向けられる狂気と認識阻害
また痛いシーンが出てきます。苦手な方は飛ばしてください。
短めです
「だ、断罪だと?何をするつもりだ!」
あからさまにアレックス様を警戒してじりじりと後ずさりをしていたが、ちらりとどこかに視線を向けた後いきなりニヤリと笑った。
「ルイス!今だ!!」
突然名前を呼ばれた子爵令息がどこからか飛び出してきてアレックス様に掌を向けた。それと同時に何かの魔法が発動される。
あ、この人の存在忘れてた!あまりにも綺麗に無視されていたわ・・・・ね・・・・え?
な、なんか地面揺れてない?
ガガガガ バキバキバキというすごい音と共に令息の足元の地面がひび割れ、まっすぐアレックス様に向かって隙間が広がっていく。地割れがアレックス様まで到達したときには人一人余裕で落ちそうなほどの広さになっていた。
アレックス様、逃げて!!と叫ぼうと思ったけれど、目の前の光景にその言葉も飲み込まざるを得なかった。
だって、アレックス様浮いてるんだもん。しかもその場から一歩も動くことなく平然とバカ王子に顔を向けている。つまり子爵令息のことなどつゆほども気にしていないということだ。
「自分の身を突然できた地割れから守るために風魔法で身体を浮かす。初歩的な魔法ですよね、殿下」
いや、咄嗟にそんなことできる人あんまりいないと思うけど・・・・。慌てて風魔法で身体浮かすと下手したら飛んでいくし。
バカ王子は一見悔しそうにしているもののどこかそわそわしている気がする。なに?まだ何かあるの?
「死ね!アレックス!!」
「!!」
気が付くと子爵令息がアレックス様にナイフを突き立てていた。私の角度からは良く見えないけど深く刺さっているように見え、血がポタポタと滴っている。いつの間に移動したのか分からないほど急に子爵令息が現れた。訳が分からない。ずっと見ていたはずなのに。
「アレックス様!!!」
私は咄嗟にアレックス様の名を叫んだ。どうか、どうか無事でいて・・・・!無我夢中でアレックス様の方に駆けだそうとする私を、マリンガム侯爵が遮る。治癒魔法でアレックス様の傷を治させないためだ。いくら回復してきたとはいえ、まだフラフラの私が恰幅のいいマリンガム侯爵を押しのけることなどできるわけもなく。ただひたすらそこから成り行きを見つめることしかできない。
一瞬が千年にも感じられるような緊迫した状況の中で子爵令息と第二王子様の高笑いする声だけが響いている。
「お前のことがずっと気に食わなかったんだよ!偶然恵まれた環境に生まれただけのくせにいつも偉そうにしているお前が!!どうだ?苦しいか?このナイフには毒も塗ってあるんだよ!天下のアレックス様も刺されたら即お陀仏さ!!ハハハハハハハ」
「よくやった、ルイス!地割れで攻撃をカモフラージュしたのもうまかったぞ!アレックス、レイラへの別れの言葉くらいなら聞いてやるぞ、アハハハハハハ」
そんな、毒まで・・・・アレックス様!!!
「ハハハハハ・・・・はは…は」
「おい、ルイスどうした?」
相変わらず高笑いしている子爵令息の様子がおかしい。目はうつろになり、グラグラと揺れている。第二王子も気づいたようで怪訝な表情を浮かべている。
「認識阻害の魔法か。子爵令息のくせに高度な魔法が使えるなんて驚きだな。まあでもあまりにちゃちでこれでうまくいったと本気で思っていることの方が驚きだがな」
・・・・・え?
刺されて血が出ているはずのアレックス様が突然口を開いた。しかもその口調からは余裕すら感じられる。
「本物の認識阻害というのはこうするんだよ」
「な・・・に・・・言って・・・・おれの、ナイフはお前にささっ・・・・」
「そう?ではこれではどうかな?」
そう言ってアレックス様がパチンと指を鳴らした途端、第二王子も子爵令息も驚愕の表情を浮かべた。
マリンガム侯爵は予想外の展開に口をポカンと開けて固まっている。その隙に私はアレックス様のもとへ駆け寄った。
「!」
そこで私が見たのは子爵令息が自分の左の手にナイフを突き立てている姿。すぐそばにいるアレックス様にはその刃は届いていない。滴っている血も子爵令息の手から流れているものだった。
「ど、どういうことだ!!なんでさっきまで貴様を貫いていたナイフがルイスの手に刺さっているんだ!」
「だから言ったでしょう?本物の認識阻害を教えてあげますと。私はベル以外の全員にルイス君の手が私の身体だと思うように認識を変えた、つまり思い込ませたんですよ。認識阻害は単に姿を消すだけの魔法じゃありませんからね。そしてその魔法を解いた今現実に起こっていることを認識できるようになったというわけです」
尤も痛い思いをするくらいで殺すつもりはありませんでしたが、毒まで塗っていたとは・・・・自業自得ですね。と続けてさらっと言った。
それと同時に子爵令息の身体がその場にドサッと倒れこんだ。治癒魔法を使おうにもすでに息絶えているようだった。アレックス様はそんな彼を一瞥した後私に視線を移した。思いがけず視線が絡まりドキッとしてしまった。
アレックス様は私の顔を見るなり悲しそうな顔になった。え?私の顔何かついてる?
「ベル・・・・?泣いているのか。すまない、驚かせたくなくて君には魔法をかけなかったのに、後ろからで良く見えなかったんだね」
・・・・・・え?泣いてる?わたしが?
まさか、と信じられずそっと自分の頬に触れてみると確かに濡れている。そんな、私アレックス様のこと大嫌いなはずなのに・・・・アレックス様のために泣いたの?それに私、アレックス様が無事なことにホッとしてる・・・・?
自分で自分が分からず茫然としているとアレックス様が指で私の涙を拭った。ビクッと大きく体がはねて突然我に返った。
な・・・・・な・・・・、何してんの?!
あまりに驚いてしまい、目を見開いたままさっきとは別の意味で黙り込んでいると、アレックス様が声をかけてきた。
「ベル、もう少しだけ座って待っていてくれないか?最後の仕上げをしないと」
私は黙ってこくんと頷き、大人しくベンチまで戻った。
それを確かめてからアレックス様は改めて第二王子に向き合った。
「さあ、バカ王子殿下。改めて断罪の時間とまいりましょうか」




