地獄からの救出
少し過激なシーンがあります。
苦手な方は飛ばしてください。
「な、なにを・・・・」
言い終わらないうちに毒薬は空気に溶けこんでいく。そこに男が掌を向けると毒の空気はみるみるうちに毒の霧へと変わっていく。
「げほっ」
マリーが毒の霧を吸い込みむせる声が聞こえる。慌てて視線を移すと苦しそうにせき込んでいる。
マリー、私についてきたせいであなたまで・・・・。屋敷に残っていればこんな目にあうこともなかったのに。
幼いころから世話をしてきてくれた侍女の苦しむ姿を見て涙があふれ、私は必死に神官長に向かって訴えかけた。
「マリー・・・・げほっ・・・マリーだけでも・・・・逃がして・・・・」
「ははは。それは無理だ。ここでそこの侍女を逃がしてしまったら一部始終を話してしまうかもしれないだろう?大丈夫。すぐにあの世で会えるから」
男たちはバリアのようなものでも張っているのか、平然とこちらを見ている。私たちが確実に死ぬのを見届けるつもりのようだ。
「バカ王子が君を仕留めそこなったせいでこの手を汚すことになってしまったが・・・・だからこそ確実に死んでもらうよ。あと数分もすれば苦しみも消えるさ」
「ゴホッゴホッ」
「おじょう・・・・さ・・・・」
じわじわと体を毒に侵されながら私は悔しさに涙を流した。
私はただ、幸せになりたかっただけなのに。前世は両親に愛されず病魔に侵されて苦しみながら死んだ。だから今世こそ幸せになろうと頑張ったのに、結局両親や婚約者に騙され裏切られまた苦しみながら死んでいく。
私が何をしたっていうの?神様はどれだけ私のことが嫌いなのよ!どうやったらこんなひどい仕打ちができるっていうのよ?!
涙を流しながらも段々と意識は朦朧としていく。
・・・・・・でも私は何をした?
愛してもらうことに一生懸命で愛される努力や愛する努力をしてきた?
ふとそんな思いが湧いてきた。前世の人生も今世の人生も私は愛してもらうことしか考えていなかった。誰かを愛そうとか幸せにしてあげようとか思った?両親の仲が悪いとかお飾りの公爵夫人だとか悲観していないで現実を変える努力をした?
ううん。何もしなかった、ただ逃げただけ。現実から目を背けて逃げることばかり考えてた。
だから罰が当たったのね。自分のことしか考えられない自己中心な女だから。
お父様、お母様、ライリーごめんなさい。アレックス様ごめん・・・・なさ・・・・・
ドオオオン
いよいよ意識が途切れようという時、いきなり轟音が鳴り響いた。それと同時に勢いよく入り込んでくる澄んだ空気。
「なんだ?」
「何があった?!」
「うわあぁぁぁ」
バキッダンッガタガタガタ・・・・
何やら大きな音が鳴っているが、毒のせいで身体が痺れ指一本動かすことすらままならずそれらを確認することはできない。
その上呼吸が苦しく考えることすらできそうにない。
するといきなり抱き起され、誰かにきつく抱きしめられた。
だ、れ・・・・?
そう思ったのも束の間まばゆい光が目の前に解き放たれ、優しく私の身体を包み込んだ。温かく優しい光は私の中の毒を少しずつ浄化していく。痺れが消えていき、だらんと垂れたままだった腕に力が入るようになってきた。
「げほっげほっ・・・・」
最後の毒を吐き出すように激しくせき込むと先ほどまでの苦しさが嘘のように呼吸が楽になった。驚いていると私を抱きしめていた人がその手を緩め、密着していた身体が離れた。
見上げるとそこには私が良く知る人物の顔。
「アレックス様・・・・」
「ベル、遅くなってすまない。間に合って本当に良かった」
そう言うアレックス様の顔は苦しそうに歪んでいて、目には涙が浮かんでいる。
え?あのアレックス様が泣いてる・・・・?わたしのために?
