お茶会という名の作戦会議2
「は・・・・・はぁぁぁぁ?!」
手を握ったままグレースの口からそんな素っ頓狂な叫び声が漏れた。
「あ、正確には婚約破棄されることにしました。えへっ」
「いや、えへっじゃないわよ!あんた何考えてるの?」
私はぱっと手を放して椅子の背もたれにもたれかかった。
まあ、当然と言えば当然の反応よね。
「だって、考えても見て?今回の件だってアレックス様と婚約さえしなければ巻き込まれなかったわけだし、もしそのまま結婚しちゃったら私はただのお飾りの公爵夫人よ?この先ずっと噂の的になりながら生きていくなんてまっぴらだわ」
「まあ、そりゃあ、そうだけど・・・・」
先ほどの勢いはどこへやら、身を乗り出していたグレースもイスに深く腰掛けごにょごにょと言葉を濁している。でもやはり納得できないようで、でもと続けてくる。
「婚約破棄ってそんなに簡単じゃないのよ?そもそも断れない相手だから婚約の申し出を受けたわけでしょ?」
「だ・か・ら・、婚約破棄してもらうの!アレックス様から」
「そんなことできるものなの?何か考えでもあるわけ?」
私はコホンと一つ咳払いをしてから夢で思いついたことを話した。
グレースは半ば呆れながらも最後まで聞いてくれた。マリーには下がってもらったので自分で追加のお茶を準備している。
コポコポと自分のカップに紅茶を注いだ後、わたしのカップにも入れてくれた。先ほどと同じフルーティーな香りを楽しんでいると、グレースが口を開いた。
「あんた、夢って・・・・。まあいいわ。つまりアレックス様のプライドをずたずたに傷つけて『こんな女もう嫌だ』って言ってもらいたいわけね?」
「言い方に棘があるのは気になるけど、まあそんなとこね」
「で?」
「でって、何が?」
「だから具体的にはどうするのってことよ」
そう、そこ。プライドを傷つけるなんてどうすればいいのかしら?子ども扱いって言っても今のアレックス様に子ども扱いできる要素なんてあるかしら?自分で言いだしておきながら不安になってきた。
私はパチンを手を合わせて真剣な顔でグレースを見つめた。私の表情に嫌なものを感じ取っているのか、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見てきた。
「その作戦を一緒に考えてほしいのよ!」
「やっぱり・・・・・。どうせ、こうすればいいかも~って楽観的に考えてるだけなんでしょ。」
おっしゃる通りでございます。
はぁとため息を吐きながら頭を抱えるグレースに私はお願いのポーズのまま続けて言った。
「こんな事頼めるのグレースしかいないのよ!親友でしょ?それにグレースは人のこと良く見てるからいい作戦も思いつくと思うのよ。お願い!」
「・・・・・・はぁ~・・・・しょうがないわねぇ。もう聞いちゃったんだし、私だって親友に不幸になってほしいわけじゃないし」
「ありがとう!さすがグレース!」
何だかんだ言っても優しいのよね。面倒見がいいというか。学園時代もその優しさに随分と助けられたっけ。
「プライドを傷つけたいなら色々方法があるわね。秘密にしている恥ずかしいことをバラすとか、話の内容を正論で否定するとか、容姿をけなすとか」
「う~ん。アレックス様相手にどれもできる気がしない・・・・・。秘密なんて知らないし、そもそもあんまり話さないし、容姿は私よりずっと綺麗だし・・・・」
言いながら落ち込んできた。そんな様子を見ながら、あんたが落ち込んでどうするのよとグレースがツッコミを入れてくる。
そうだ、今は私のことよりどうやって婚約破棄してもらうかよね。
「まあ、何をするかっていうのも大事だけど、どこでやるかも大切よ」
「どこって、二人でお茶会の時とか?」
「二人きりでやってどうするのよ。どうせやるなら人目があるところじゃないと。夜会とか・・・・あとは婚約パーティーの日とか」
「そっか、そうよね」
「婚約パーティーにはレイラ様も来るの?」
「えっと、確か来るはず。国の主要な貴族は招待するって言ってたし。あ、グレースも来てね。招待状届いてるでしょ?」
「ええ、だから婚約パーティーの日は私もサポートしてあげる。あとはそれまでにアレックス様と参加予定の夜会は?」
「えっと、確か明日、明後日と続けてあったはず」
「そこにレイラ様が来るかどうかは分からないけど、まあいなくても他の参加客の前でするだけでも効果があると思うし」
どうして公爵令嬢が関係あるのかしら?気になって聞いてみると
「恥ずかしい思いをするところなんて、好きな人には見られたくないものでしょ?だからレイラ様の前でするのが一番効果的なのよ」
ニヤッと悪そうな顔をして答えてきた。なるほど。確かにそうね。
その後二人でああでもない、こうでもないと言いながら作戦を練った。全てがうまくいくかは分からないけど、やらないよりはマシだろう。そう願いたい。
一通りの作戦が決まった後、私は侯爵令嬢にお茶会に誘われていることも相談してみた。
「侯爵令嬢はアレックス様にべったりだったでしょう?だからお茶会に参加していじめられないか心配で・・・・」
「否定はできないわね。学園にいる時から気に入らない人を陰でいじめてきたような方だし」
え、何それ初耳。
驚いた様子の私を見て、グレースもまた目を丸くして驚いている。
「まさか知らなかったの?」
「う、うん。美人だな~くらいにしか思ってなかった。そこまで関わりもなかったし」
「そこそこ有名な話だったのに、ベルってホント世間に関心ないというか、鈍いというか」
「う・・・・・そんなこと・・・・・あるかも?」
顔に出やすいうえに世間に関心が無い鈍い人って・・・・・思わぬところで自分の欠点を知る羽目になり落ち込んでいる私とは対照的にグレースは優雅に紅茶を楽しんでいる。
「まあ、でもいずれ公爵夫人になる人にそんなあからさまなことをするほど愚かではないと思うわよ?単に公爵家とつながりを持ちたいだけじゃない?」
「そっか、そうよね。ちょっと怖いけど、こういう時くらい未来の公爵夫人の立場を利用しないとね」
お茶会は婚約パーティーが終わった後だから、とりあえず参加の返事だけ出して心の準備はパーティーが終わった後にしよう。そうしよう。
そのあとグレースはそろそろ行くわと帰ってしまった。マリーに後片付けをしてもらって私は明日の夜会に備えることにした。




