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いざ陛下のもとへ

そう言うとアレックス様はまた指をパチンと鳴らした。先ほどまで私を締め上げていた生垣の植物がアレックス様の魔力でロープほどの太さになり、あっという間に第二王子様とこっそりと逃げようとしていたマリンガム侯爵を縛り上げた。


「こ、このまま父上のもとに突き出すつもりか!ここで起こったことはお前とそこの女しか知らないんだぞ!父上と母上は俺の言葉と不敬を働いたお前の言葉、どちらを信じると思う?!」


えー・・・・・そりゃ、アレックス様の言葉の方が信じられそうだけど・・・・。確かにバカ王子の言う通り信じてもらえなかったらどうするつもりなんだろ?

私もひどい目に遭ったけど、特に目立った傷もないし、アレックス様もピンピンしてる。マリンガム侯爵は絶対に自分が不利になるようなこと言わないだろうし、子爵令息はあんな状態だしで・・・・。


私のそんな心配などどこ吹く風、アレックス様は何だそんなこと、と余裕しゃくしゃくの態度を崩さない。


「殿下ともあろうお方が知らないのですか?」

「なっ、何をだ?」

「やれやれ・・・。殿下、王宮の庭園は広いでしょう?これだけ広いと王族に害をなそうとする輩がこっそり隠れるのにもってこいなんですよ。だから監視することにしたんです、24時間体制で」

「監視だと?!この広い庭園を隅まで監視などできるわけないだろう!それに今まで監視している奴など見たことないぞ!」

「誰が警備を配置してると言ったんです?映像と音を記憶できる魔道具をそこかしこに埋め込んでいるんですよ。王族なのに知らないってことはよっぽど陛下からの信用が無いんですねぇ」

「映像と音を記憶できる魔道具だと?!そんなもの見たことも聞いたこともない!でたらめを言うな!」

「それがあるんですよ。と言っても1年前にできたばかりでリンネイルの技術が詰まった特別な魔道具です。リンネイルの皇帝から国王陛下に友好の証として贈られたものの一つですよ。何でも光の魔鉱石と風の魔鉱石を組み合わせて応用しているものらしいですが、詳しい仕組みは知りません」

「そ、そんな・・・・」


第二王子様もマリンガム侯爵もあからさまに青い顔をして黙り込んでしまった。

そこに追い打ちをかけるようにアレックス様は更に続けて言った。


「そうそう、庭園内で異常があれば即座に国王陛下に知らされる仕組みになっています。ですから心配なさらなくてもすでに国王陛下も王妃殿下もさらには舞踏会に参加している貴族たちまで一連の出来事をご覧になっていますよ」

「ひっ・・・・」


もはやショックを受けすぎて何も考えられないようだ。第二王子はガタガタと震え、マリンガム侯爵は真っ青な顔のまま魂が抜け出たようになっている。

そんな二人の様子などお構いなしにアレックス様は風魔法でさっさと二人を舞踏会の会場まで飛ばしてしまった。


そして私の方に向き直るとゆっくりと近寄ってきた。

な、なんだろ、なんかそわそわする・・・・。だんだんと近づいてくるアレックス様を見ながら落ち着かない気持ちになる。

そんな私をアレックス様はふわりと抱き上げた。


ちょ、これ、お姫様だっこじゃん!!ぎゃ~~~!


「あ、アレックス様、皆さま見ているんでしょう?恥ずかしいです!」

「ああ、大丈夫ですよ。そこから中に入ってしまえば映像は途切れるはずですから。それに今頃はバカ王子と侯爵の登場で映像どころではないでしょう」

「そ、それはそうかも、しれないけど・・・」


未だもごもごと抵抗の言葉を並べる私に構うことなくさっさと歩きだして扉を開けるアレックス様。今までだったらこんなに密着していたら気持ち悪くて鳥肌どころじゃなかったはずなのに、不思議と気持ち悪いとは思わない。命を助けてもらったかしら?特殊な状況だからよね、きっと。


「調子はどうですか?べルティーナ嬢?」

「へ?あ、ああ。大丈夫ですわ。もう一人で歩けるくらいですけど・・・・・」


だから下ろしてと言おうとしたのだけど、


「まだ駄目です」


と即座に否定されてしまった。意地でも私を下ろすつもりはないらしい。気持ちの悪さは無くなったけど、恥ずかしさは残っているわけで。いたたまれなくなった私は気になっていたことを聞いてみることにした。


「あの、映像で確認されたとはいえ、どうしてすぐに場所が分かったのです?」


庭園は似たような風景の場所が多い。だからよほど詳しくないと庭園のどのあたりかまでは分からなかったはず。私が第二王子様達に見つかってからアレックス様が来てくれるまでそんなに時間はかからなかった。いくら何でも見つけるのが早い気がする。


「ああ、それは、あなたに贈ったアクセサリーに私の魔力を込めてありますからね。自分の魔力を辿ってきたまでです」

「はい!?」


え、ちょっと待って、この人今さらっと言ったけどすごいこと言ったよね??!身に着けてるだけで場所を特定できるってGPSじゃん!