そこで私はハッとした。
「マリーは?!」
慌ててマリーの方に目を向けると、公爵令嬢が治癒魔法で治してくれていた。私同様せき込んでいるけど、すぐに呼吸が安定したのを見て心の底から安心した。
それと同時に露になった惨状と呼ぶべき光景。
私たちを襲っていた男たちは吹き飛ばされ四方八方に転がっている。中には調度品に激しくぶつかったのか血を流している人もいた。私に魔封じの魔法をかけていた人も同様に吹き飛ばされ、完全に伸びているようだ。
経験してみてわかったが、魔封じはその言葉のごとく相手の魔力を封じる魔法。自分への攻撃を無力化することができるわけではない。奇襲にはめっぽう弱いってことね。
それにしても・・・・
「アレックス様、治癒魔法が使えたのですか?」
「いいや、これを使わせてもらった」
これ、と言いながら差し出してきたのは手首にある腕輪。その腕輪には治癒の魔鉱石が付いている。
ちらりと目をやると公爵令嬢の手首にも同じものが付いていた。指輪タイプのものは同じ属性の魔力を流さないと発動しない。だから治癒の魔鉱石は最初からスイッチの付いた腕輪タイプ。
治癒の魔鉱石に振り回され死にかけた私が治癒の魔鉱石に助けられるとは何とも皮肉なものだ。
その時視界の端で動く影が見えた。慌てて視線を向けると神官長と数人の男たちがこちらに両手を向けている。
「死ね!!!!!」
一斉に解き放たれるあらゆる魔法。水、氷、風、土の魔法が組み合わさり小さな竜巻のように渦を巻きながらこちらに一直線に向かってくる。
直撃する!!
そう思ってぎゅっと目をつぶったが実際に私に当たったのは爽やかなそよ風。驚いて目を開けると神官長たちもポカンという何とも間抜けな顔をしている。
「何人も集まってその程度の威力しかないのか。神官が聞いてあきれるな。私腹を肥やすことしか考えず己の腕を磨くことすらしなくなったのだから当然と言えば当然か」
八ッと笑いながら侮蔑に満ちた言葉を並べるアレックス様。どうやらとても怒っているらしい。
「なんだと・・・・」
神官長たちは真っ赤になりながらなおも手に魔力を込めたその時、ドオン!という音と共に一番端にいた男が吹き飛ばされ壁にたたきつけられた。そしてそのまま今度こそ完全に伸びてしまった。隣にいた男たちも同様に一人ずつ吹き飛ばされていく。逃げようとする者もいるがそんなこと叶うはずもなく、あっけなく壁にたたきつけられてしまった。
残るは神官長ただ一人。恐怖と焦りと怒りが混じったような微妙な表情を浮かべ、何かを叫びながら滅茶苦茶に魔法で攻撃した。しかしそれも私たちに届く前にシュッといとも簡単に消えてしまった。なおも何かを叫び続ける神官長。
そんな神官長を前にお前は特別だと言わんばかりに水の魔法で巨大な手を作り出すと上からベシャっと床にたたきつけた。床にたたきつけられた衝撃と上からの水圧で今度こそ完全に気を失ったようだ
。
部屋の中はかなりの惨劇になっているけど幸い死者は一人もいない。そのことにほっとする。いくら悪人とは言え舞踏会の時のように誰かが死ぬのはごめんだ。できればこの先一生経験したくはない。
それにしても・・・・・あれ?アレックス様いま指鳴らしてないよね?どうやって魔法発動させたの?未だ私を抱きしめたままのアレックス様にそんな疑問をぶつけてみた。今聞くことではないかもしれないが口が勝手に動いてしまったのだから仕方ない。
「ああ、私は王族のように視線だけで魔法が使えるのですよ。我がウェールズ公爵家には王族の血が流れているのでそれも関係しているのではないかと。でも切り札は取っておくべきでしょう?だから普段は指を鳴らさないと魔法が使えないふりをして油断させているのですよ」
さらっとそう言いのけるアレックス様。切り札とか言ってるけど、神官長たちとアレックス様との差は歴然で別に指鳴らしても勝てたんじゃないの?って思うけど、とりあえず黙っておくおことにした。
ほどなくして騎士団が到着し、神官長たちは縛り上げられて連れていかれた・・・・というより担いで運ばれていった。なんてったってみんな伸びてるから。
全員が運ばれていくと私もアレックス様に抱き上げられて近くに止めてあった馬車に乗り込んだ。その時マリーも公爵令嬢に付き添われて馬車に乗っているのが見えた。自分の足で歩いているところを見ると随分と回復したらしい。本当に良かったと私は改めて胸を撫でおろした。




