明かされる真実 2
「選別?」
というと?貴族の何を選別するのかしら?
私がきょとんとした顔をしているとアレックス様が教えてくれた。
「一般的に考えて私が婚約者であるあなたを差し置いて堂々と公爵令嬢であるレイラを傍に置くことは異常です。そこに裏があると見ることができるか、単なる事実として受け取るかによってその家門の資質が分かります。まっとうな考えを持つ貴族なら当然おかしいと疑問を持つはずですからね。バカ王子がレイラを狙っているとなると尚更。それなのに疑問すら抱かず見たものだけを事実として受け取ってしまうのは貴族として致命的です。そんな家門とは今後深く付き合っていく必要などないというわけです」
「でも傍目からどうやってそれを見抜くのです?」
「そうですね・・・・・分かりやすいので言うと、あなたに愛人の打診をしてきた輩がいたでしょう?ああいうのは典型的です。あとは子息が噂話のネタにしているとかもダメですね。まともな父親なら後々公爵家から目が付けられるかもしれない可能性も考えて話題にすらするなと忠告するはずです。それでもしているということは父親が分かっていないか、何を言われても聞かない愚息かのどちらかです。どちらにしろ深く付き合っていく必要はありませんね」
「でもご令嬢はたくさん噂されてましたよ?」
「ご令嬢はいいのですよ。社交で人脈を広げるのが仕事みたいなものですからね。あまり重要なことは教えない家がほとんどです。でも結婚して夫人になればまた変わってきます。言動の一つ一つが家門の評判に影響しますからね。その辺は先代の夫人がしっかり教えてくれるそうですよ。我が家で言えば母上ということですね」
結婚前もレッスンや勉強が詰まってるのに、結婚したらまた別の勉強が待ってるのね。考えるだけで気が重いわ。
・・・・・ってあれ?私自然にアレックス様と結婚すること受け入れてる?
うーんと考え込んでいると、アレックス様がああ、そう言えばと話を続けた。
「あなたが以前夜会で私をとりなしてくれた文官長は深読みのできる方でしたよ。上司がまともな方で良かったですよ」
「げほっ」
やばい、なんか変な咳が出た。っていうか今その話蒸し返す?
ちらっとアレックス様の顔を見ると、ニヤっと悪戯っぽい笑みを浮かべている。
ちょっと、確信犯じゃん!狙い通り動揺しちゃったことが悔しい。・・・・いや、悪かったとは思ってますよ?本当に。
「あの時驚いたというのが本音でしたが私のことを想ってくださったのは純粋に嬉しかったんですよ?でもまさかあれも嫌がらせだったとは」
突然悲しそうな顔をしてそんな言葉を口にするアレックス様。
明らかに演技だけど、私がやったのは事実なのでなんだかとてもいたたまれなくなってしまった。
「うぅ・・・・すみませんでした」
「いえいえ、気にしていませんから」
先程とは一変、ニコッと笑顔になるアレックス様。不覚にもその笑顔にドキッとしてしまった。
何気に私に向かってアレックス様が笑いかけるの初めてじゃない?今まで葛藤しまくってたから気持ち悪く感じてただけで元々アレックス様ってイケメンなのよね。疑惑が解決されてきた今改めてそのイケメンさ(破壊力)を認識してしまった。
「私の方こそすみませんでした」
その言葉に驚いて顔をあげると目のまえには真剣な顔をしたアレックス様。
さっきまでの悪戯っぽい雰囲気から一変、申し訳なさそうな苦しそうな顔をしている。
「え?」
「私の打算のせいであなたを何度も危険な目に合わせてしまった。それこそ婚約破棄されても文句は言えない」
「それは・・・・」
確かに。婚約破棄を望んでいたし、そのために色々やらかした。
でも、今回私が逃げたのは陰で嘲笑されたからでも危険な目に遭ったからでもない。信じていた人たちに裏切られたと思ったから・・・・・。
再び黙り込んでしまった私を見て不安が増したのか、私の肩を抱くアレックス様の手にぐっと力が入った。
「でも!それでも私はあなたを手放したくない。身勝手だと罵られようと、たとえ嫌われようともあなたと離れることだけはできそうにない」
「わ、わたしは・・・・」
アレックス様を信じていいのか、両親たちの思惑通りに進んでもいいのか、まだ分からない。
命の危機に瀕しながら愛される努力をすればよかったと後悔したけど、いざ向き合うとなると中々踏ん切りがつかない。
さんざん愛を囁くような手紙を贈っておきながら二人で密会してたんだもの。その疑惑が晴れないうちは答えは出せそうになかった。
そうよ、カフェでのことをまだ説明してもらっていない。夜会でのことは理由があったとしてもあの時は?バカ王子も断罪されていなくなったのに一緒にいたのはどうして?
「アレックス様、私まだカフェでどうして公爵令嬢と一緒にいたのか聞いていません」
「それは・・・・」
今度こそ説明してもらおう、そう思ってアレックス様の顔をじっと見ていると馬車の揺れが止まった。どうやら、馬車が伯爵邸に到着したらしい。
「着いたようですね。べルティーナ嬢、先ほども言ったようにレイラとはそんな仲ではありません。これだけは信じてください。きちんと説明したいので明日私に時間を下さいませんか?」
私がこくんと頷くとアレックス様はほっとしたような表情を浮かべた後、馬車の扉をガチャっと開けて私を下ろしてくれた。
「屋敷の中で伯爵と夫人がお待ちです。それから可愛い弟君も。明日、必ず迎えに来ますので逃げずに待っていてください」
そう言い残し屋敷に入ることなくアレックス様は帰って行った。走り去っていく馬車を見ながら何となく淋しいような不思議な感覚に襲われた。私はそんな気持ちを振り払うように頭を振るとくるっと踵を返した。
マリーと公爵令嬢を乗せた馬車はすでに着いているのかまだなのか、姿は見えない。
扉に手をかけたところで突然不安になってきた。今更だけど私、とんでもないことしでかしたわよね?勝手に家出した挙句つかまって命を奪われそうになって騎士団まで動員して助けに来てもらって・・・・・・やばい、考えれば考えるほど入りたくなくなってきた。出来ることならこのまま逃げたい。いや逃げたせいでこうなったんだから逃げちゃダメでしょ。
いやでもお父様たちのせいでこうなったわけだし!私は堂々としてればいいのよ!
・・・・・・・・・でも怒られるわよね?でもそれが純粋に私を心配してのものなのか、公爵家とのつながりを持つための道具がいなくなって困るというものかどちらかは分からない。
もし後者だったら立ち直れそうにないわ。
それに、お父様たちから真実を聞くのも正直怖い。自分で推察するのと直接告げられるのとではダメージが全く違う。それはそれで立ち直れないかもしれない。
少しの間取っ手を握りしめたままぐるぐると考え込んでいたけど、このままこうしていても仕方がない。私は覚悟を決めて扉を開いた。




