王室舞踏会2
遅くなりすみません。
キラキラとした瞳を向けてくる令嬢たちは矢継ぎ早に話し始めた。
「本当はもっと早くモリスヴェイン伯爵令嬢とお話ししたかったのですが、機会に恵まれなくて」
「ハートウェル侯爵令嬢のようにお茶会にご招待できればよかったのですけど、面識のない状態で招待状を送っても断られてしまうかと思っていましたの」
「でも今日お会いできて良かったですわ。どうぞ仲良くしてくださいませ」
「よろしければべルティーナ様とお呼びしても?」
令嬢たちの圧に面食らってしまいポカンとした顔をしてしまっていることに気づき、慌てて笑顔を貼り付けた。あれこれ理由をつけているけど、私がナターシャ様と仲良くしている噂を聞いたのね。
ハートウェル侯爵家は確かに手広く色んな事業をしている有力貴族だけど、何より懸念していたのはナターシャ様の性格かも。アレックス様とナターシャ様の縁談があったのは社交界では周知の事実だし、ナターシャ様がかなり乗り気だったことも有名な話。そこにナターシャ様が気に入らない相手は陰でいじめるタイプだっていう噂まで広がれば確かにアレックス様の婚約者(私)に声をかけようなんて思わないわよね。
でもナターシャ様と仲良くしているなら話は別。私を通して公爵家と縁を持とうとしてもナターシャ様から目をつけられることは無いから安心して社交ができるってことね。
「私も皆様とお話しできて嬉しいですわ。社交界に入って間もないのでお友達もあまりおりませんの。ぜひ仲良くして頂けたら嬉しいですわ。どうぞべルティーナと呼んでくださいませ」
私はいつもの外面スマイルでそう答えると、令嬢たちはどこかほっとしたような笑顔を浮かべた。
「自己紹介が遅れましたわね。私はストラッティ伯爵家のエルザと申します」
「私はマトレイル伯爵家のイライザです」
「マキシマス侯爵家のフローラですわ」
彼女たちとは学園が違ったようでお会いするのは初めて。だから笑顔を貼り付けたまま顔と名前を頭に叩き込んだ。
ええと、見事な金色の髪に紫色の瞳の方がストラッティ伯爵家のエルザ様、ストロベリーブロンドに薄い青の瞳の方がマトレイル伯爵家のイライザ様、艶のある黒髪に緑の瞳の方がマキシマス侯爵家のフローラ様。
そしてサラサラとした銀の長い髪に緑の瞳の令嬢。この特徴には見覚えがあった。
「私はマリンガム侯爵家のメリンダですわ」
やっぱり。
「あの、ひょっとしてクリスフォード様の・・・・?」
「弟のクリスをご存じですのね」
「ええ、以前マリンガム侯爵家での夜会に出席させていただいた時にお会いしました。アレックス様とも仲がよろしいのでお話させていただいたんです。その時ドレスを貸していただいたのですが侯爵令嬢のドレスだったのですね」
私の話を聞いて侯爵令嬢は少し驚いた顔をしてからすぐに申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「その日私は体調を崩しておりまして参加しておりませんでしたの。クリスがドレスを汚してしまったというのはモリスヴェイン伯爵令嬢だったのですね。弟が申し訳ございませんでした。お渡ししたドレスはどうぞ破棄してくださいませ」
「い、いえ、そんな破棄だなんて」
「もともと父が勝手にあつらえた好みでないドレスだったのです。どうかお気になさらず」
「は、はあ・・・」
これ以上食い下がっても仕方がないようだ。ここは大人しく破棄させてもらおう。それにしても夜会での一連の出来事知らないのかしら?その場にいなかったから知らされていないのかもしれないけど・・・・・目の前の申し訳なさそうな顔を見るだけではどちらか分からない。全てを知ったうえで申し訳なく思っているかもしれないし。
「べルティーナ様」
考え事をしていた時にふいに声をかけられ慌てて顔をあげて令嬢の顔を見た。ストロベリーブロンドに薄い青の瞳だから、確かイライザ様だったはず。
