婚約披露パーティー 3
前話の続きです。
グレースを探してみると学園時代の友人たちとおしゃべりを楽しんでいた。私が違づくと皆こちらに気づき、口々に祝福してくれた。
「べルティーナ様おめでとうございます!」
「式はいつになさるんですの?」
「あんな素敵な方と婚約なんて羨ましいですわ!」
キャッキャとはしゃぐ彼女たちを眺めながら笑顔を貼り付けたままありがとうございますと言うことしかできなかった。確かに公爵家嫡男でハイスペックイケメンだと羨ましいと思うわよね・・・。
実情はそんなに良いもんじゃないけど。
矢継ぎ早にくる質問の嵐に何とか受け答えしていると、見かねたグレースが助け舟を出してくれた。
「嫌だわ、私ったら。べルティーナ様からお借りしていたハンカチを持ってきておりましたのに、母のバッグに入れてしまったようですわ。べルティーナ様、申し訳ないのですけど一緒に来ていただいてもよろしいかしら?」
「まあ、あれはもうよろしかったのに。わざわざありがとうございます」
そんな三文芝居をして彼女たちの輪から抜け出し、少し離れた場所まで来たところでグレースに感謝の言葉を述べた。
「助かったわ。ありがとう、グレース」
「どういたしまして。でもベルは気づいていなかったかもしれないけど、あなたを見つめるウェールズ様はとても優しい目をしていたのよ。だから何も知らないとやっぱり羨ましいと思ってしまうわよね。レイラ様との仲を知っている私でさえそう思うんだから。ああ、私もあんな素敵な方に愛されてみたいわ」
手を組んで夢見る乙女のようにうっとりしているグレースに冷めた視線を向ける。グレースは事情を知っているとはいっても実際に経験したわけではないからそんなことが言えるのよ。だから
「そんなに羨ましいなら変わってあげましょうか?」
と言ってみた。誰かが変わってくれるのならばアレックス様の一人や二人喜んで差し出しますとも。あ、アレックス様は一人しかいないか。
「遠慮しておくわ。いくら政略結婚でも最初から愛人がいる人なんてごめんだもの」
「私だってそうよ。だから社交界で醜聞になるのを覚悟で婚約破棄してもらおうとしてるんじゃない。今日はしっかり手伝ってよ?」
「分かってるわよ!あ、ほらウェールズ様いらっしゃったわよ」
周りに聞こえないようにひそひそと話しているとグレースが不意にある方向に向かって指をさす。その方向を見てみるとアレックス様がご学友と一緒にいるのが見えた。公爵令嬢は少し離れたところでおしゃべりを楽しんでいる。さすがに婚約披露パーティーでは節度を保っているようね。
私はグレースと顔を見合わせ軽くうなずいてからアレックス様の方に向かって歩いた。アレックス様は私たちに背を向けており、向かいにいたご学友が先に私たちに気が付いてアレックス様に知らせてくれた。
「アレックス様、お話し中失礼いたします。私の友人を紹介いたしますわ」
アレックス様がこちらに振り向くタイミングでそう声をかけると、少し驚いた顔をしているアレックス様と目が合った。瞬間的に逸らしたい衝動に駆られたけど、それだとご学友にも不審に思われる。私は視線をそらさずニコッと微笑んだ。グレースを紹介すると彼女は優雅に淑女の礼をして挨拶をした。
「学園では何度かお見かけしたことがありますが、お話しするのは初めてですね。パミュラ伯爵家の長女、グレースと申します。べルティーナ様とは学園時代とても仲良くさせて頂いておりました」
「べルティーナ嬢といつも一緒にいらした方ですね。どうぞアレックスとお呼びください」
「ありがとうございます、アレックス様。お隣の方はご学友ですよね?学園で何度かお見かけしたことがありますわ」
グレースがそう声をかけると隣にいた男性がペコッと会釈をして笑顔で挨拶をしてきた。
アレックス様ほどではないけれど整った顔立ちをしていて、少し垂れ気味のシルバーの瞳が特に目を引いた。確かこの方もクリス様同様アレックス様とよく一緒にいたはず。というかアレックス様と一緒にいた方々は皆見目がいいからどこにいても目立ってたから覚えてるのよね。
「セイドリアン・ブライムスと申します。私のこともどうぞセイドリアンとお呼びください」
柔らかい物腰と垂れ気味な目のせいか、とても優しそうに見えた。
ああ、私の婚約者がこの人だったらこんなに苦しまずに済んだのかしら?なんてね。
