婚約披露パーティー 1
すみません、遅くなりました!
とうとうこの日が来てしまった。婚約披露パーティー。屋敷は朝から慌ただしく準備に追われている。
なんて客観的に考えているが、その準備の中心は私の支度。
朝早くから体を磨かれ髪を結い、お化粧をして・・・と私の周りで侍女たちが慌ただしく動いている。婚約披露パーティーでこれなら結婚式本番はどんな事になるんだろう?屋敷中の使用人が私の準備のために群がるのかしら?
なんて馬鹿なことを考えながら、鏡の前の着飾られた自分を見る。
長い栗色の髪を編み込みさらにアップでまとめ、派手すぎず、けれど華やかに化粧の施された私を見つめるマリーは一仕事終えた職人のような顔をしている。
確かにいつもよりも華やかで、綺麗だと自分でも思う。というより別の誰かに変身したみたい。
侍女たちが誠意を込めて準備してくれたこの姿でやらかしに行くのかと思うと申し訳なくなった。
だけどここで立ち止まる訳にはいかない。アレックス様の怒りを目の当たりにした時、一瞬怯んだがやり通すと決めたのだ。
それに今日は公爵令嬢も来る。アレックス様から婚約破棄を言い渡してもらうためには、彼女にも一役買ってもらわないといけないのだ。今日を外す訳にはいかない。グレースも手伝ってくれるし、きっと大丈夫。
私は自分に言い聞かせるようにそう決意して玄関ホールへと向かった。両親とライリーは既に準備を終えているようで、ホールで私を待っていた。
階段を降り家族の元へと向かうと、私に気づいたライリーが少し驚いたように声をかけてきた。
「わあ、姉様、とても綺麗です」
「どこのお姫様かと思ったぞ」
「本当ね。とても素敵よ、ベル」
家族からの賞賛の嵐に思わず頬が熱くなる。
「そ、そう?」
今日のドレスはアレックス様が準備してくれたもの。深い青を基調としたドレスで、スカートの部分にイエローダイヤや真珠が縫い付けられている。昼のパーティー用に暗めの色のドレスを着ることはあまりないが宝石の美しさがそれをカバーしている。動くたびに裾がふわりと揺れ、宝石が光を反射してキラキラと輝いた。
歩く宝石箱になった気分で総額を考えると恐ろしくなるが、今は今日の作戦のことで頭がいっぱいなのでちょうど良かったと思う。
これから馬車に乗って公爵邸へと向かう。招待客が来るのはもう少し後だが、本日の主役なので早く行って迎える準備をしなければならない。
馬車の中で両親ともう一度今日の流れを確認しながら同時に心の中で作戦についての確認をしている間に着いてしまった。
グレースと事前に打ち合わせて、相当警戒しているであろうアレックス様を油断させるために前半は普段通り、まともでいることに決まった。アルたん呼びもとりあえずは封印である。
馬車から降りると公爵家の執事が出迎えてくれ、会場まで案内された。いつ来ても立派な屋敷だなと思う。隅々まで手入れが行き届いていて、建物自体は古いはずなのにそれを感じさせない。
玄関ホールは大理石、廊下には絨毯が敷かれ、そこかしこに高級そうな壺や絵画が飾られている。絨毯はとてもフカフカなので歩いていても足が疲れない。
私ははぁとため息をついた。
屋敷といい庭園といい相手がアレックス様でさえなければ喜んで嫁いできたいほど素晴らしいのだ。本当、相手がアレックス様でさえなければ。
初めて公爵邸に来たライリーは目をキラキラさせながら屋敷の隅から隅まで眺めている。
「素敵なお屋敷ですね。来年には姉様もここに住まれるのですね!」
キラキラした顔のままそう言ってくるライリーにそうねと曖昧な返事しか出来なかった。婚約破棄してここに住む事が無くなったら可愛い弟はどんな反応をするだろうか。自分で言うのも何だがライリーは私のことが大好きだ。案外悲しむというよりアレックス様を恨みそうな気がする。
そんなことを考えながら歩いていると会場となる部屋に着いた。普段は閉じられているであろう重厚な扉は開け放たれ、自由に出入り可能となっている。反対側には庭園に通じる扉があって、そこから以前アレックス様とお茶をした東屋に出られるようになっていた。
会場には小さめな丸いテーブルがいくつも並べられている。レースのクロスが敷かれたテーブルの上にはスイーツやサラダ、サンドイッチなどが既に並べられていた。温かいものや飲み物は直前に配膳するらしい。
執事から説明を受けているとアレックス様と公爵様ご夫妻がやってきた。アレックス様は私を見て少し驚いたように眉を上げている。
私まだ驚かれるようなこと何もしていないんだけど?
首を傾げていると公爵様が声をかけてきた。
「ベルティーナ嬢、今日はいつにも増して美しいね。会場中がベルティーナ嬢に釘付けになるだろうね」
そんな私よりも遥かに美しいアレックス様が隣にいるのにそんなことありえませんわ、と言おうとしたところでお父様が嬉々として口を開いた。
「やはり公爵もそう思われますか?外面だけでなく内面も美しい自慢の娘でして」
私はギョッとしてお父様を見た。
ちょっとお父様何を言っちゃってるの⁈こんなの社交辞令に決まってるじゃん!
何と口を開いていいか分からず固まっているとお母様がすかさず声を出した。
「素晴らしいドレスを贈って下さったアレックス様のおかげですわ。ベルティーナのことを想って準備して下さったのがよく分かりますもの」
お母様ナイスフォロー!
私はほっと胸を撫でおろした。これからやらかす予定の私が言えた義理ではないが始まる前から微妙な空気にするのはやめて欲しい。
お母様のフォローに便乗して私もアレックス様に感謝を述べた。
「アレックス様、素敵なドレスをありがとうございます。あまりの美しさに目を奪われてしまいましたわ」
呼び方もいつも通り、態度も普通の私を見てアレックス様はあからさまにほっとしている。
でもいつまたあんな状態になるかと警戒は緩めていないようだ。
それはそうよね。両家が揃う場で普段自分のことをアルたんと呼ばしているなんて誤解されたら私でも顔から火が出ると思う。
大丈夫ですよ、アレックス様。大人しくしていますから。・・・最初のうちはね。
私はアレックス様に向かってにっこりと笑顔を作った。




