックス様にこのことを伝えることだろう。自分の魅力のアピールも忘れずに。
まだ決断すらしていないのに婚約を破棄することがアレックス様に決定事項として伝わってしまうなんて・・・・。私は軽いめまいを覚えてこめかみを押さえた。
「私はただ選択肢を広げて欲しいと思っているだけだよ。それに聞けばトーマス君はマリンガムの夜会でベルを助けてくれたそうじゃないか!家格は劣るが好青年だし、何よりベルをしっかり守ってくれる。この上ない相手だとは思わないか?」
「アレックス様も二度も助けてくださいましたけど?」
「それにもし気に入らなければ次の社交シーズンで夜会に参加して自分で相手を探してもいい。何ならまた良さそうな相手との約束も取り付けてくるぞ」
私の話を無視して話を続けるお父様。どうしてもアレックス様とは婚約を解消してほしいらしい。お父様を見る目が段々と冷めた目に変わって行ってしまう。
ふと視線を移すと頭を抱えていたはずのお母様も同様に冷めた視線を浴びせかけていた。
「あなた、今日のことを私にも教えなかったのは私がベルに話してしまうかもしれないと思ったからですよね?」
「あー・・・・・っと話してなかったかな?いや、最近物忘れが激しくてな、てっきり話してると思ってたよ」
頭をポリポリとかきながら分かりやすい嘘をつくお父様になおも冷たい視線を浴びせるお母様。
「あなた、嘘をつくときの癖が出ていますよ」
「えっっ!」
頭をかいていた手をピタッと止め、ちらりとお母様を見るお父様。どうやらそれが癖らしい。
「はぁ。ごめんなさいね、ベル。今日何をしに行くのかって何度聞いてもはぐらかしてくるから良くないことだろうとは思っていたけど、まさかこんなことするなんて。知っていたら絶対に止めたのに」
「いいえ。お母様は悪くありませんわ。それでどうしてここまで暴走したんです?お父様」
私とお母様の視線に耐えられなくなったのか、観念したようにお父様が話し始めた。
聞いてみるとアレックス様とは婚約を解消してほしい、でもお母様の言うようにリンネイルには行ってほしくはない。どうにかしてこの二つを実現させようかと考えた時にこの国で気に入る人を見つけてもらえばいいという考えに達したようだ。
その手始めとして選ばれたのがトムだったということらしい。純粋に私を心配して助けてくれたトムにお父様は好感を抱いている。もしトムがだめでもこの国に貴族の男性はたくさんいるのだから気にいる人を選んでもらえればいいと思っていたそうだ。
アレックス様にしてみてもこちらが堂々と次の婚約者探しをしていると分かれば、向こうが先に諦めてくれるかもしれないと期待しているらしい。
「お父様がアレックス様を気に入らないのはよーーーっく分かりました。でもこの件は私が決めてもいいと仰って下さいましたよね?気づけなかった自分達にも非があると言って」
「そ、それはそうだが・・・・」
バツが悪そうにごにょごにょと何かを話しているお父様。とにかく当の私が何も決めていないのだから口を出すのはやめて欲しい。お父様には私とお母様からしっかりとくぎを刺しておいた。
そうこうしているうちに馬車は伯爵邸にたどり着いた。着くまでの間こんこんとお説教されたせいで若干顔色の悪いお父様に馬車から下ろしてもらうと、さっさと自分の部屋へと戻った。
部屋に入るなりマリーに声をかけられた。
「お嬢様、お手紙が届いております」
「手紙?」
誰から?差出人を見てみるとまさかのレイラ様からだった。
手紙を開いてみると、
『べルティーナ様へ。アレックスとの婚約は破棄することにしたのね。あんな男じゃ当然と言えば当然だけど。色々言っている人もいるけど気にしないで。私はあなたの気持ちを支持するわ。またお茶会で話を聞かせてね』
と書かれていた。
・・・・・・・・・えぇ?!情報早すぎない?!私今帰って来たばっかりなんだけど!!
もうレイラ様の耳にも入ってるの?しかも私色々言われてるの?いや、想像はできるけどさ!
ってことはアレックス様にはもう伝わってる可能性が高いってことよね。どうしよう、手紙を送った方がいいかしら?でももしかしたら本当に破棄するかもしれないし、今ここで釈明する必要ある?でも婚約を継続ってなったらそれはそれで気まずいし・・・。ああ、どうしたらいいんだろう?
そんなことを考えているうちに気が付いたら夜になっていた。
窓から見える月を見て驚いた。
え?夜?いつの間に??
「お嬢様、もうお休みの時間ですよ」
「え?私いつの間にナイトドレスに着替えたの?それに夕食は??」
「食事もしっかり召し上がって湯あみも済ませましたよ。たしかにいつもよりもぼーっとしているというか考えに耽っているような感じはありましたが」
「そ、そう」
自分でやったことすら記憶にないとかいよいよやばいわね、私。いや、そこまで何かに集中できるってすごいことよ、多分。
まあ、このままうだうだ考えていても仕方ないし、寝ればすっきりするかもしれないからとりあえず寝よう。
そう思って夢の中へと落ちて行った。
朝、コツコツと窓をたたく小さな音で目が覚めた。こんな小さな音で目が覚めるなんてよっぽど眠りが浅かったのね、なんて思いながら音のする方へ視線を向けると一通の手紙が届いていた。
丁度マリーも起こしに来てくれたのでついでに手紙を取ってもらった。差出人を確認すると何とアレックス様。
昨日一日どうしようと考えて答えの出ないまま眠ってしまったけど、アレックス様の方からアクションを起こしてきたようだ。
婚約中にほかの男性と会うなんて!と罵倒するのか、はたまた婚約破棄したくないと懇願してくるのか。どんなことが書いてあるのかドキドキしながら手紙をカサリと開いた。
そこに書いてある内容を読んで一言。
「うん。よし、決めた」




