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追憶の中で 1

厳しい日差しが照りつける夏のある日、話があるとおとうさまに呼ばれた。

何だろう?不思議に思いながら読んでいた本をパタンと閉じる。


マリーについて来てもらってサロンの扉を開けると、おとうさまとおかあさまはソファに座って待っていた。

あれ?おかあさま、怒ってる?

いつも優しいお顔のおかあさまが機嫌の悪そうな顔をしていて、おとうさまも少し困った顔で下を見つめている。


自分は何か悪いことをしてしまったのかと急に不安になってきた。ぎゅっとドレスを握りしめた手には少し汗が滲んでいる。

戸惑って声をかけることが出来ずにいると、おかあさまが気づいてこちらを見た。一瞬体が強張ったけれど、わたしを見るおかあさまのお顔はいつもと同じ優しいお顔。ちょっとだけほっとした。


『ベル、こちらにいらっしゃい』


言われるままおとうさまとおかあさまの向かいに座る。すぐにマリーが紅茶を淹れてくれた。甘酸っぱい味がするローズヒップティー。わたしはそれにお砂糖を2杯入れて飲むのが大好きで、当然のようにマリーがお砂糖の瓶を一緒に出してくれた。


おとうさまとおかあさまも黙って紅茶を飲んでいたけど、少しするとおとうさまがカップを置いて『ベル』と語りかけてきた。わたしはやっぱり怒られるのかもしれないと慌てて口の中の紅茶を飲み込んだ。ごくんと喉が鳴って紅茶が流れ落ちていくのが分かった。心臓がドキドキと音を鳴らしている。


『お父様とお母様が明後日リンネイル帝国に行くのは知っているね?』


こくんとわたしは頷いた。1週間前におとうさまとおかあさまだけ行かれると聞いた。わたしとライリーはまだ小さいからお留守番だって。


『そこにベルも一緒に連れて行こうと思っているんだ。お父様のお仕事のお手伝いをしてくれるかな?』

『わたしも行けるの?やったー!わたし、リンネイルの言葉一生懸命勉強したのよ!あ・・・でも、ライリーは?』

『ライリーはまだ小さいから連れていけないの。だからキースおじさんのところで預かってもらうのよ』

『キースおじさんっておかあさまのおにいさま?』

『そうよ。エミリーがいるところ』


ライリーはいとこのエミリーによく懐いているから大丈夫ね。ライリーが一人にならないことにわたしは安心した。



・・・・・・・・



その後ばたばたと準備が始まって出発の日になった。ライリーは昨日キースおじさんが迎えに来てくれてわたしたちより早く家を出て行った。


わたしもおとうさま、おかあさまと一緒に馬車に乗り込む。おとうさまがふわっと私を抱き上げて乗せてくれた。一人で乗れるよって言おうと思ったけど、小さなお姫様になったみたいでちょっと嬉しかったから言わないでおいた。


馬車はいつものやつじゃなくて遠くへ行く時のためのクッションがふかふかのやつ。ガタンってなった時に体が痛くならないための魔法もかけられているんだって。


リンネイルまでは1週間かかるっておとうさまが言ってた。おひさまが出ているうちは馬車に乗っているけど夜はベッドで寝られるよっておかあさまが言ってたからきっと大丈夫。わたしお姉さんだから頑張れるよ。


リンネイルに着くまでの間にわたしがお手伝いするお仕事についておとうさまが教えてくれた。


『ベルは治癒の魔鉱石は見たことあるかい?』

『見たことないわ!あるの?』


治癒の魔鉱石は作ることが出来ないって聞いていたのに、本当はあるのかな?


『残念だけどまだ無いんだ。どうしてか分からないけど治癒の魔法を入れようとすると魔鉱石が壊れてしまうんだよ』

『そう・・・・』


大きな怪我や病気をすると神殿に行かなきゃいけないって聞いたことがある。でも神殿はとっても高くて、行けない人もいっぱいいるって。そんな人はお医者様からお薬をもらってゆっくり治すんだって。


治癒の魔鉱石が出来ればみんな病気や怪我で苦しまなくて済むって思ったのに。

シュンとしてるとおとうさまがでもね、と言った。わたしはパッと顔を上げておとうさまの顔を見た。


『リンネイルの親戚のお家、知ってるだろう?今から行くところだよ。そこから連絡が来てね、治癒の魔鉱石を作れるかもしれない機械が完成したらしいんだ。だから試してみようってことでリンネイルに行くことになったんだよ』

『そうなんだ!』

『本当は神殿にいる治癒魔法が使える人に来てもらおうと思っていたんだけど、急な用事ができて来れなくなってしまったんだ』

『え・・・・。じゃあどうするの?』


治癒魔法が使えるひとがいなかったらせっかく行くのに無駄になっちゃう!

