王室舞踏会3
盗賊団と聞いて頭にはてなが浮かんでいる私にイライザ様とメリンダ様が続けて説明してくれた。
「ご存じありませんか?最近また盗賊団が現れたみたいで、国中のあちこちで積荷を乗せた馬車がいくつも襲われているんですって」
「騎士団も人手不足のようで、すでに除隊した兄だけでなく見習いのクリスまで駆り出されてますわ。何で自分までと何度愚痴を聞かされたことか。」
何それ初耳。家では誰もそんな話してなかったから知らなかった。最近はレッスンだ何だって屋敷に籠りっぱなしだったから世間の情報に疎いのよね。
「そんなに大変なことになっているんですね。知りませんでした」
もしかしたらマリンガム侯爵家が婚約披露パーティーに来なかったのもそれのせいなのかしら?てっきり私がアルタン呼びをしてるのを見て顔を合わせるのが気まずいからだと思ってたわ。考えてみればクリス様の性格なら冷やかしこそすれ恥ずかしくて顔を見れないなんてことあるわけないわよね。でも何でアレックス様まで?アレックス様文官志望だったわよね?
私のそんな疑問を察知したのかフローラ様が追加で教えてくれた。
「ウェールズ公爵領でも盗賊団の被害が出ているそうでアレックス様も次期公爵として直接討伐に赴いていると父が言っていましたわ」
「そうなんですか。それでは・・・・仕方なかったのかもしれませんね。皆様教えてくださってありがとうございます」
一応婚約者であるアレックス様の動向を私よりも令嬢たちの方が把握していることに僅かな疑問を抱きつつも納得している私の様子を見て令嬢たちはほっとした表情を浮かべていた。
「そういえば“また”と言っていましたが以前にも盗賊団が出たことがあるのですか?」
「ええ、私も父から聞いた話で詳しいことは知らないのですが何年か前にも盗賊団が出て相当な被害があったそうですよ」
「確かモリスヴェイン伯爵家も被害に遭われたとか。大切な積荷を載せていて大惨事になるところだったと聞いていますわ。お父様からお聞きになっていませんか?」
「え・・・・?」
メリンダ様の言葉に耳を疑った。お父様からそんな話、聞いたことない。令嬢たちの反応を見るに驚いている様子はない。みんな知っているってことよね。どうしてみんなが知っていることを私は知らないの?自分の家のことなのに。単に私が聞かなかったから?子どもだったから?
「あ、あの、メリンダ様!それっていつのことですか?」
わたしはできるだけ焦りを表に出さないように気をつけながら聞いてみた。メリンダ様は私がそんなに食いついてくるとは思っていなかったのか驚きながらも教えてくれた。
「私も父から聞いただけで詳しくは知らないんです。申し訳ありません」
「そう・・・・ですか」
他の令嬢たちもそれ以上は知らないようで、私はあからさまにしゅんとしてしまい微妙な雰囲気になってしまった。
「あ、王子殿下のダンスが始まるわ」
微妙な空気を変えるかのようにエルザ様が口を開き、他の令嬢たちも会場の中心に視線を移した。
それまでの静かな音楽からダンス用の音楽に変わり、その音楽に合わせて宮廷魔導士たちが光のシャワーを降らせた。以前マリンガム侯爵邸で見た光の粒は楽器に埋め込まれた魔鉱石によるものだったけど、今回は宮廷魔導士によるもの。はっきり言って次元が違う。この前のも綺麗だったけど、目の前に広がるのはまるで別世界に来たかと思うほど心を奪われる美しさだ。
その会場の中心では第一王子様と婚約者の令嬢が互いに礼をしていて、これから二人のダンスが始まることが分かった。王室舞踏会は王子様と婚約者のダンスが開催の合図。先ほどまで騒めいていた会場もしんと静まり返り二人のダンスを見つめていた。
第一王子様は金髪碧眼の第二王子様とは違い黒曜石のような黒髪に輝く金の瞳の持ち主。背はすらりと高く鍛え抜かれた身体は服の上からでも分かるほどだ。対する婚約者様、確かエルメラルダ様・・・・だったかな?ふわふわの栗色の髪に黒い瞳の小柄で可愛らしい感じ。いかにも王子様とお姫様という感じで見ているだけでうっとりとしてしまう。
ふと玉座を見ると第二王子様によく似た金髪碧眼の王妃様が憎しみを押し殺したような顔で二人のダンスを見つめているものだからぎょっとしてしまった。今にも刺し殺しそうな目をしてる。
グレースからは身分の低い側妃の子が次期国王候補となったことを良く思っていないと聞いていたけど、そんな次元ではなさそうだ。正妻の子供なのに後に生まれたというだけで国王になれないのだ。憎しみを持つのが当然といえば当然だろう。まあ、あの第二王子様の性格から考えてそれだけが理由じゃない気がするけど。
王妃様から疎まれ、一部の貴族に狙われながら次期国王としての重圧に耐えなければならない。想像しただけでも恐ろしいわ。だからいつ襲われてもいいようにあんなに体を鍛えているのね。自分と大切な人を守るために。
しんみりとした気持ちで見つめているとほどなくして王子様と婚約者様のダンスが終わり、他の貴族たちも踊り始めた。
「王子殿下とエルメラルダ様素敵でしたわね!私もあんな素敵な方と出会いたいわ」
そう、うっとりしながら話すのはエルザ様。良かった、エルメラルダ様であってた。確かに素敵だったなぁ。私もアレックス様がいなければ結婚を夢見られたのに。まだ婚約破棄できていない今の地に足が付いた状態では心から夢見ることはできなかった。ああ、早く婚約破棄してフリーになりたい!