私は前世にあった場所を特定できるシステムを思い出していた。そういえばさっき言ってた映像と音を記憶できる魔道具ってさながら監視カメラだよね・・・・。変なところで前世と共通するものを知ってしまい不思議な気持ちになる。


「それはそうとべルティーナ嬢」


考え込んでいる私にアレックス様の真剣な声が聞こえてきた。ふと顔を見上げると少し怒っているようにも見える。


「舞踏会が始まる前に言いましたよね?会場から外に出てはいけないと。どうしてあの時走って逃げてしまったのです?」


え、えぇ~~~それ言わせる?あれは作戦で予想外の反応に動揺して逃げましたなんて言えるわけもなく・・・・・。私が黙っているとアレックス様が申し訳なさそうに顔をゆがませた。


「いえ、もとはといえば油断した私が悪かったのです。標的は自分だからと注意を怠った」

「先ほども話されてましたけど第二王子様達の企みを知っていらしたのですか?」

「ええ、そうです。レイラを手に入れるための作戦にことごとく失敗した彼らは私を消しにかかるだろうと思っていましたからね。普通の夜会やパーティーでは王族が出向くだけで注目される。特にバカ王子は悪目立ちしますからね。手を下しにくい。それに引き換え今回は王室主催の舞踏会。大勢の貴族が出入りしているうえにバカ王子がいても誰も気にしない。絶好の機会というわけですよ」


バカ王子らしい短絡的な考え方というわけです。と悪びれもせずアレックス様は続けた。確かに今回の騒動を計画していたというよりはいい機会じゃん、やっちゃおうって感じだったな。少しでもまともな考えがあるなら事前に作戦くらい練っておくはずだろうに。


「彼らが狙っていたのはあくまで私ですのでいつ襲われてもいいようにしていたのですが、万が一にもあなたまで狙われたらいけない。そう思って会場から出ないで下さいとお願いしていたのですよ」


アレックス様曰く、セイドリアン様にも私を外に出さないようにと協力を頼んでいたらしい。一方のクリス様にはバカ王子がまだ公爵令嬢を諦めていないらしい。だから常に誰かがそばにいないといけない。会場の外には決して出すなと偽の作戦を伝えていたらしい。


だから私が廊下に出ると言っただけでセイドリアン様は止めたのね。それなのにクリス様は快く送り出したから驚いていたんだ。


「後からレイラも来たでしょう?しかもクリスに行けと言われたと。その言葉で今日何らかの行動に出ると確信したんです。マリンガム侯爵(父親)から何の指示もないのにわざわざそんなことしないだろうし。大方バカ王子が何を言い出すか分からないからアレックス()とレイラを貴族連中から引き離しておけとでも言われたんでしょうね」


全く、馬鹿なやつだ・・・・とアレックス様は呟いた。やはり学園時代から親しくしてきた友人の裏切りに心を痛めているのだろう。わたしだってグレースに同じことをされたら立ち直れる気がしない。


そうこうしているうちに舞踏会の会場の前まで来ていた。あれ、こんなに近かったのね。闇雲に走って回り道をしたから遠いと感じていただけで実はそこそこ近かったらしい。


「そうだ、アレックス様、私まだ聞きたいことがあって・・・・」

「何ですか?」

「あの、さっきバ・・・・第二王子様に話していた公爵令嬢との本当の関係って何ですか?」


その瞬間、アレックス様の顔が陰り、私を抱く手にぐっと力が入った。え?聞いちゃいけないことだった・・・・?


「それについては改めて説明するので、それまで待っていてもらえませんか?」

「あ、はい・・・」


釈然としないけど有無を言わさぬ雰囲気のアレックス様に首を縦に振ることしかできなかった。

そしてそのままぐっと会場の扉を開こうとするので私は慌てて抗議した。


「あ、アレックス様、下ろしてください!」

「なぜです?」

「いくらなんでもこれはまずいですから!お願いします!!」


必死に頼み込むとアレックス様は渋々私を下ろしてくれた。まるで大切なものを扱うようにゆっくり、そっと下ろされるものだから何だかくすぐったくなってしまった。私って、そんなに脆く見えるのかしら?


そしてアレックス様が扉に手をかけ、開けようとしたところでこちらを振り返った。


「あ、そうそう、婚約は破棄しません」


その一言だけ言い放ちさっさと中に入って行ってしまった。私はその言葉を深く考える余裕もなく、慌ててアレックス様に続いて中に入った。

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