向き合わなければ 1
「「ベル!!!」」
「姉さま!」
中に入った途端両親とライリーが駆け寄ってきた。怒られる!そう思ってぎゅっと目を閉じていると、予想に反してきつく抱きしめられた。
あまりに突然のことで動揺してしまい、動けずにいると、
「とっても心配したのよ。あなたが見つかったという知らせを受けるまで生きた心地がしなかったわ」
涙をポロポロ流しながら泣き続けるお母様とライリー。お父様もハンカチで涙を拭っている。
私がいなくなってからそんなに時間が経っていないはずなのに随分やつれたような気がする。その姿を見て私を心から心配してくれていたことが痛いほど良くわかった。
道具ではなく『私』を心配してくれている。その事実がひどく嬉しくて不信でいっぱいだった私の心が少しずつほどけていくのを感じた
「ご、ごめんなさーい!」
そして私もまるで糸が切れたようにわーっ声をあげて泣いた。それからしばらく4人でひとしきり泣いて、ふと冷静になると周りの光景にぎょっとした。屋敷中の使用人が集まっているんじゃないかというほど皆玄関ホールに集まっていて、涙を浮かべながら私たちを見ていた。
親子の再会劇を温かく見守っているって感じ。何となく気恥ずかしい。
恥ずかしさと気まずさから視線をさまよわせていると私の目がマリーを捉えた。いつもと変わらないすました顔だけど、私だけはマリーが安心したように笑っているのが分かった。そんなマリーに私も微笑み返す。
その後はライリーを除いて私とお父様、お母様の3人でサロンに移動した。私が衰弱しきっていたらまずは休ませようと思っていたらしいけど、思いのほかピンピンしているのでそのまま事情聴取することにしたらしい。もちろん家出した理由の事情聴取。
私が全てを知っていると言ったらお父様たちはどんな反応をするのかしら?でももう逃げるわけにはいかない。私も真実と向き合わなくちゃ。
私は覚悟を決めてお父様たちの後について行った。
「どうして家出なんてしたの?そこまでするほどどうして追い詰められていたの?レイラ様のことが原因なの?」
座るなりそう尋ねてくるお母様。
表情を見る限りお父様もお母様も家出するほどの理由には心当たりはないようだ。
アレックス様と公爵令嬢のこと、治癒の魔鉱石のこと、両親に裏切られていたこと、私には心当たりが大ありだ。私はどこから話したらいいかと迷いながらぽつりぽつりと話し始めた。
「私とアレックス様は政略結婚なのでしょう?治癒の魔鉱石を共同販売するための政略結婚」
そう、公爵令嬢のことは理由があったと一応は理解できた。まだどうして私に秘密にしたままだったのか疑問は残ったままだけど。でもこっちの疑惑は何一つ解決されていない。直接お父様と公爵様の密談を聞いてしまったし、何より5年前の・・・・
「どうしてそう思うんだ?ベルはアレックス君から求婚されて婚約することになったんじゃないか。確かに断りづらい相手ではあったが、政略結婚ではないよ?」
誤魔化す気ね!そうはいかないんだから。私はキッとお父様を見て一気に言った。
「でも、でも私聞いたんです!婚約披露パーティーの日、お父様と公爵様の話を!私と結婚したら治癒の魔鉱石の采配権を譲るって!それに5年前の盗賊騒ぎだって!」
「盗賊騒ぎ?」
その言葉を聞いてお父様とお母様はギクッとしたような顔になった。やっぱり!
「5年前、国際問題になるほどの積荷をウェールズ公爵家に取り返してもらったのでしょう?」
「ベル、誤解だよ」
しらばっくれようったってそうはいかないんだから!これだけの証拠が揃っているのに言い逃れできるとでも思っているのかしら?それとも私のことを簡単に言いくるめられる子どもだとでも思っているの?
