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断罪の時間

会場の中はしんと静まり返り国王陛下の怒った声だけが響いていた。先ほど第一王子様が踊っていた場所には第二王子とマリンガム侯爵がアレックス様に縛り上げられた状態のまま座り込んでいた。

今まさに断罪式の最中らしい。


「お前に王子としての資格はない!よって王位継承権を剥奪の上、辺境の土地に追放処分とする。行動の一切を監視され、許可なく外部と接触を図ることを禁ずる」

「陛下、それはあんまりです。ウィルドルフが色々と画策したとはいえ全て未遂ではないですか!」

「母上・・・・。父上お願いです。お許しを」


第二王子は目をウルウルさせながら国王陛下に慈悲を求めた。しかし陛下の眉間のしわがさらに深くなっただけだった。

これだけのことをやらかしておいて慈悲を求めるなんて何て厚かましいんだろう。少し前まで王族としてふんぞり返っていたバカ王子は今や見る影もなく、人々の冷たい視線を浴びせられている。


「ならん!ウィルドルフはこの国を混乱に陥れようとしただけでなく帝国との戦争まで画策していたのだぞ!未遂だからこれで済まされているのだ。どれか一つでも成っていたら即刻死刑にするところだ!自らが何をしでかしたのかをしっかりと反省しろ!」


その言葉に王妃様も何も言えず、辛そうな顔のまま目を閉じた。バカ王子は納得がいかないらしくあんまりです父上!!と色々叫んでいるが国王陛下がギロッとひと睨みするとまるで蛇に睨まれた蛙のように口をつぐんだ。


陛下の迫力やばい。さすが国を守る国王というべきか、実の息子に対しても全く容赦がない。見ているだけの私も思わずビクッとしてしまった。


「そして、マリンガム侯爵の処遇についてだが」


そう言ってマリンガム侯爵に視線を向けた時、一人の青年が前に進み出た。


「恐れながら陛下、発言を許可して頂けませんでしょうか?」


すらりと背の高いクリス様によく似た青年だった。しかしクリス様とは違い凛々しい雰囲気に少し長い髪、そして紫の瞳をしている。すでに騎士団を退団したというクリス様のお兄様だろうか?


「マリンガム侯爵の長男か。良いだろう、発言を許す」

「ありがとうございます、陛下」


クリス様のお兄様―――アレックス様がエドワード様だと教えてくれた―――深々と優雅に礼をした後ピシッと背筋を伸ばした。


「この度の父と弟による陰謀の数々、誠に申し訳ございませんでした」

「父と弟以外は関係無いと言いたいのか?」


陛下の瞳がギラリと光る。先ほどの第二王子に対するほどではないが中々に怖い。しかしエドワード様は動じず、静かに首を振った。


「いいえ、父を諫めることができなかった私たちにも非があります。我がマリンガム侯爵家一同、いかなる処分も受け入れる所存です」

「兄上・・・・・」


近くで見ていたらしいクリス様がボソッとエドワード様を呼ぶ声が聞こえた。その声がする方に視線を向けるといつものチャラさはどこへやら、悲痛な顔をして成り行きをみている。兄を守るつもりで行ったことが結局兄を追い詰めてしまった。つくづくマリンガム侯爵は酷いことをしたと思う。


「ふむ・・・・。それではマリンガム侯爵家は一部領地没収の上、子爵に降格とする。そして現侯爵夫妻と弟のクリスフォードは一定期間投獄の後領地に送ることとする。今後、信頼を回復できるかどうかはお前にかかっているぞ、エドワード」

「承知いたしました。寛大な処置に感謝いたします」


エドワード様はまた深々と礼をして父親に目をくれることもなく、会場の隅へと歩いて行った。どのくらいの期間かは分からないが、牢屋生活を送った後は隠居しろということだろう。


尤も隠居という名の事実上の幽閉。また何かしでかさないよう、家族で見張れということなのだ。また問題を起こしたらその時こそ重い罰が下される。


やらかしたことを思えば死罪にされても文句は言えない。まさに寛大な処置というわけね。


「アスペン子爵家については追って処分を与える」


この場にいないアスペン子爵家は後に王宮に呼び出され処分を受けるそうだ。


陛下の「連れていけ」という言葉とともに第二王子とマリンガム侯爵は近衛騎士によって連れていかれた。第二王子は元気を取り戻したようで「何でいつも兄上ばかり大切にされるのです!なぜ私だけ!!」と叫んでいる。対する侯爵はまるで10歳は老け込んだのではないかというほどげっそりしている。第二王子の叫びにこたえる声はなく、叫び声だけをこだまさせながら第二王子たちの姿は見えなくなっていった。


第二王子たちを連行した騎士とは別に庭園に向かっていく騎士の姿も見えた。おそらく子爵令息の亡骸を回収しに行ったのだろう。思い出すだけでもゾッとしてしまうため私は考えるのをやめた。


