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渦巻く狂気2

少し過激なシーンがあります。

苦手な方は飛ばしてください。

「お前、俺を舐めすぎだろ。あの程度の氷で足止めしたつもりか?」


ゼエゼエと息をしながら力を振り絞って後ろを見ると、そこには私に向かってゆっくり歩いてくる第二王子様。そして私の足に絡みつく生垣の枝。そこには綺麗な花もついているが、今の状況ではそれそらおぞましく思える。


一方の第二王子様も思わぬ反撃を受け怒ったのか、一人称が僕から俺に変わっている。どうせ殺す私に取り繕う必要もないっていうこと?


「な、何で・・・・」


氷は?と呟くようにそう言うと第二王子様は嘲笑うように答えた。


「お前、子爵家の小僧に俺の薔薇が燃やされたから油断したんだろ?あの時は八つ当たり程度だったから本気じゃなかったんだよ。俺は王族だぞ?木属性が得意っていうだけで他の魔法もお前なんかよりよっぽど威力があるんだよ。あの程度の氷燃やせないとでも思ったのか?」


そ、そんな・・・・・


第二王子様が視線を僅かに上に向けると、私の足を絡めとっていた枝が身体を持ち上げ、さらに両側の生垣からシュルシュルとたくさんの枝が伸びてきて私の身体をきつく締めあげた。


宙づりの状態で自由を奪われ、恐怖のあまり目を見開き口を震わせることしかできない。皮肉にも開けた視界で辺りの様子が良く見える。


私が張った氷は跡形もなく消え、周りに焦げたような跡はない。私の氷だけを溶かしたっていうの?あの状況でそんなことができるなんて相当に魔力コントロールがうまい・・・・。確かに私は自分の魔力でどうにかできると思っていた。完全に油断したわ。


悔しさにぎりっと唇をかみながら自分の浅はかさを呪った。どうしよう、どうやってここから抜け出す?

魔力はもうほとんどカラだし・・・・。あああ!何も考えられない。私これからどうなっちゃうの?


私の脳裏に薔薇の棘で全身傷だらけになった時の記憶がよみがえり、体が震えた。さっきあの時は八つ当たり程度だったと言っていたわね。今回は私を殺そうとしているわけだからあれの比じゃないはず。


バクバクという心臓の鼓動だけを聞いていると、子爵令息と侯爵様もゆっくりと歩いてきた。宙づりで頭が下になっている私は自然と見下ろされる形になっている。私、伯爵令嬢なのに!こんなあられもない姿をじろじろと見られるなんて屈辱よ。前世でもこんな扱い受けたことないわ。


皮肉にもその怒りから冷静さを取り戻した私は精いっぱいの虚勢を込めて彼らに訴えた。


「私を殺したら両親が黙ってないわ!この舞踏会の最中でいなくなったと国王陛下に訴えるだろうし、陛下も帝国とのつながりの深いモリスヴェイン伯爵家(我が家)の訴えを無視できないはずよ!」


ウェールズ公爵家とのつながりを持つためにも私は必要だもの。公爵家だって私がいないと治癒の魔鉱石の采配権は得られない。もしかしたら公爵家からも訴え出てくれるかも。だから踏みとどまってくれないかななんていう僅かな希望にかけてそう言ってみたのだけど。


第二王子様と令息はニヤニヤとした笑みを浮かべたまま。侯爵様は決意したような顔をしている・・・・というか目が座ってる。


何よ、下品な笑いを浮かべて気持ち悪い!精いっぱい彼らを睨みつけるものの、彼らの態度は変わらない。


「そんなことを気にしていたのか。安心したまえ。君の両親には『アレックスとの結婚が嫌で男と一緒に逃げた』と伝えておいてあげるよ」

「なっ!!そんな話信じるわけないでしょう!」

「そうかな?アレックスがレイラに入れあげているのは社交界の者ならば誰でも知っていることだ。君の両親だって何度もその場面を目撃している。今までは何とか耐えてきたとしても何かのはずみに糸が切れてしまうこともある。それが今日だったと思うだけだよ。君はアレックスの酷い仕打ちに耐えられずここにいるルイス君と駆け落ちするのだよ。まあ実際には君の亡骸を始末した後雲隠れしてもらうわけだけど。」


驚くべき計画に慌てて令息に視線を移すと、彼は更に下卑た笑みを浮かべた。


「殿下が一生遊んで暮らせるだけの褒美を下さるとのことなのでね。伯爵家当主の座も魅力的だけど、君が口を滑らさないように見張りながらお高くとまった貴族連中の顔色を伺って過ごすより、どこか遠い異国で遊んで暮らす方がいいだろう?悩む必要もないさ」

「そっそんなことをしたら、あなたの家族まで責めを受けることになるのよ!」

「・・・・家族だと?」


その途端、今までの笑みが消え憎しみに顔をゆがませた。飄々とした表情しか見せてこなかった彼の突然の変わりように思わずビクッとしてしまった。情に訴えてみようと思ったけど、どうやら失敗したらしい。


「家族だと?そんなもの俺にはいない!!俺を認めない両親も!見下してきた兄たちも!どうなろうと知ったことか!!せいぜい酷い罰を受ければいいさ。落ちぶれていく様を間近で見られないのが残念なくらいだよ!」


ハハハハハハと高笑いする令息。その姿に狂気すら感じる。

やばい、完全におかしいわこの人・・・・・。


「あ、アレックス様は?!」

「何言ってるんだ。あのアレックスが君を気にするはずがないだろう。駆け落ちしたと聞いたら新たなお飾りを探すだけさ」


呆れ切った顔でこちらを見てきたけど、私が言いたいのはそんなことじゃない!私はそこまで愚かではないわ!


