ハッピーエンド
最終話です。木下デジン視点。
「私を試しているのでしょうか?それともお金持ちの娯楽ですか」
そう言うと、表情の消えた眼差しで俺を見つめた。
「木下さんが、今まで私と交流してきたのは、私の反応を見る為だったんですよね」
出会いの体調不良はともかく、マイナスになっている印象をゼロに持っていけるように頑張っていたが、彼女が俺に悪い感情を抱いていないと感じてからは、信頼してもらっていると思っていた。
恋愛の第一歩、というよりは、人同士の付き合いというのは、信頼関係が必要だろう。彼女と信頼関係を築こうと、俺なりに大金を使い、努力してきたつもりだ。お金が足りなかったのか。
「大丈夫です」
何かを悟った聖母のような顔で彼女は頷いた。
「たとえ、あなたが娯楽で私を振り回していたとしても、騙された私も私ですし、昔の容姿はともかく、お金とルックスに惹かれて、今日ものこのこついて来てしまった私なので、あなたを責めたりはしません」
うんうん、と何か納得している彼女は、少し困ったように笑った。
俺は、口から魂が出たように放心していた。
彼女の言葉には、嘘はないのだ。今だけ冗談だと言ってほしかった。
ただ、彼女の声の調子を考えると、本心から言っている。
「もう終わりです。さあ、帰りましょう」
そう付け加えられて、今度こそ胸の内に激しく渦巻く衝動のままに俺は両手で顔を覆った。
え、もしかして彼女に言った俺の言葉はすべて嘘だと思われているのだろうか、金持ちの娯楽だと。
コミュ力皆無の俺が、彼女と話したくて考えて考えて絞り出した言葉も、無人島で彼女にふさわしい男になろうとした事も、夜空を見ながら話した夢も、未来も。
ちなみに思考が錯乱し、声が出ないほどパニックを起こしたことは、今までの人生ではなかった。
「私なんかより、もっと素敵な女性は、いっぱいいます」
混乱したままの俺にさらなる追撃が入った。
もしかして、俺は彼女の恋愛対象外?心に受けたダメージの大きさから、人目を憚らず号泣。
「え!」
悲観的だった彼女は、突然泣き出した俺を見て、腕を上に下に動かしあたふた、周りを見回し、水の入ったペットボトルをつかみ俺に差し出した。
「これ(水のペットボトル)ここに置きます。蓋は開いちゃってるけど、よければ使って下さい」
彼女は、俺から一歩離れ、中腰で俺の様子を窺っている。
その距離が、とても悲しく、今の彼女の心の距離だと痛感させられ、ますます涙が止まらい。
彼女を困らせたいわけじゃない。俺の方を向いてほしい、恋愛対象として意識して欲しい。
ドクンドクンと高鳴る胸の鼓動が、泣いているせいだけじゃない。
「ひく、ひく、娯楽じゃありません。
ひく、初めて会った時リザさんは、外見で態度を変えなかった。
ひく、太ってても、汗だくでも、金持ってなさそうでも、辛そうにしてたから、声をかけてくれたんですよね。俺はそれが嬉しかったんです」
掠れて震える声で、辛うじて否定だけはしたが、彼女に伝わっただろうか。
「でも、デートは私を試していましたよね」
「いいえ、あなたを楽しませたかったんです」
「え、え?」さらに困惑した声が続く。
当然本気である。
「俺の事何も知らないのに、助けようとしてくれた。そんな人、俺の周りには一人もいない。
そんなあなただから、話したい、お近づきになりたいと思いました」
「………え、ほ。ほんとうに、私に本気」
耳まで真っ赤になったリザさんは、視線を忙しなく彷徨わせていた。
ちら、と信じられないという顔でこちらをみた彼女と視線が合うと、すぐに子供みたいに首の限界までそっぽを向かれたが、首まで真っ赤になっていた。
ん、あれ、これは、まだチャンス、がある、のだろうか?
縋るように、上目づかいでリザさんの袖を引っ張ると、彼女は一瞬嬉しそうに微笑んで俺に手を伸ばしかけたが、一歩後ろに後退した。
ダメかと、それでも諦めきれず追いすがると、彼女は笑って、俺を抱きしめた。
白河・DG・夜舟様より頂きました
ハッピーエンド
おしまい
番外編続きます。




