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追憶の中で 2

前話の続きです。アルとの出会いの部分です。

図書館に入ると中はしんと静まりかえっていた。でもそれはそうよねと思う。だってみんなお祭りに行っているもの。ここにいるのはお祭りに行かせてもらえない可哀想なわたしくらいだわ。


そんなことを考えながらどんな本を読もうかとあてもなくブラブラと歩いた。護衛の人は一言も話さないで少し離れた場所からずっとついてくる。わたしを守るためにいるんだから、当たり前だけど。


親戚のお兄さんがここは帝都で1番大きい図書館だよって言ってた。確かにわたしが行ったことのある図書館の中で1番大きい。ここ、3階まであるのね。中央の天井がぽっかり空いてて、上から下まで見通せるようになってる。


壁まで本棚になってて、とってもたくさんの本たちが並んでる。まさに本の山ね。あれ、本の海かしら?まあどっちでもいいわ。


案内板を見ると絵本のコーナーは2階って書いてあった。とりあえず2階に行こうと階段へ向かう。上へと続く階段脇の壁にまで本棚がついてるのを見て、本ありすぎじゃない?って思った。それから絵本や童話コーナーをなんとはなしに見て回っていると、そこで私の大好きな絵本を見つけた。帝国語に訳されて題名が変わっているけど、一目見ただけで分かった。お屋敷で毎日のように眺めていた絵本を見つけてとても嬉しくなる。


それを手に取り机で読もうとした時、パラっと本をめくる音が聞こえた。いつもなら聞こえないはずのその小さな音が人のいない静まりかえった空間に響いていた。


私の他にも人がいるんだわ!わたしと同じようにお祭りに行けなかった人かも!そう思うと途端にどんな人がいるのか無性に気になった。ふと上を見上げると微かに金の髪が見えた気がした。


開きかけていた本をパタンと閉じ、両腕に大切に抱いて急いで階段を駆け上がった。

キョロキョロと周りを見回しながら探してみると、金色の髪に濃紺の瞳の男の子が分厚い本を読んでいるのを見つけた。脇には難しそうな分厚い本がいくつか置かれている。


あの子だ!年齢は私と同じくらいかな?だったら大丈夫!私の周りでおしゃべりよりも勉強が好きな子いないもん。あの子もきっとおしゃべりの方が楽しいに決まってるわ!


わたしはルンルンとその子に近づいて、帝国語で話しかけた。親戚のみんなは帝国後上手って褒めてくれたけど、他の人にもちゃんと通じるかな?


『こんにちは。とっても難しい本を読んでいるのね』


わたしはその子も『こんにちは』って返してくれることを期待したんだけど・・・


『なんだお前、僕は勉強しているんだ、見てわかるだろう。邪魔しないでくれ』


ちゃんと通じたわ!!良かった!

ちょっと引っかかりのある言い方だけど、返事をしてくれたんだもの。やっぱりおしゃべりしたいんだわ。


『私の名前ベルっていうの。だからお前じゃなくてベルって呼んで。ねえ、あなたの名前は?』


ニコニコしたまま話しかけると、男の子は驚いた顔をしているけどちゃんと答えてくれた。


『・・・・・アル』

『アルかぁ。素敵なお名前ね!』

『そうか?どこにでもあるような名前だろ』


そう言ってアルはまた本を読み始めたけれど、私は気にせず続けて言った。


『そんなことないわ。ご両親からの初めての贈り物だもの、どんな名前だって特別だわ』

『贈り物・・・・か。そんな風に考えたこともなかった』


ほらね、聞いていないふりしてちゃんと聞いてくれてる。おしゃべりよりも勉強したい子なんて初めて見たけど、ちゃんと返事もしてくれてるし続けてもいいよね。


『アルは何の本を読んでるの?』

『帝国偉人列伝』

『うわぁ。難しそう。よくそんなの読めるわね』

『そうだな』

『どんなことが書いてあるの?』

『領地拡大で功労を挙げた人の話』

『領地拡大って戦争のこと?』

『ああ』

『うわぁ。わたし痛い話嫌い』

『そうか』


その後わたしは机に頬杖をついてアルに話しかけ続けた。『ああ』とか『そうか』っていう生返事ばかりだったけど、ちゃんと返事を返してくれる姿がなんだか面白くって思わず笑ってしまった。


