お茶会と謝罪と新たな疑惑
王宮に着くとすぐにメイドが案内してくれ、ドキドキしながら後をついて行くと、テーブルの上に所狭しと並べられた色鮮やかなスイーツが目に入った。そしてそのテーブルを囲むように座る数人の令嬢と貴婦人たち。
王室主催のお茶会にしては招待客が少ないこと、そしてほとんどが知った顔ということは私に配慮してくれたのだろう。あくまで謝罪のためというわけだ。私の気持ちが少しでもほぐれるようにと夜会で一緒にいた令嬢たちを招待してくれたようだ。
私は淑女の礼をして主催者である王妃様に挨拶をした。
「今日はお招きいただきありがとうございます、王妃殿下」
「べルティーナさん、来てくださって嬉しいわ。どうぞ座って」
王妃様は舞踏会の時に見せた恐ろしい顔が嘘のような優しい笑顔で出迎えてくださった。
開いている席に座って改めて招待客を見回すと、前に舞踏会でお会いしたイライザ様、エルザ様、フローラ様にメリンダ様、そしてウェールズ公爵夫人と確かあの方はノルマンディ公爵夫人・・・・だったはず。
ノルマンディ公爵家の令嬢も色んな意味で被害者だものね。この場に呼ばれていて不思議ではないけどどうして公爵令嬢がこなかったのかしら?
アレックス様も公爵令嬢も来ていないという事実にドキンと心臓が嫌な音を立てた。ううん、きっと偶然よ。
私は考え事を振り払うと王妃様の隣に座る貴婦人に目を向けた。黒曜石のような黒髪に金の瞳・・・・もしかして第一王子様の・・・・?
私の視線に気づいたのか、王妃様が紹介して下さった。
「べルティーナさんは初めて会いますわね。側妃のエリザベート様です」
「エリザベートです。初めましてべルティーナ様」
エリザベート様は春の光のような朗らかな雰囲気を纏っていて、同じ空間にいるだけで和む気がする、そんな不思議な方だ。
「ベルティーさん、先日の舞踏会では愚息が本当に申し訳ありませんでした。そしてべルティーナさんの気持ちも考えず減刑を願うなど国民の母たる王妃にあるまじき行為でした」
そう言って王妃様は深々と頭を下げた。私はびっくりして慌てて口を開いた。
「王妃様、お顔をあげてください。そのお言葉だけで充分です。この通り傷一つありませんから!」
「・・・・・・・ありがとう。お優しいのね。アレックス様のお陰でウィルドルフは罪を重ねずに済んだ。良いご子息を持ちましたね、ウェールズ公爵夫人。そしてべルティーナさんという素晴らしい方とのご縁があったこともとても喜ばしいわ」
「もったいないお言葉、恐れ入ります。私共もべルティーナさんが我がウェールズ公爵家と縁を持ってくださったことを幸運に感じておりますわ」
優雅に返事を返すウェールズ公爵夫人。まさにさすが公爵夫人という感じ。王妃様に声をかけられただけでワタワタしてしまう私とは大違い。
「ノルマンディ公爵家にも迷惑をかけましたね。本当ならレイラさんにも直接言いたかったけれど。」
「いいえ、私共も実害はございませんでしたわ。どうかお気になさらないでくださいませ」
「ノルマンディ公爵夫人の広い心に救われるようです。皆様もご覧になった通り、舞踏会の日私ひどく取り乱しましたでしょう?恥ずかしながらなかなか立ち直ることができなかったのです。でもエリザベート様が懸命に励ましてくださって、こうして気を保てるようになりましたの」
「私はただ王妃様のお役に立ちたかっただけですわ。王妃様以上に国と国民を愛し、慕われている方はおりませんもの。そんな素晴らしい王妃様をお支え出来たことが私の喜びです」
お互いに賛美を贈りあう王妃様とエリザベート様。これが本心なのか上辺だけなのかは分からない。後者だった場合人間の黒いところを見ているようで怖いのでとりあえず考えないことにした。
一通りの謝罪が終わり、話題は王都での流行のファッションやアクセサリーに移っていった。やはり女性はこの話題の方が盛り上がる。人の噂話以外では、の話だが。
話題が人気のカフェの2号店が今日オープンするという内容に移った時、ウェールズ公爵夫人がそう言えばと口を開いた。
「今回の日程の確認を受けた時、アレックスったら王都で大切な用事があるからどうしても無理の一点張りで。もし、その用事がカフェに行くというものだったらアレックスを許しませんわ。私が代わりに行く許可を頂けてどれだけ安心したことか。許可して下さった王妃様の寛大なお心に感謝いたしますわ」
「うちもですわ。レイラも今日王都で外せない用事があるとかで、代わりに私が。せっかく王妃様がお誘いくださったのに申し訳ありません」
と続けて言ったのはノルマンディ公爵夫人。
「いいえ、お二人ともから『実害はありませんでしたので謝罪は不要です。御心だけ頂戴いたします』と手紙が飛んできましたよ。出来たご子息、ご息女ですわね。それにウェールズ公爵夫人とノルマンディ公爵夫人にお会いできて嬉しいですわ」
王妃様が優しい笑顔でそう返すと、二人とも綺麗な笑みを浮かべて私たちもですわと返していた。
それからまた話題が変わり、おしゃべりは続いていく。最初は緊張して固まっていた令嬢たちも次第に慣れてきたようで積極的におしゃべりに参加していた。
私も笑顔で聞いてはいるものの、頭の中でさっきの言葉がぐるぐる回っている。
アレックス様も公爵令嬢も揃って今日王都で外せない用事がある。
やっぱり、私が見たのはアレックス様と公爵令嬢だったのかしら・・・・・。
そんなモヤモヤを抱えたままお茶会は終わり、二人の公爵夫人が帰るのを見送ってから私も王妃様とエリザベート様に別れの挨拶をした。
そして馬車へと向かっているところで後ろから声をかけられた。
「べルティーナ様」
「はい?」
振り向くとそこにはイライザ様たちがいた。少し後ろには気まずそうな顔をしたメリンダ様も。
「べルティーナ様、先日の舞踏会は大変でしたわね。ずっと心配しておりましたのよ」
「でもべルティーナ様を助けるアレックス様とっても素敵でしたわ!優しく抱きあげる姿はまるでお芝居の一場面のようでした」
「それに、私たちまで王妃様のお茶会に呼んでいただけるなんて!とっても緊張しましたけど幸せな時間でしたわ!」
それぞれ興奮気味に話すイライザ様たち。その圧に思わず圧倒されてしまった。
「やっぱりべルティーナ様の『アルたん』呼びがアレックス様の心を掴んだのではなくて?」
「は?!」
突然のことに変な声が出てしまった。いや、ていうか何言ってるの、フローラ様!