不安になったけど、その時わたしはあることを思い出した。


『わたし、治癒魔法使えるよ‼︎』


おとうさまは私の話を聞いて嬉しそうに笑って頷いた。そっか!お仕事のお手伝いって治癒魔法を使うことなんだ!

よーし!と両手をぐっと握りしめて意気込んでいると、おかあさまが心配そうに話しかけてきた。


『ベル、無理はしなくていいからね。本当はお母様はベルにお願いするのは反対だったの』

『え、ど、どうして?』

『あなたはまだ8歳よ。リンネイルに行くのも大変なのに研究の手伝いだなんて・・・』

『おかあさま・・・わたし、大丈夫だよ!もうお姉さんだもん、頑張れるよ』


辛そうなお顔をしてるおかあさまを安心させてあげたくって精一杯にこっと笑ってみせた。

おかあさまも笑ってくれたけど少し困ったお顔をしてる。おかあさまがつらいの、嫌だな。わたしが頑張ったら喜んでくれるよね?


リンネイルには1週間で着いた。とっても疲れたけど、おとうさまが予定通りって言ってたから、頑張って良かった。おかあさまはやっぱり心配そうなお顔をしている。わたしはまたにこって笑って大丈夫だよって言った。


お仕事のお手伝いも大変だったけどいっぱい頑張った。頑張りすぎてお熱出しちゃったけど。

おとうさまと親戚のおじさんがいっぱい褒めてくれて嬉しかった。


明日はみんな皇后さまのお誕生日パーティーに行くんだって。わたしは一人でお留守番って言われた。一人なんて、つまんない。


『ベル、子どもはパーティーに行けないの。ごめんね』

『じゃあ、まちのお祭りに行ってもいい?色んなお店があるんだって‼︎』


護衛のひともいるし、大丈夫だよね!そう思ってパーティーのために忙しく準備をしているおかあさまに聞いてみたんだけど・・・


『いけません』


そうピシャッと言われてしまった。そんな、どうして?戸惑っているわたしにおかあさまは続けて言った。


『たくさんの人がお祭りに参加するの。護衛の人もあなたを守りきれないわ』

『じゃ、じゃあ図書館は?図書館ならいいでしょ⁈』

『本ならこのお屋敷にも図書室があるわよ?』

『いや!図書館がいいの!!』


何とかしてわたしにお屋敷に残っていて欲しいおかあさまと、何をしてでもお屋敷に残りたくないわたし。

少しの間見つめ合ったままピクリとも動かなかったけど、やがておかあさまがハァとため息をついて、いいわと言ってくれた。

わたしは嬉しくて、羽があったら飛んで行きたくなるほどだった。


『ただし!』


喜んでいるわたしにおかあさまが人差し指をピンと立てて話を続けてきた。


『お約束があります。一つ目は絶対に護衛の人から離れないこと。二つ目は人の多いところには行かないこと。図書館まで馬車で行ってまた馬車で帰ってきなさい』

『はい』


あと何個お約束があるなかな?でも行けなくなったら困るから黙って頷いておこう。


『三つ目は日が暮れる前には帰ってくること。そして四つ目、これが1番大切よ。絶対に魔法は使わないこと、特に治癒魔法は絶対に使ってはだめよ』

『どうして?』

『治癒魔法を使えるひとはとっても少ないの。ベルが使えるって知られてしまったら悪い人に連れて行かれてしまうかもしれないわ』

『え・・・』

『だから絶対に使ってはだめよ?』


わたしは怖くなってうんうんと頷くことしか出来なかった。


そして、おかあさまとのお約束を胸の中で繰り返しながら図書館に向かった。


がらんとして誰もいないと思っていたそこで、わたしは金色の髪に星空を閉じ込めたような瞳をした男の子と出会った。

長くなってしまったので2回にわけます。

アレックスとは次回出会います。

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