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夜会にて3

続きです。

魔鉱石が取り付けられているらしい楽器からは演奏するたび、音楽に合わせて光の粒が宙を舞った。イルミネーションのようにきらきらと輝くそれはとても幻想的で先ほどの騒動など忘れさせてくれるかのようだった。特に光の中で繰り広げられるダンスは圧巻で踊っている人はもちろん見ている人たちも恍惚の表情を浮かべている。


最初は数人だけだったのが、自分達もと次々とダンスを踊り始めた。

そんな中、私はその輪に加わることなく独り立っていた。

そして余計なとばっちりが飛んでこなかったことにホッと息を吐く。まだドキドキしたままの気持ちを落ち着けるように、手に持ったままだった飲み物をくいっと喉に流した。少しぬるくなったそれでも冷静さを多少取り戻す役には立ってくれた。


侯爵夫人が場の雰囲気を変えてくれたとは言えあんなことがあった後だ、どうせ誰からも誘われないだろう。そう思って気を抜いていたら一人の男性がこちらに歩いてくるのが見えた。

黒い髪をきっちりと後ろになでつけ、濃紺の夜会服をばっちり着こなしている。誰かをダンスに誘いに来たのかしら?周りを見回してみてもそれらしい人はいない。

不思議に思っているとその人は私の目の前で来ていた。


「私とダンスを踊っていただけませんか?」


優雅に差し出された手。その手を見つめて困惑してしまった。

え?私?

戸惑ってその手を取れずにいると目の前の彼から小さな声が漏れた。


「ダンスくらい踊ってくれよ、ベル」


驚いてパッと顔を上げると目の前の彼と目が合った。優し気なアイスブラウンの瞳に高い鼻、形のいい唇。え?こんなイケメン知り合いにいたっけ?あ、でもこの目見覚えがある。


「もしかして・・・トム?」


学園時代の友人の名を口にすると目の前の男性は二ッと笑った。片方の口角だけを上げる笑い方、やっぱり思った通り。


「ようやく分かったか。そんなにジロジロ見てイケメンの俺様に見惚れちゃったか?」


私に向かって差し出していた手を顎にやり、ポーズを決めながら軽口をたたく。

卒業してからそんなに期間も空いてないはずなのに、この軽い感じがすでに懐かしい。

学園時代のことを思い出して、ふふっと笑みがこぼれた。


「令嬢、お手をどうぞ」

「ええ、喜んで」


再び差し出されたその手を、今度は迷わず取った。そしてホールの中央へと歩いて行きつないだ手と反対側の手を彼の肩へと置いた。

これまでにもダンスはたくさん練習してきたけれど、社交界で踊るのは今回が初めて。デビューの日はグレースとずっとおしゃべりしていたし。

曲に合わせてステップを踏むが、ミスをしないかドキドキしてしまう。そんな私の心を見透かしたのかトムはまた二ッと笑った。


「俺様はダンスの天才だからな。リードしてやるから足を踏んでも気にすんな」

「天才って、自分で言う?」


確かに彼のダンスの腕前は学園時代から群を抜いていたが、それは自画自賛というものだろう。でもお陰で体の力が抜けた。

緊張して強張った身体がほぐれ、彼のリードもあり難しいステップも難なく踏むことができた。

すると目の前の彼からボソッと小さな声が漏れた。


「・・・・・なあ、ベル。大丈夫か?」

「えっ・・・」

「さっきの、アレックス殿が言ってたこと。お前本当に知っていたのか?」

「それは・・・・」


私は小さく首を振った。彼ははぁっと大きくため息を吐いた。


「やっぱりな。すましたふりしてたけど、かなり驚いてただろ。一目見ただけでわかったよ」

「えっ。私そんなに顔に出てた?結構頑張ったと思うんだけど」

「いや、他の奴には分からなかったんじゃないか?お前動揺すると片眉だけ少し上がるだろ」

「・・・・・・そんな癖、初めて知ったんだけど」

「まあ、学園の頃から付き合いのある俺だから分かったってことだ」


釈然としない気持ちを抱えながらも納得することにした。まあ、他の人たちに気づかれてないならいいや。

くるっとターンをして一度離れた体がまた近づく。ふと彼の顔を見ると先ほどまでの軽さは身を潜めとても真剣な顔をしていた。


「トム・・・・?」

「なあ、ベル。嫌なことがあるならちゃんとアレックス殿に言った方がいいぞ。言葉にしないと伝わらないぞ」

「そ、そんな・・・・面と向かって言う勇気なんかないよ」

「お前・・・・結婚するんだろ?言いたいことも言えなかったらこの先地獄だぞ?」

「結婚なんか、しない」

「は?」


ボソッと呟いた声はどうやら彼の耳には届かなかったようだ。

ちょうどその時曲が終わった。手を繋いだまま彼にエスコートされそっとダンスの輪から離れる。

気まずい雰囲気を変えようとパッと笑顔をつくり彼の顔を見た。


「心配してくれてありがとう。私なら大丈夫。トムって実は優しいよね」

「実はってなんだ、実はって。俺はいつだって優しい良い男だろ」


この話をこれ以上続ける気のない私の気持ちを悟ってくれたのか苦笑いしつつも合わせてくれた。軽くてナルシスト気味の彼だが、根は本当に優しいのだ。わざわざダンスに誘って他の人には聞こえないように話をしてくれたのも私への気遣いからだ。その優しさにほんのり心が温まる。

繋いでいた手を離しじゃあなと去ろうとした時そういえばと再びこちらを見た。


「お前、デビューの日何でいなかったんだ?」

「え?いたわよ」

「本当か?会場中見てもいないから風邪でも引いたんだと思ってた」


どういうことか分からず首をかしげていると、今度こそじゃあなと言って離れて行ってしまった。

もうこれ以上ダンスに誘われることは無いだろうと思っていたのだけど、予想外にその後何人かにダンスを誘われた。


社交界初のパーティーで何度も踊ったせいでふらふらだったけれど、その姿を見せるわけにはいかない。気合をいれて姿勢を正すと、ふとアレックス様と目が合った。こちらをじっと見つめる目つきはまるで・・・・


に、睨んでる?え、私睨まれるようなことしたっけ?


困惑しながら見つめ返すと慌てたように目をそらされた。そして相変わらずぺったりくっついている公爵令嬢とクリス様の3人でおしゃべりを再開し始めた。

もう、何なの?!

訳が分からずフンっと不貞腐れていると男の人が目の前まで来ているのに気が付いた。

またダンスのお誘い?!もうへとへとなんですけど!!と思いながら彼の顔を見て固まってしまった。


目の前にいるのは何と第二王子様。庭園に出て頭が冷えたのか先ほど醜態を晒したとは思えないほどすっきりとした顔をしていた。長めの髪を一度かきあげた後スマートな動作で手を差し出してきた。


「美しいご令嬢、どうか私とダンスを踊っていただけませんか?」

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