それにしても、これで夜会に行く度にバカ王子がいないかびくびくしなくて済むと思うと正直ホッとする。完全に気を抜いたその時


「べルティーナ嬢、アレックス」


突然陛下に名前を呼ばれ、飛び上がりそうなほどびっくりした。慌てて顔を向けると国王陛下は疲れ切った顔をしていた。


そりゃそうよね、とんでもないことをしでかしたとは言え我が子を自分の手で断罪したのだ。馬鹿な子ほど可愛いというし。王位は継げないけど第一王子様を支えてほしかったと思っているだろうな。


「バカ息子が本当に申し訳なかった。特にべルティーナ嬢は怖い目に合わせてしまったね」

「い、いえ・・・」


怖い目どころの話じゃないけど。でもそんなこと陛下に向かって言うわけにもいかず・・・・


「全くです」


って、えぇ~~、アレックス様?!私は心臓が飛び出そうなほどびっくりしながら国王陛下の顔色を伺った。でも特に怒っている様子はないようでホッとした。


「きちんと謝罪がしたいのだが、日を改めてまた王宮に来てくれるだろうか?」

「は、はい!大丈夫です」

「分かりました」

「詳細は追って知らせる」

「ええ、お待ちしています。それでは私たちはこれで失礼させていただきます」


そう言い残すとアレックス様は私を連れてさっさと会場を後にした。すぐに公爵様夫妻と私の両親も追いかけてきてくれた。そしてなぜか公爵令嬢も。


「ベル!!」

「ベル、無事でよかった!心臓が止まるかと思ったわ」


目に一杯涙を溜めたお父様とお母様にぎゅっと抱きしめられ、苦しいけれど嬉しいと思ってしまった。

お父様たちの策略のせいで私はこんな目にあって憎いはずなのに、心から心配する姿につい気が緩み声を上げて泣いた。


「こ、怖かった・・・・!!」


うわぁーっと大声で泣く私の背中をお母様が優しくさすってくれる。そのぬくもりに少しほっとする。


ひとしきり泣いた後、私が苦しいですと訴えるとお父様たちは慌てて私を離してくれた。改めて顔を見ると目が真っ赤になっている。お父様たちもかなり泣いたらしい。


「魔道具の映像が突然会場の空中に映し出されたの。そしたらあなたがバカ王子たちに襲われていたものだから、本当に心臓が止まるかと思ったわ。すぐに助けに行こうとしたんだけど、公爵様が『アレックスが必ず助けるから大丈夫だ』っておっしゃって・・・・。ねえ、あなたがバカ王子に襲われたのはノルマンディ公爵令嬢のことがあったからなの?」

「それにマリンガム侯爵邸での事件とは何だ?!ドレスを汚されただけだと言っていただろう?アレックス君これはどういうことだ?」


全てを知っているはずのお父様たちがなぜそんなことを言うのか分からず混乱していると、アレックス様がいきなり頭を下げた。


「すべて私の責任です。いかなる責めも受けますので、どうかべルティーナ嬢には私から説明させていただけないでしょうか。お願いします!」


なおも頭を下げ続けるアレックス様にお父様もしぶしぶ了承した。当の本人である私は未だ置いてきぼりにされたままだけど、きっちり説明してくれるというのだ。ここは黙っておこう。


「べルティーナ嬢、今日はもう遅いので日を改めさせてください」

「分かりました」

「レイラ、今度三人で改めて話がしたい。時間を作っておいてくれ」

「分かったわ」


公爵令嬢は何かを言いたそうにこちらをチラチラ見てくるけど、アレックス様の言葉に静かに頷いた。


私自身公爵令嬢に気を遣う余裕などなく、ちらりと見ただけで何も言わなかった。


「べルティーナ嬢、話し合いの日取りが決まりましたら連絡します」

「分かりました」


私は素直に頷いて両親と一緒に馬車に乗り込んだ。両親は無事でよかったと何度も繰り返すので何だかいたたまれなくなってしまった。私は話題を変えようと、令嬢たちから聞いた山賊の話を聞いてみることにした。


「お父様、最近山賊が出ているというのは本当ですか?」

「うん?ああそうだ。あちこちで被害が出ているようで、騎士団も対応に追われているらしい」

「何年か前にも山賊の被害があったと聞いていますわ。確かモリスヴェイン伯爵家も被害に遭ったとか?」


その話を聞いた途端、お父様とお母様がギクッとした。


「さ、さあ。よく覚えていないな。大した積荷じゃなかったんだろう」

「そんなことよりベル、今日は本当に大変だったんだもの。疲れたでしょう?少し寝た方がいいわ」


明らかに何かを隠しているお父様とすぐに話題を変えてきたお母様。何かあるのは間違いないけど私に教える気はないみたい。


ここで食い下がっても教えてくれるとは限らない。私はフゥっと小さく息を吐いてお母様の話に乗ることにした。


「そうですね。少し休みます」


まだ恐怖が残っていて寝るどころではないと思ったけど、目を瞑ると以外にもすぐに眠くなった。もう体力の限界ということだろう。そうして私が眠っている間に馬車は伯爵邸に到着した。


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