「そうじゃなくて!アレックス様に何かあったら帝国が黙っていないってことよ!なんてったって皇后陛下の甥なんですもの。こんなところで急ごしらえした拙い計画なんて帝国が調べればすぐにばれるに決まってるわ!」

「ああ、そのことなら心配いらない」


動揺するどころかさらに悪そうな笑みを浮かべて恐ろしい計画を話し始めた。


「さっき君が植物を凍らせてくれたお陰で思い出したんだが、普段は無毒でも凍らせると毒性を発揮する植物があるんだよ。我が国特有の珍しい植物でね、夏にしか生息しないから誰も知らなかったんだ。それが王宮の温室に生息していてね、うっかり凍らせてしまったら周りの植物が次々と腐り始めた」


第二王子様はまるで武勇伝でも語るように悦に入りながら話し続けた。温室を管理している使用人にばれないようにカモフラージュしてこっそりそれを持ち帰ったこと。それを使用人の食事に混ぜたらあっという間に死んで、ただの心臓発作だと判断されたこと。そしてアレックス様を毒殺した後はすぐにその植物を始末すること。


「始末さえしてしまえば調べられることもない。尤も我が国特有というだけで何の変哲もない普通の花だ。アレックスの死と関連付けようとも思わんだろうがね」


何もない空間を見つめながら自分の世界に浸っていた第二王子様がいきなり現実に戻ってきたようにこちらを見た。

な、なに?


「いつか役に立つかもと人目に触れないところにしまいっぱなしだったが、君のおかげで思い出せた。礼を言うよ、これでアレックスを確実に殺せる。憎たらしいことに魔力が強く隙がない奴は殺気や魔力の気配に敏感だ。だからただ襲うだけでは失敗する可能性もあるが、この方法ならまず気づかれない。君がアレックスを殺したも同然だよ」


そんな・・・・私のせいでアレックス様が・・・・?アレックス様が死んでしまうという悲しみより自分が人の死に関与することの方がショックだった。アレックス様のことは嫌いだけど、死んで欲しいとまでは思ってなかったのに・・・・・。


「それに君はリンネイルとの関係をしきりに気にしていたが、それこそ不条理だと思わないか?あちらは鉱石と技術を提供しているだけなのにこちらは身を削って魔力を捻出し帝国民(奴ら)の生活まで支えてやっている。それなのになぜか奴らの方が偉そうだ。だからいっそのことすべて我が国のものにしてしまってはどうかと思っているんだよ。素晴らしい計画だろう?」


第二王子様はどこまでも自分勝手な言葉を誇らしげに並べているが、とんでもない。この人はこの国を支配するだけでは飽き足らず帝国民まで巻き込もうというの?あそこには私の大切な親戚もいるのに!


それに帝国をなめすぎよ!!帝国はもともと軍事国家。魔法こそないけどそれに劣らない兵器を開発することができるのよ!

ああ、もう!いろいろ言ってやりたいことがあるのに、口が思うように動かない!


「アレックスを始末する手伝いをしたんだ。これで晴れて仲間だ・・・・と言ってあげたいところだが、君にはやっぱり消えてもらうことにするよ。我が国が帝国を手中に収めるのを見せてあげられなくて実に残念だよ」


そう言うと掌を上に向けたまま胸の前まで上げると、そこに視線を落とした。その途端、掌からボッと炎が上がった。


「これをここに落としたらどうなると思う?」


ここ、というのは第二王子様の足元にある枝。それは私のところまでまっすぐ伸びてきつく巻き付いている。


「枯れてないから枝はあまり燃えないかもしれないけど、君はどうかな?炎は消えることなく君にたどり着き包み込む。それはそれは良く燃えるだろうね」

「だ、誰か、たすけっ・・・・・」


最後の抵抗に宮殿へとつながる扉めがけて大声で助けを求めようとしたけど、頭がくらくらしてうまく口が回らない。え、なんで?


「ああ、頭に血が上って苦しいんだね。今楽にしてあげるよ」


可哀そうにという憐れむ顔をしながら掌の炎を下に落とす。まるでスローモーションのようにゆっくりと落ちていくそれを見つめながらも頭は朦朧としはじめていて気持ちが悪い。さっきまでは恐怖と緊張でアドレナリンが放出されていたから保てていたようだけど、一度認識してしまってからはそうはいかないみたい。


下に落ちた炎は辺りのものを燃やすことなく導火線をたどるようにまっすぐに私に向かってくる。炎の熱さがすぐそこまで感じられ、それをただ茫然と見ている、その時だった。


パチン


目の前の炎が急に消え、同時に私を縛り上げていた枝から解放された。

あ、落ちる・・・・・


地面がすぐ目の前まで来たとき、急に体がふわっと浮いた。そしてそのまま静かに倒れこむ。

驚くような慌てているような第二王子様達の声が聞こえてきたけど、まだ頭がぼぅっとしていてどこか遠くでの出来事のように感じた。


「な、何でお前がここに?!」

「そんな、どうしてここが・・・・」

「こ、これはその・・・・・」


解放されたとはいえ、力が入らず倒れこんだままでいると走ってくる誰かの足音が聞こえてきた。


「ベル!!」


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