手紙とプレゼント
短めです
私はぼーっと部屋に飾られた花を眺めながら頬杖をついている。あれから数日が立ち、いつもの平和な日常が戻ってきた。舞踏会の翌日はさすがに1日休ましてもらえたが次の日から早速レッスンが再開された。そして今は間の休憩時間。こんな風にぼーっとする時間が無ければさすがにやっていられない。
そんな忙しくもいつも通りの日常を過ごしているが舞踏会に参加する前と明らかに変わったことが一つ。
コツコツコツ
窓をたたく音。噂をすれば影ってやつかしら。今日も来たわ。
近くにいたマリーが窓を開けて手紙を小さなプレゼントの箱を受け取った。さっき窓をたたいていたのはこのプレゼントの箱らしい。
「お嬢様、今日も来ましたよ。アレックス様からのお手紙」
そう、変わったことというのはこれだ。これまで私のことをほったらかしにしていたというのに舞踏会以降毎日こうして手紙とプレゼントを贈ってくるのだ。プレゼントと言っても前に贈られてきたようなドレスや宝石などの高価なものではなく、花や可愛らしい見た目のお茶菓子などのささやかなもの。
私はカサッと手紙を開いた。
『愛するべルティーナ嬢。たった数日なのにあなたのことが恋しくてたまりません。しかし、離れている日々が二人の絆をより強いものにすると言いますし、今は耐える時だと思い父の仕事を手伝っています。
べルティーナ嬢も良い一日をお過ごしください。 あなたのアレックスより』
本当に私の知っているアレックス様なのかと疑ってしまうほど、手紙は甘い言葉で埋め尽くされている。っていうか説明するって言ってたのはどうなったのよ。てっきり一日二日で呼ばれると思っていたのにそのことについては一切触れられていない。
プレゼントの箱をそっと開けると中にはいくつかのチョコレートが入っていた。それぞれ味が違い、とても上品な味がした。この中では断トツイチゴのチョコが美味しかった。
今までの私だったら、こんな手紙が届いたら破いてくしゃくしゃに丸めて捨てていたはず。
でも今日は何かの説明があるかもしれない、そう思うと手紙を開かずにはいられない。
・・・・・でもプレゼントを開ける必要はないわよね?それを食べる必要も。
いや、でもチョコに罪はないし。美味しいし。うん、そうよ。私は甘いものが好きなんだもの。早く中身のある手紙来ないかしら。
そんなことを思ってから早一ヶ月。季節は秋に移り変わり、紅葉が美しく色づいている。私は休憩時間をぼーっとして過ごすのが日課になっていた。そして聞こえるコツコツと窓をたたく音。
視線だけ窓の外にやるとそこには手紙と小さなプレゼントの箱。一ヶ月経ってもアレックス様からの説明とやらは聞かされていない。私はいつものように手紙を受け取った。
「アレックス様もマメですね。よほどお嬢様のことが大切なんでしょうね」
すました顔でそんなことを口にするマリー。ちょっと!目が笑ってるのバレてるわよ!
「わ、私がアレックス様からの手紙を待ってるみたいじゃない」
「違うんですか?」
「違わないけど、内容が違うというかなんというか・・・・」
ごにょごにょと否定してみるも、待っていることには変わらないので微妙な感じになってしまった。それに最近では甘い言葉で埋め尽くされた手紙を受け取ることに慣れてしまって、いざ説明をとなると逆に聞くのが怖い気すらしていた。
もし私が思っているような内容じゃなかったら?・・・・なんて。
それにしても毎日毎日休憩時間を見計らったように手紙が送られてくる。まるでどこかで見張っているみたい・・・・・私はその時舞踏会の時のアクセサリー(GPS)を思い出した。
・・・・・・・・まさか、ね。いくら何でも常に監視しているなんてこと無いわよね。きっと偶然よ、うん、そう。
変な考えを打ち消すようにぶんぶんと頭を振ると手紙をカサッと広げた。中には王室主催のお茶会の招待状と一緒にいつもの手紙。
『愛しいべルティーナ嬢。今日の朝は少し冷えましたね。体調は崩されていませんか?王宮から連絡があり、以前陛下が仰っていた謝罪の場を設けたいそうです。私は忙しく時間が取れそうにないと伝えたところ、べルティーナ嬢だけでも招待したいとのことで王室主催のお茶会を開催することになりました。招待状を同封します。一人で行かせることになってしまい心苦しいのですがどうかご理解ください。 あなたのアレックス』
アレックス様は行けないのね。・・・・・・なに、私、残念がってるの?ここはやったーって喜ぶところなのに、どうしたっていうのよ。アレックス様には散々嫌な思いをさせられたじゃない!夜会では基本ほったらかしだし、連絡はいつも急だし。でも命助けてもらったし、毎日手紙とプレゼント贈ってくれるし・・・・って何手紙を大事に鍵付きの引き出しにしまってんのよ!うう、手が勝手に・・・・
「お嬢様、さっきから何をブツブツ言ってるんですか?」
「え!?声漏れてた?」
「はい。結構漏れてること多いですよ。あと、次のレッスンが始まるまでにその髪を直していかれた方がよろしいかと」
「キャー!ナニコレ?!」
マリーの言葉で慌てて鏡を見ると髪がぐしゃぐしゃになっている。あれこれと葛藤している間に手でかき乱してしまったらしい。
慌てる私をよそにマリーはくし片手に丁寧に私の髪をとかしていく。私もとりあえず落ち着こうとお茶会の招待状を見た。そこに書いてある日時は3日後のお茶の時間。よし、まだ時間はあるわね。私はその招待状をマリーに見せて準備をお願いと告げてから次のレッスンへと向かった。
そしてお茶会当日。王室主催ということで露出少なめのドレスにしてもらった。流れるようなラインが美しい黄色のドレスで後ろにある大きなリボンが特徴だ。
馬車に乗り込みガタゴトと王宮に向けて街を通り抜けている時、見覚えのある後姿を見つけた。輝く金の髪のすらりと背の高い男性と燃えるような赤い髪の女性。後姿だけではそうとは言い切れないがアレックス様と公爵令嬢のようにも見える。その二人はこちらを振り向くことなく近くのカフェに入って行ってしまったので結局アレックス様たちかどうか確認することはできなかった。
アレックス様はここ最近休みも取れないほど忙しいと言っていたもの。きっと違うはずよ。そう思いながらも何故か心はモヤモヤしていた。