「はい、マトレイル伯爵令嬢」
「いやですわ、べルティーナ様ったら。イライザと呼んでくださいませ」
イライザ様は朗らかな雰囲気でにっこりと笑った。美人という感じではないけれど女の私でも可愛いと思ってしまう笑顔だ。
「今日のドレスもとっても素敵ですわね!もしかしてマダムローレンスのデザインですか?」
マダムローレンスというのは王都にお店を構える国で一番人気のデザイナーで、令嬢たちはこぞってマダムローレンスのドレスを望むものの、作ってもらえるのは最短で半年待ち。しかも最高級の生地のみを使用しているため中々に値が張る。だからこそマダムローレンスのドレスを着ることが一つのステータスになっているわけだけど。
確かドレスが贈られてきたときにマリーが『これ、マダムローレンスのお店のドレスですよ!さすがウェールズ公爵家ですね』と言っていたような気がする。興味が無さ過ぎて適当に聞き流しちゃってたわ。
マダムローレンスのドレスには彼女の作であると分かるように小さく“R”の刺繍がしてある。私のドレスにも花の刺繍にまじってRの刺繍が施されていた。言われなければわからないほどなのによく気が付いたわね、マリーも令嬢たちも。
「ええ、今日のためにとアレックス様が準備して下さったドレスですの」
「そうなんですの?我が家なんて2週間前に招待状が来たときは大慌てでしたのよ。王室舞踏会に粗末なドレスを着ていくわけにもいきませんし」
「こんな短い期間でそんな素敵なドレスを準備できるなんて、さすがウェールズ公爵家ですわね」
令嬢たちは口々に褒めてくれるが私は別のことで頭がいっぱいになりその世辞ですら耳に入ってこなかった。
「え?2週間前?そんなに前に招待状贈られていたんですの?」
「え、ええ。アレックス様からお聞きになっていませんか?」
この国では婚約者がいる場合、お茶会など一人で参加するときを除いて招待状は婚約者宛に送るのが慣例となっている。うちの家門は二人が婚約していることを認知し歓迎していますという意思表示のためと言われているが、どうせパートナーは婚約者なんだから招待状は一通で十分でしょという思惑が透けて見える。
単に招待状を送る量を減らしたいだけってことね。だから招待状もアレックス様にだけ送られているわけで。当の私はアレックス様から教えてもらわない限りどこに招待されているかすらも分からない。
「ええ。何しろ聞かされたのが昨日ですから」
「「「「えっっっ」」」」
私の言葉に驚きのあまり目を見開いて絶句する令嬢たち。口にこそ出さないものの皆一様にあり得ないと表情でアピールしている。
それもそうだろう。2週間でも準備でバタバタだったと言っていたのだ。前日に聞かされるなんて彼女たちにとっては、むさくるしい格好で皆の笑いものになれと言われているのと同じこと。
そりゃああり得ないわよね。2週間前に分かってたならせめて1週間前には教えなさいよと叫びたくなるわ。アレックス様の為にもっと磨きたかったなんて一ミリも思ってないけど、心の準備ってものがあるじゃない?王室舞踏会よ?国中から貴族が集まるのよ?国王陛下に挨拶までするのよ?いくらお飾りにしたって扱いが雑すぎない?いや婚約破棄してもらう予定だからいいんだけどさ・・・・・。
小さく「ソウデスヨネ」と呟いて遠い目をしている私の姿にやばいと思ったのか、令嬢たちが慌ててフォローしてきた。
「で、でもアレックス様は盗賊団の討伐に追われてたと聞いてますわ」
「そ、そうですわ!そのせいでお忙しかったのよ。前日になるまで手紙も送れないほどに!」
エルザ様とフローラ様の言葉にハッと現実に戻った私はある言葉が引っ掛かった。
「盗賊団?」
これから完結予定まで毎日更新予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