ブライムス家と言えば魔法師団長を何人も輩出してきた魔法のスペシャリストの家系で、学園入学前に縁談の打診があったのを断ったはず。攻撃魔法中心の家系だから治癒魔法使いを嫁に迎えたいっていう下心が見え見えだったのが嫌だったのよね。だから学園でもほとんど話したことは無かった。単に接点がなかったっていうのもあるけど。
グレースはセイドリアン様によろしくお願いいたしますと笑顔で返し、再びアレックス様に声をかけた。
「アレックス様、ご婚約おめでとうございます。とてもお似合いで、友人の令嬢たちとの間でも憧れの的なんですのよ!婚約が決まった時はべルティーナ様もとても浮かれていらして夢じゃないかと何度も私に確認しに来たくらいでしたのよ」
「グレース様、その話は内緒にしてくださいとお願いしましたのに」
私はぺらぺらと話すグレースを止めた後、こちらをポカンと見つめるアレックス様と再び目を合わせた後恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
「あら私ったら、ごめんなさい。あの時のべルティーナ様があまりにもお可愛らしかったからつい・・・・」
「べルティーナ嬢が・・・・浮かれてた?」
先ほどよりさらに驚いた顔をしたアレックス様がバッとこちらに顔を向けてきた。それはそうだろう。婚約した時から今までそんな素振りは微塵も見せたことは無かったから。
もちろん浮かれてたなんて真っ赤なウソ。顔を隠しているのはそうでもしないと嫌悪感が顔に出てしまいそうだったから。ついでに恥ずかしがっている振りもできるから一石二鳥よね。
「アレックス様のような素敵な方と婚約したのですもの、当然ですわ。女性にとって自分だけを愛してくださる方は特別ですもの。アレックス様がべルティーナ様を誰よりも大切にされているのが伝わってきて本当に羨ましい限りですわ」
グレースはわざと少し大きめの声で、少し離れたところにいる公爵令嬢にも聞こえるように言っている。私は手で顔を隠しながら隙間からちらりと公爵令嬢を見るとこちらを見ているようだった。表情まではよく分からないけど、こちらを見ているってことは聞こえてるってことよね。よしよし。
「恥ずかしいですわ、グレース様。そ、そんなことより、セイドリアン様もグレース様も何か召し上がりませんこと?ウェールズ家のシェフの料理は格別ですのよ」
いかにもこの家のことをよく知っている体を装ってから公爵令嬢のいるテーブルの方へ三人を誘導する。実際にはこの家でちゃんと食事をしたのなんて1回だけなのに随分なはったりよね。でも一度でも食べたことがあるんだから間違いではないわ。ついでに言うとグレースは協力者だから誘導したのは三人じゃなくて二人ね。
公爵令嬢は少しだけ驚いているような顔をしているけど、敵意を込めた視線を送ってくることは無かった。そこに少しだけ違和感を覚えたけど気にせず続けることにした。
セイドリアン様とグレースに飲み物を進めた後、私はクリームたっぷりのケーキをフォークで切り分け、特にクリームの多い部分をアレックス様に差し出した。
「アレックス様、はい、あーん」
でもアレックス様は口を開けない。微妙な空気が流れる中、セイドリアン様がおずおずと口を開いた。
「あの、べルティーナ嬢。ご存じないのかもしれないがアレックスは甘いものが苦手なんだ」
「え、でも、二人きりの時にベルが食べさせてくれる甘いものは特別に美味しいなって言ってくださっていたのに・・・。みんなの前ではダメなんですか・・・・?」
私はわざと困惑したような悲しそうな顔と声でアレックス様に訴えた。もちろんこれも真っ赤なウソ。アレックス様は本当は甘いものが好きなのだ。以前二人でお茶をした時に甘いお菓子をチラチラ見ていたけど手をつけなかったから、好きなのを隠してるんだろうなって思ってたのよね。別にスイーツ好きでもいいと思うんだけどね、私は。
私の言葉でセイドリアン様と公爵令嬢は信じられないものを見るような目でアレックス様を見つめ、グレースは笑いを必死で我慢している。当のアレックス様はというと青ざめた顔で頬がピンク色になっているという何とも複雑な顔をしていた。
私はそれに気づかない振りをしてもう一度「あーん」とケーキをアレックス様の口元に持って行った。別に食べてくれなくてもいいと思っていたけど、思考が完全に停止してしまっているからか、アレックス様はぱくりとそれを食べてくれた。