「本当ですわね。殿下がエルメラルダ様を大切にされていることが伝わってきて、思わず
うっとりしてしまいましたわ」
「普段からお綺麗ですけど今日は更に輝いておられましたわね」
フローラ様とイライザ様もエルザ様に同調して二人を褒めたたえている。そこにメリンダ様が握りこぶしを作って熱く語り始めた。
「やっぱり女性は愛されてこそですよ!愛された分だけ女性は輝けるの!べルティーナ様もそう思われませんこと?」
うわっこっちに飛んできた。
っていうかなんで私?私ってこの場で一番同意を求めちゃいけない人じゃない?社交界では周知の事実のお飾り公爵夫人(予定)なんですけど・・・。
「え?ええ・・・・」
当然のごとく苦笑いと共にこんな曖昧な返事しか返すことができず。
「そうですよね!それなのにアレックス様ったらひどすぎます!!べルティーナ様はこんなにお美しいというのに!!」
そのままのテンションでアレックス様を批判し始めたメリンダ様。その勢いについて行けず若干引いている私とは違い、他の令嬢たちはうんうんと頷いている。
「全くですわ!婚約者がいるのに他の令嬢にべったりだなんて誠意のかけらもありませんわ」
「王室舞踏会でまでほったらかしなんて信じられません!」
先程まで第一王子様のダンスにうっとりしていたはずなのに一転アレックス様の批判大会が始まってしまった。何でこうなるの??
アレックス様がいかに酷いかを熱く語る令嬢たちと、当事者でありながら置いてきぼりにされて黙って見ているだけの私。
まあ、アレックス様が酷いのは本当のことだし、だからこそ婚約破棄してもらうことを狙っているわけで。私としてはアレックス様の批判をされるのは別にというか、正直どうでもいい。
目の前でアレックス様への怒りを口にする令嬢たちを見ながら、もしかして彼女たちが私に好意的なのは婚約者なのに蔑ろにされているという同情心から?なんて思ってみたり。ナターシャ様は身代わりになってくれてありがとうっていう、あくまで上から目線で見てきてたけど彼女たちは純粋な同情心な気がする。まあそれも婚約破棄した後も続くかどうかは分からないけど。婚約破棄された令嬢は問題のある傷物令嬢のレッテルを張られるからね。
「べルティーナ様も我慢しすぎです!アレックス様の方から婚約者にと望まれたんですよね?それならもっと自分を大切にしてほしいと伝えるべきです!」
「そうですよ。今からでもアレックス様に直談判してレイラ様ではなく私といて欲しいと言いに行ってはいかがです?べルティーナ様のことを少しでも想っているなら応えてくださるはずですわ!」
飛び交う批判を聞き流して自分の考えに浸っていた私はいきなり口にされた言葉に驚いてハッと我に返った。いつの間にかメリンダ様とフローラ様の間で私がアレックス様にアタックする話になってる。何で???
「えぇっ・・・い、今から・・・・?」
「「それがいいですわ!ね、べルティーナ様!」」
そして食い気味に同調するエルザ様とイライザ様。みんな揃ってキラキラというよりギラギラした目でこちらを見ている
。
なんか・・・・・怖いんですけど。そして嫌とは言えないこの雰囲気・・・・。え?はいって言うしかなくない??
「あ!ちょうどレイラ様がどこかに行かれるようですわ!今がチャンスです!!いえ、むしろ今しかありません!」
「勇気を出して、べルティーナ様!未来を変えるためには行動するしかありません!!」
自ら進んでいくというより押し出されたという表現の方が正しいという状態でアレックス様のもとへと向かうことになってしまった。