『ふふふっ』

『?』


突然笑い出したわたしにアルが顔をあげてこちらを見た。眉間にはしわが寄っていて理解できないという顔をしている。


『アルって優しいよね』

『は?』

『だってわたしと話すのが本当に嫌だったら無視したり場所を移したりするもの。聞いてないフリしながらちゃんと聞いてくれてるんだもの。優しい証拠よ』

『な、なんだそれ。僕はただ移動するのが面倒だっただけで・・・・』


そう言ってふいっと窓の方に顔をそむけてしまった。カーテンから覗く日の光が少し顔に当たっている。その瞳にも光が映りこんでいて、それはまるで・・・・


『星空みたい!』

『?』

『アルの瞳って星空みたいね!』

『何言ってるんだ。目の中に星があるわけないだろ』

『もう!そういうことじゃなくて、光が当たってきらきらして、まるで夜空にお星さまが輝いてるみたいってこと!言われたことない?』

『は!?な、ないよ。・・・・・海の底みたいな色とは言われたことあるけど』

『その人、海の底見たことあるの?』

『え、い、いや。ないとは、思うけど』

『じゃあどうして分かるのかしら?わたしも海の底を見たことはないけど、星空を閉じ込めたような瞳のほうが合ってると思うなぁ』


アルの瞳をじっと見つめながらそう言うとみるみるアルの顔が耳まで赤く染まった。


『お、お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな・・・・!』

『だって本当にそう思ったんだもの。思いを口にするって大切なのよ』


アルはまだ赤い顔を隠すように手で口を隠しているけど、もう本を読むのはやめたみたい。

その後もいろんな話をしたけど、アルはこちらを見ながら聞いてくれた。ふと外を見るとお日様が沈みかけていて・・・・・わたしは八ッとおかあさまとの約束を思い出した。


大変!!もう帰らないと!明日は来ちゃダメって言われちゃう!

わたしはアルにまたねと声をかけてバタバタと護衛の人と一緒にお屋敷に帰った。少し暗くなってたけど、みんなはまだ帰ってきてなくて。執事さんはみんなには内緒にしてくれるって言ってたから良かった。


次の日もわたしは図書館に行った。アルに会えるかもしれないと思って。昨日と同じようにがらんとした図書館の中でページをめくる音だけが静かに響いていた。

急いで階段を駆け上がる。『淑女らしくしなさい』ってお叱りを受けそうな行動だけど、早くアルかどうか確かめたいんだもの。仕方ないよね。


あたりをきょろきょろ見回すと昨日と同じ場所で、同じように分厚い本を読んでいるアルがいた。


『アル!おはよう!』


声をかけるとアルはこちらを見てくれて、読んでいた本をパタンと閉じた。どうやら今日は一日おしゃべりにつきあってくれるみたい。嬉しくなって急いでアルの目の前に座った。今日は何の話をしよう?まずは一緒に食べようと思って持ってきたサンドイッチのことからかな?図書館の屋上に芝生とベンチがあるよって親戚のお兄さんが教えてくれたんだよ。

わたしはニコニコしながらアルにサンドイッチのことを話した。


『僕も軽食を持ってきているんだ。一緒に食べよう』

『そうなの?嬉しい!』


それからお昼までの間おしゃべりをして過ごしたあと、屋上で二人でベンチに座ってお昼ご飯を食べた。独りで食べるご飯は美味しくないけど、誰かと一緒に食べるご飯はとっても美味しい!そんな他愛のない話をしてからまた建物の中に戻った。


『わたしね、本当はお祭りに行きたかったの。でもおかあさまがダメって』

『そりゃそうだよ。ベルは貴族の子どもでしょ?庶民の格好をするならまだしも、そのままの服で人がごった返してるお祭りなんて行ったら攫ってくださいって言ってるようなものだろ』

『えっそうなの?だからおかあさまダメって言ったんだ・・・・』


おかあさまに理由を説明してもらっていたけど、よく分かってなかった。外国で攫われちゃったらおうちに帰れなくなっちゃうもんね。そんなのやだ。


『でも図書館なら良いよって言われたからここに来たんだ!本好きだし、アルにも会えたから来て良かった』

『本好きなのか?』

『うん!この絵本知ってる?私の大好きな絵本なの!』

『いや、初めて見る』

『じゃあ教えてあげるね!』


わたしはその絵本がどんなにいいお話か、内容を教えてあげた。アルは少しつまらなそうな顔をしていたけど最後まで聞いてくれた。ふふっ。やっぱり優しい。


『でも絵本なんて小さい子が読むものだろ。ベルは今何歳なんだ?6歳くらい?』

『失礼ね!8歳よ!』

『8歳?!僕と同い年じゃないか!8歳なのにまだ絵本なんて読んでるのか?』

『だって最後王子様が百合が咲くお庭でお姫様にプロポーズするところ素敵なんだもん!お姫様のドレスもとってもきれいでしょ?女の子はこういうのに憧れるものなの!』


そう言ってわたしは最後の王子様がプロポーズをしているページを差し出した。こんなに素敵なシーンだもの。見たらきっとそうだねって言ってくれるわ。


アルはそのまま受け取ってパラっとページをめくろうとした時、指を切ってしまった。

あっ!指が!紙で指を切ると痛いのよね。血は流れてないけど痛いに決まってる。それなのに平気な振りをしているアルが何だか痛々しく思えて、わたしは咄嗟にアルの手を取って治癒魔法をかけてしまった。


あっ!おかあさまとの約束破っちゃった!!どうしよう!

でもでも!悪い人に知られると危ないっておかあさまが言ってた。アルは悪い人じゃないから大丈夫だよね?


驚いてこちらを見るアルに向かってニヤッて笑ってから『内緒にしてね』って言った。

アルは黙ってこくんと頷いてくれた。うん、きっとアルなら大丈夫。おかあさまにも言わなきゃわかんないし、護衛の人からは多分見えなかったはず。だから大丈夫。


ふと窓の外を見ると日が傾き始めている。わたしはまたねと笑って言って護衛の人と屋敷へと帰った。


この回で終わらせるつもりでしたが、長くなってしまったので区切ります。すみません。

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