「フローラ様もそう思われます?なんでも婚約した方々やご夫婦の間でも流行っているとか。男性の方から愛称にたんをつけて呼んで欲しいって言ってるんですって!」
「私も聞きましたわ。もとから可愛らしい方に呼んでもらうのも嬉しいけれど、冷静で落ち着いた方に呼んでもらうとより嬉しくなるのだそうですよ。普段とは違う面が見れるのがまたいいと」
所謂ギャップ萌えってやつね・・・・。アレックス様への嫌がらせでやったことがこんな形で社交界に広がっているとは思わなかった。
うわどうしよう。もう恥ずかしすぎて夜会行けない。
「こんなに美しいベルティー様に呼んでもらえたんですもの。アレックス様の心が動いていないはずがありませんわ。少しずつ好意を抱いていたのが、べルティーナ様の危機で覚醒したのですね!」
うっとりと夢見る少女のように語る令嬢たち。当の本人である私は前回同様置いてきぼりにされたままその様子を見守っている。そんな令嬢たちに街で見たアレックス様と公爵令嬢らしき人物のことを言うわけにはいかず。確証がないうえに私自身信じたくないと思ってしまっている。
その後も少しおしゃべりをした後、イライザ様たちはそれぞれ馬車に乗って帰って行った。そして残された私とメリンダ様。さっきは頑なに口をつぐんでいたメリンダ様は二人きりになるのを待っていたかのように口を開いた。
「あの、両親と弟のこと本当に申し訳ございませんでした」
そう言って勢いよく頭を下げてきた。
「えっ、ちょっ、メリンダ様?顔をあげてください!謝罪なら何度も手紙で受け取りましたし、メリンダ様は悪くないじゃないですか!」
私がそう言うとメリンダ様はゆっくりと顔をあげた。その目には涙がにじんでいる。実は舞踏会の翌日から何度もメリンダ様とお兄様のエドワード様から謝罪の手紙とお詫びの品が届いていた。その手紙を見てやっぱりメリンダ様は何も知らなかったんだと確信した。
「どうしても直接謝りたかったのです。私、父たちが何か良くないことをしていると薄々気づきながらも何もしなかった。それが・・・弟の心を傷つけべルティーナ様を傷つけることになるなんて・・・・・」
ついにポロポロと大きな涙を流しながら話し続けるメリンダ様の背中を優しくさすりながら、大丈夫ですよと声をかけ続けた。私自身トラウマになりそうなほど怖い思いをしたけど、ある意味メリンダ様も被害者なんだなと改めて思った。
マリンガム子爵家の一員として社交界に残れたとして、向けられるのは反逆者の家族という冷たい視線。縁談がまとまることすら難しいかもしれない。そして突然跡を継ぐことになったお兄様もさぞ大変なことだろう。私はそんなメリンダ様を慰めるように背中をさすり続けた。
しばらくして落ち着きを取り戻したメリンダ様はもう一つ、私に伝えたいことがあったと言った。
「舞踏会でお会いした時、数年前に起きた山賊事件のことを気にしておられたので調べてみたんです。父が一番詳しかったのですが、あんなことになってしまったので聞けず仕舞いで。ダメで元々と兄に聞いてみたらその時のことを覚えていました。もちろん父ほど正確ではなく断片的ですがそれでもよろしいですか?」
「大丈夫です。どんな内容だったのですか?」
「5年前、リンネイルからモリスヴェイン伯爵家にあてた積荷が山賊に襲われたそうです。とても大切なものだったそうでモリスヴェイン伯爵家は大慌てで山賊の行方を捜したのですが見つからず。このままでは国際問題になるかもしれない、そんな時助けてくれたのがウェールズ公爵家だったそうです。ウェールズ公爵家は山賊のアジトを見つけ出し積荷を奪い返すことに成功して事なきを得たと聞いています」
私はその話を聞いて固まってしまった。
・・・・・・・5年前?それって・・・・
茫然としたまま黙り込んだ私に慌ててメリンダ様が声をかけてきた。
「すみません、こんな情報しかなくて。大まかすぎますよね」
その声で我に返った私は急いで笑顔を貼り付けてメリンダ様にお礼を言った。
「い、いいえ。とても参考になりましたわ。ありがとうございます」
私の言葉にホッとしたメリンダ様は『私も帰りますね』とマリンガム子爵家の馬車へと歩いて行った。




