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作戦は中止しません

帰りの馬車の中、彼は何かを言いたそうにしているものの、結局何も言ってこなかった。

というよりどうして突然あんなことをしてきたのか訳がわからず混乱しているという感じだ。


まあそれもそうよね。自分でやったこととは言え客観的に見るとかなりヤバい令嬢だと思う。


これを明日もやるのかと思うと胃がキリキリするが、ここでやめてしまったら婚約破棄できない上にただのヤバい人で終わってしまう。それだけは避けなければ。


もうすぐ屋敷に着くというところでやっとアレックス様が口を開いた。


「ベルティーナ嬢、明日の夜会は参加しなくて大丈夫です。その、ずいぶんとお疲れの様ですのでゆっくり休んでください。婚約披露パーティーも控えていることですし」


今日の私の奇行を疲れのせいにして、婚約披露パーティーでは正気を取り戻せってことね。そうはいかないわ。貴重な機会を逃してたまるもんですか。


「ご心配ありがとうございます。ですが疲れてなどおりませんので大丈夫ですよ?」

「いえ!明日は休んでください。私1人で大丈夫ですので!」


何のことか分からないと、ワザととぼけた表情で僅かに顔を傾けてみた。そうやって一応食い下がってみたものの、強めに拒否されてしまった。


これまで何度か一緒に馬車に乗っているが、やらかした今日が1番会話があるというのが皮肉だなと思う。


このまま食い下がったところで引く気はないのだろう。私は観念して分かりましたと言うとあからさまにホッとしていた。ちょうどその時馬車が止まった。屋敷に着いたらしい。


ドアを開けて降りようとする私に向かってアレックス様は良く休んでくださいねと念を押してくる。私は笑顔で頷き、そのまま公爵邸へと向かって行く馬車を見送った。


振り返って屋敷の中へと進みながら心の中でほくそ笑む。

止められたって強行突破するだけよ。嫌われて婚約破棄して貰うのが目的なんだから、別に言うことを聞く必要は無いわよね。


そんな黒いことを思いながら鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で部屋へと向かった。



・・・・・・・・・・・・・



そして次の日の夜、私は夜会の会場に来ていた。目の前には眉間に皺を寄せたアレックス様とそんなアレックス様を不思議そうに眺めるクリス様。クリス様は昨日の私の奇行は知らないようだ。


どうしてこんな事になっているかと言うと、私がアレックス様を待ち伏せしていたのだ。

会社には招待状を持っている人しか入れない。だからアレックス様が来るまで近くに馬車を停めて待機していた。アレックス様は時間をきっちり守る方なので開始時刻の少し前に来ておけば上手く鉢合わせ出来ると思っていたのだが、ビンゴだった。


アレックス様が会場に入る前に突撃し、狼狽えているところにクリス様がやって来て今の状況の出来上がりと言うわけである。


「・・・・ベルティーナ嬢、今日は休んで下さいと伝えたはずですが?」

「でもでも、アルたんに会いたくなって来ちゃったんですぅ」


私は背一杯のぶりっ子をしながら上目遣いでアレックス様を見つめた。本当はここで抱きついたり腕を絡めたり出来ればもっと効果的だろうけど、いくら演技でもそこまでのスキンシップは流石に無理。

だけどこれだけでも効果はあったようで。

アレックス様の眉間の皺がさらに深くなり、はあーっと長いため息を吐いている。

その隣でクリス様が信じられないものを見た様に固まっていた。


「アルたん・・・?」


ポロッとクリス様の口から溢れたその言葉に、アレックス様が慌ててクリス様を見るが、サッと顔を逸らされていた。


「あ・・・じゃあ俺、先行ってるから」


そう言ってクリス様はそそくさと中に入って行ってしまった。その後姿を見つめながらアレックス様はうなだれてしまっている。ちょっと罪悪感は湧くけど、私がされていることを思えば大した事ないよね?


「アルたん、私たちも入りましょ」


そう声をかけてアレックス様の手を取って、くいくいと引っ張った。たったそれだけのことなのに全身が拒否反応を起こしている様に不快感が込み上げてくる。


しかしアレックス様は動かない。顔を見ると感情が抜け落ちたように無表情になっている。色んな感情が入り混じって思考が完全に停止してしまっているようだ。


「アルたん、夜だから眠たくなっちゃった?夜会はこれからなんだからちゃんと起きてなきゃダメよ?」


畳みかけるように猫撫で声でそう言うとアレックス様が静かに手を挙げた。不思議に思って見ているとその指がパチンと鳴らされた。

途端に身体がふわっと浮きそこそこのスピードを出しながら後ろに飛ばされた。


突然のことに訳が分からずただ漠然とした恐怖を感じていると、何か柔らかいものの上に着地した。それが私が乗ってきた馬車だと気づいた瞬間にはドアがひとりでにバタンと音を立てて閉じていた。


どうやら魔法でここまで飛ばされたようだ。魔法の発動方法は人それぞれで、私は前世に読んだ本の影響からか杖に見立てた指を振ったりする事で発動する。


アレックス様は指を鳴らす事が発動条件みたいね。

なんてどうでもいいことを考えていたらコツコツとこちらに歩いてくる足音が聞こえてきた。夜会の会場であるお屋敷は人が集まってきて賑やかだけど、馬車を停めてある場所は対照的にしんと静まり返っていて、こちらへ向かってくる足音だけが不気味に響いていた。その足音は馬車の前でピタッと止まり、窓からアレックス様が立っているのが見えた。


「ベルティーナ嬢、今日もひどくお疲れのようですね。どうぞお休み下さい。婚約披露パーティーには回復されていることを心から願いますよ」


外は暗くて馬車の中からは表情は良く見えないけど、静かに淡々と語られたその言葉に私はただコクコクと頷くことしか出来なかった。


馬車がゆっくりと進み出すのを確認するとアレックス様はまた会場へと戻って行った。


こ・・・・怖かった〜〜!

アレックス様って怒ると怖いのね。作戦通りとはいえこのまま続けて大丈夫なのかと思ってしまった。でも今更やめるわけにはいかない。私は気合いを入れ直して屋敷へと帰ったのだった。

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