「何が誤解だと言うんです?!国際問題になるほどの物なんて治癒の魔鉱石しかないではないですか!助けた代わりに共同販売と私とアレックス様の結婚を要求されたのでしょう?アレックス様の求婚だって、政略結婚を嫌った私を騙すためのお芝居だった・・・・!」
言いながら感情が昂ってしまい、私はまたポロポロと涙を流した。悔しいのか悲しいのか分からないけど、涙はとめどなく溢れてくる。
そんな私の様子を見てお父様はとても困惑しているようだった。
「ちょっと、待ちなさい、ベル。落ち着いて」
向かいに座っていたお母さまがそっと私の隣に移動してきて優しく背中をさすってくれた。
「っやめてください!」
私を騙していた人にそんなことをされたくないと手を振り払ったけど、今度はぎゅっと抱きしめられてしまった。
なおも暴れてみようとしてもお母様は手を離してくれない。私は仕方なく諦めて大人しくすることにした。
そうして少し落ち着いてくると、お父様が静かに話し始めた。
「最初に言っておくが、全て誤解だよ」
「何が誤解だと言うのです?」
私はまたキッとお父様を睨みつけた。そんな私の態度を咎めることなくお父様は話を続けた。
「まず5年前のことだが、盗賊に取られたのは確かに治癒の魔鉱石だ」
「やっぱり!」
「話は最後まで聞きなさい。治癒の魔鉱石は入っていたが、それはたくさんの積荷の中のほんの一部。腕輪一つ分の小さなものだ。しかもきっちりと梱包されていて傍目からは分からない」
腕輪一つ分・・・・て、かなり小さい。魔鉱石から魔力を感知できたとしてもごくわずかだったはず。ウェールズ公爵様はそんな僅かな魔力を感知したの?
私のそんな疑問を感じ取ったようにお母様が続けて教えてくれた。
「確かに試作品として治癒の魔鉱石は入っていたけど、他の積荷もとても大切なものだったの」
「何が入っていたのです?」
「リンネイルで製造された魔道具よ。その中には舞踏会でベルも助けられた音と映像を記憶する魔道具も入っていたの」
お母様によると本来重要な積荷は直接王宮に届けられることになっている。しかしその時の積荷は本来の目的である治癒の魔鉱石を隠すためのカモフラージュ。治癒の魔鉱石を確実にモリスヴェイン伯爵に届けるためにあえて王宮ではなく伯爵家宛に送られたのだそうだ。
でもいくらカモフラージュとは言え貴重なものに変わりない。だから国際問題に発展するほどの問題だとお父様が慌てても誰も他に重要なものが入っているなどとは疑わなかったそうだ。ウェールズ公爵様さえも。
ウェールズ公爵様には助けてもらったお礼をしっかりとしてそれで終わり。その後も特に深い交流はなかったそうだ。
「そういうこと・・・・・でしたの」
「理解してもらえたかい?」
「じゃあ何であの時、馬車の中で教えてくれなかったのです?変にはぐらかしたりして・・・・」
「ああ、あれは・・・・」
お父様が言い淀んでいるとお母様が代わりに教えてくれた。
「治癒の魔鉱石が積まれた馬車をウェールズ公爵に助けてもらったなんてことを知ったら、あなたが政略結婚だと勘違いすると思ったの。でも逆にそれで家出までしてしまうなんて・・・・・」
「ベルが盗賊団の話をした時に私たちが話しておけばよかったんだ。本当にすまなかった」
申し訳なさそうに目を伏せるお父様とお母様。その姿は嘘を言っているようには見えない。
「で、でもじゃあ婚約披露パーティーの時に公爵様と話していたことは?」
そう、まだこっちの問題が残っている。5年前のことが関係なかったとしてもアレックス様との政略結婚の疑惑は解消されていない。
「あれはね、ベルとアレックス君が結婚したら治癒の魔鉱石の采配権をベルに譲るというものだったんだよ」
「ど、どういうことです?」
意味が分からない。何でそこで私が出てくるの?
物語は終盤です。あともう少しお付き合いください。




