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お父様の策略 1

それから数日たったある日、お父様から大切な用事があるからついてきなさいと言われ、今一緒に馬車に乗っている。


お母様と話をした日からお父様からアレックス様について触れられていない。自分でもまだ気持ちが定まっていないので内心ほっとしている。


「お父様、大切な用事とは何です?どこへ向かっているのですか?」

「行けば分かるよ」


にっこりと笑うお父様。今朝からずっとこれだ。どこへ行くのか、何をしに行くのか聞いてもいけば分かるとしか教えてくれない。

そりゃ行けば分かるだろうけど、それに向けての心の準備というものがある。私へのサプライズなら話は別だが、隣に座っているお母様の表情を見る限り私が喜ぶことではなさそうだ。


少し不機嫌そうな顔でお父様を見るお母様の顔に一抹の不安を覚える。またお父様が暴走しているのだろうか。そう言えば昔リンネイルに治癒の魔鉱石の開発で行った時もお母様は最後まで反対していた。


もしかしてお父様は一度こうと決めたら曲げない頑固な性格なのかもしれないと今更ながらに思う。そんなお父様がアレックス様との婚約を無理やり破棄していないところを見るとお母様が相当頑張って説得してくれたようだ。


ガタゴトと揺れる馬車の中から景色を見ていると、どうやら街へ向かっているらしいことが分かった。街に一体何の用が?みんなでカフェに行くわけでもあるまいし。いくら考えても教えてもらえない以上謎が解決されることはない。私は小さくため息をつくと考えることを放棄した。


やがて馬車が辿り着いた先は思った通り街だった。この街は王都の中心に位置していてかなり栄えている。メインの通りには雑貨店や飲食店、ドレスなどの高級な服から庶民用の服まであらゆるお店が所狭しと並んでいる。貴族にとっても庶民にとっても欠かせない場所だ。


馬車から降りると向かった先はまさかのカフェ。

え?何で??みんなでお茶しに来たの?わざわざ?


頭にはてなを浮かべながら黙ってお父様たちの後についてお店に入った。人々のおしゃべりする声が飛び交う空間の中、窓際の一際大きなテーブルに自然と目が言った。予約席と書かれたそこには貴族らしき男性が二人。どうやら親子らしい。そして二人が座っている向かい側はまだ空席のまま。どうやら誰かを待っているらしいことが分かった。何だか嫌な予感がするのは気のせいか。


お父様は店員に何かを話した後、店内の奥へと進んでいった。そして辿り着いた先はやはりと言うべきかその予約席。

貴族の親子に私達って、これはもうお見合いとしか言いようがない。私はジトっとお父様を睨むがそんなことなど意にも介さずお父様は相手の貴族に挨拶をしている。意にも介さないというより単に気づいていないのかも。


「アルスタイン子爵。この度は時間を作っていただいてありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ貴重な機会をありがとうございます。モリスヴェイン伯爵」


ん?アルスタイン子爵?聞き覚えのある名前に、私はバッと顔をあげて令息の顔を見た。目に飛び込んできたのは優し気なアイスブラウンの瞳に高い鼻、形のいい唇の青年。


「トム?!」

「久しぶりですね。べルティーナ嬢」


驚いて口をポカンと開けている私とは対照的に優雅な笑みを浮かべるトム。両親もいる前だから余所行きの顔をしているようだ。トムからべルティーナ嬢なんて呼ばれると何だかむずがゆい。


「失礼しました。トーマス様お久しぶりですわね。アルスタイン子爵様お会いできて光栄ですわ」


私はハッとして慌てて笑顔を貼り付け挨拶を返した。

そんな私の様子にトムが笑いをこらえているのが分かった。ちょっと、何よその顔!私だって居心地悪いんだからね!と目だけで訴える。


親の目が無い学園ではお互いに砕けた口調でしかも愛称で呼びあっていたのだ。居心地が悪くて当然だろう。


それから少し両家で話をした後、私たちはまだ話があるから二人で待っていなさいとお父様たちは席を立ってしまった。

え、ちょ、適当な理由をつけて後は若い二人で~ってことでしょ?これ完全にお見合いじゃん!

残された私たちは静かにお互いの顔を見た。


「その様子じゃ、今日俺と会うこと聞かされてないだろ」

「ええ。いくら聞いても『行けば分かる』としか教えてもらえなかったもの。事前に言うと私が拒否すると思ったのね、きっと」

「おいおい、傷つくな。俺と会うのが嫌だったってのか?」

「あのねぇ、友達とお見合いするなんて気まずいに決まってるでしょ」

「全くだな」


ハハッと笑いながら軽い感じで返してくる。こんな感じだからトムとはすごく話しやすい。

以前夜会であった時もトムがダンスに誘ってくれて随分と心が軽くなった。あれ?夜会と言えば私助けてもらったお礼ちゃんとしてないんじゃない?いや、ちゃんと手紙は送ったけどそれだけ。


私は改めてトムの顔を見ると真剣な表情で口を開いた。


「そう言えば、以前助けてもらった時のこときちんとお礼してなかったわね。あの時は本当にありがとう」

「礼なら手紙でも受け取ったから気にすんな。それに怪我はさせちまったんだから完全に助けたとは言えねぇよ」


またも軽い感じで返してくるトム。あの状況で無傷で助け出すなどずっと見張っていない限り無理だったとは思うが、それでも彼の優しさが感じられて胸が温かくなった。


「それはそうと、お前大丈夫か?」

「え?何が?」

「何がじゃない。あの夜会の後からも何度も危ない目に合ってるだろ。まだ婚約を続けるつもりなのか?」


先程までの軽い感じから一変、真剣な顔で訴えてくるトムに表情が強張るのを感じた。


「いくら断れない相手だからって、ここまでの目に遭わされたんだ。婚約を解消したって向こうも何も言えないだろ」


神官たちが起こした騒ぎのことは一部の貴族を除き詳しい内容は伏せられている。理由は二つ。治癒の魔鉱石の存在をまだ公にしていないから、そして治癒の魔鉱石をめぐって争いが起こったとなれば人々の心に暗い影を落としてしまうから。みんなが待ち望んできたものだからこそ争いの種になるという印象を与えるわけにはいかない。


だから何も知らない人たちの間で私が神官たちに襲われたのはウェールズ公爵家が絡んでいると噂されているのだ。トムもその噂を聞いたに違いない。アレックス様と婚約してから次々と危険な目に遭っているとなれば止めるのは当然のことだろう。当事者だから悩んでいるだけで第三者なら私でも止めている。


「実は・・・・まだ迷っているの。問題は解決されて今後は危ない目には遭わないと思うんだけど、アレックス様を信じていいかどうかまだ分からない」


トムの真剣な目に私はつい本音をポロっとこぼしてしまった。適当にあしらうこともできたはずなのに、なぜかそうしてはいけない気がして。


「なあ、ベル。友達だからこそいうけど、アレックス殿はやめた方がいい。危険な目に遭ったからっていうのもそうなんだけど、何ていうか・・・・・。ベルを見る目が怖いんだよ、あの人。なんか執着してるっていうか」

「執着?」


アレックス様が?私に?確かに婚約を破棄したくはないと言われたことはあったけど執着するほどの感情なのかしら?どうもいまいちピンとこない。

でもトムはその時のことを思い出したのか身震いしている。いったいどんな顔してたのか逆に気になる。


「とにかく、他の人にも目を向けてみろってこと。俺と見合いしたからって俺と結婚しろとは言わない。ただ世の中にはアレックス殿以外にも男はいるんだから、今後のためにも視野を広げた方がいいとは思う」

「うん・・・・・。そうね。考えてみるわ」


トムのアドバイスに素直に頷くと彼は少しほっとしたような顔をした。本気で私のことを心配してくれたらしい。


そのタイミングで両親が戻ってきて解散、となった。

「それでは失礼します。良い時間をありがとうございました、べルティーナ嬢」と優雅に頭を下げるトムを見て吹き出しそうになってしまったけど、そこはぐっと堪えて私もありがとうございましたと礼をした。


その様子をニコニコと眺めるお父様。私はジロッとひと睨みするとまた笑顔を作ってトムと子爵様を見送った。


「お父様、いったいこれはどういうことです?」


馬車に乗り込むなりそう一言、私はお父様に詰め寄った。行けば分かると連れていかれ、行ってみればお見合いだったなんて騙したも同然じゃない!

お父様は慌てた様子で弁明し始めた。

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