それゆけ、開発部男性陣!
始め木下デジン視点。後半開発部視点。
ザワザワザワ
木々を揺らす風の音
ピーピー
遠くで、鳥が鳴いている
目の前には、レンガ造りの古いトンネル。昼間なのにトンネルの中は薄暗く、黒いシミや、コケが多数。
じめじめした、不気味な雰囲気が漂う。
俺とセバスチャンは、2回目のデートの下見に来ている。
前回のホストクラブは、プロだからと安心しすべてを任せてしまった。今回は同じ間違いはしない。下見をし、しっかり準備をして臨む。
「リザさんは、うるさい場所は苦手らしい、そこで、今度は自然豊かで静かな場所に行こうと思う。ここだ」
「ぼっちゃま、確かに自然は豊かで静かでございます。ですが、意中の女性と2回目に行く場所ではございません。お考えを改めた方がよろしいかと」
「なぜだ。調べたが人気の心霊スポットらしい。黄泉の国へのトンネル。死者も黙る静かな場所。これ以上静かな場所がどこにある」
「ございません。しかし、静かすぎます。何もありません。女性が喜ぶでしょうか」
「うむ。確かに何もないな。では、余興をこちらで準備しよう。トンネルの中で食事をするのだ。フランス料理のフルコースはどうだろう。このトンネルは距離は短い、トンネルの出口側で料理を作り提供する。オーケストラの楽団を呼び寄せ、生演奏もいいな。トンネル内に響いて、幻想的な雰囲気になるはず。ここまで静かで、おごそかな場所なら、リザさんも喜んでくれるだろう」
「そうでございましょうか‥‥。」
こうして2回目のデートは決行された。
◇◇◇
リザさんの家まで、車で迎えに。リザさんが俺の横に座った。
俺の横!なぜ向かいの席ではなく俺の横?リザさんとの距離が近くなって嬉しい。
前回のホストクラブは失敗ではなかったのか、俺への好感度が上がっている!
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
上機嫌の俺は、隣に座るリザさんをチラチラ見る。
髪を降ろし、普段着、ズボン姿の彼女も、なんだか幼く見えて可愛い。
俺は、デートを脳内でシュミレーションしながら、車に揺られて目的地に向かった。
そろそろ、目的地の心霊スポットだ。
目的地に着いたとたん、リザさんの顔色が変わった。
車から降りないと断固拒否。
これは困った。フランス料理の準備も、オーケストラの生演奏もスタンバイ済み。
リザさんが来ないと始まらない。だが、リザさんの意思を無視することはできない。
スマホを見た、圏外。使えない。
俺は車から降り、セバスチャンと一緒にトンネル内へ、トンネル内に待機していた部下と、計画の代案を検討していた時、車の方から悲鳴が聞こえた。
「なんだ?リザさんに何かあったのか?」
俺は、慌ててリザさんの元へ全速力で走る。走るが俺の大きな体が邪魔をする、トンネル内のコケに足を取られ早く走れない。
「セバスチャンさん~、セバスチャンさん~」
彼女の切羽詰まった叫び声が聞こえた。
なぜ、俺ではなく、セバスチャンを呼ぶ?
胸が何だかモヤモヤする。隣を走るセバスチャンを睨みつけた。
リザさんは、外に出て車の横に座り込んでいた。
「大丈夫ですか?」
俺が話しかけたのに、リザさんはセバスチャンに抱き着き大泣き。よほど怖かったのか体が震えている。
セバスチャンはリザさんを受け止め、やさしく背中をさすっている。
俺は、その光景を、茫然と見ていた。
胸の中は、疑問と、モヤモヤでいっぱいだ。このモヤモヤの正体は嫉妬なのか。
リザさんが頼ったのが、俺ではなかった事に落胆と、いら立ちが隠しきれない。
そのうちリザさんは落ち着き、俺と一緒に車に乗り込んだ。
今日のデートは中止だ。リザさんは車内に乗り込んでも、キョロキョロ周りを見回し落ち着かない。
「一緒に乗っていた、人当たりの良さそうな中肉中背の40代くらいのスーツを着た男性は誰ですか。一緒に乗ってきましたよね」
リザさんは何を言ってるんだ?
「いいえ、この車に乗っていたのは、私と福井さん、運転手のセバスチャンだけです」
リザさんの顔がみるみる蒼白になり、目をつぶり、俺の袖をつかんだ。
「早く、早く、早く、出発しましょう」
車は動き出し、暗い森を抜け、主要道路に出た。
リザさんは目を開け、俺の袖を放した。
放された袖を寂しく思いながら、リザさんに水のペッドボトルを差し出す。
「大丈夫ですか」
ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ
リザさんは、勢いよく水を飲みほした。
俺は落ち着いたリザさんに、謝罪と、何故俺の名前ではなく、セバスチャンの名前を呼んだのか訊ねてみた。
「え!?だって、私、あなたの名前を知りません。自己紹介されてないのでー」
俺の名前を知らない‼。
俺は、車のソファーから崩れ落ちた。
「マジで、何やってんだ俺、自己紹介もしてない。リザさんは俺の名前さえ知らない。恋愛以前の問題。
友達でもなく、知り合いでもない。そこら辺の石と同じだぞ、お前何やってるんだよ」
俺は自分自身に激しく自己嫌悪。このままではいけない。
「俺の名前は、木下デジンです。お願いです。もう一度、チャンスを下さい!」
「本当に結構です。いりません」
車に乗っている間、頭を下げて懇願したが、リザさんは了承してくれなかった。
俺は絶望のなか、帰路についた。
◇◇◇
「ハァ~。」
「何してんだ俺。」
「ハァ~。」
「〇にて~。」
カプセルコーポレーション代表兼開発者のデスクから、ずーーーーとため息が聞こえる。
「おい、何とかしろよあれ」
「無理だろ。意中の女性から完全拒否だろ」
「心霊スポットでやらかしたんだろ。何で心霊スポットに行こうと思うかな~」
「しかも、自分の名前、教えてなかったんだって」
「マジで、どんだけポンコツ」
「それな、だけど代表、仕事はできるんだよな~、開発者としても、ずば抜けてる。今は代表だが、今の会長が退いたら、おいおい代表取締役会長だろ」
「だが、あのため息はウザいな、しかも仕事が全く進んでいない」
ー・-・-・-・-・
【それゆけ、開発部男性陣!】
ため息ばかりの代表をしり目に、社内チャットに新たなコンテンツが誕生した。
伊東:では、早速会議を始めたいと思います
議題を言わずとも開発部の男性陣が、尽力するべき案件は、これ以上ない。
いつもは、AI技術開発や、軍事産業、エネルギー関連など世界を揺るがす社内チャットの内容だが、『木下デジン代表と彼女の仲直り計画!!』などと、デカデカと記入されている。
情報欄には、現在わかっている彼女の家族構成などの情報、女性向け雑誌のデート情報集計、仲直りの定番などびっしり。
北:現在会長何してるんだっけ?
伊東:秘書のセバスチャンさんの話では、高級ジュエリーを複数、佐川急便で彼女の自宅に宅配。彼女ドン引き。彼女から秘書さんに連絡が入り、すべて返納されています。
北:マジか~。知り合ったばかりの女性に、お詫びの贈り物が高級ジュエリーありえない。熟年の夫婦じゃないんだぞ。だが、ちゃんとした常識ある女性でよかったな。
伊東:代表は仕事以外はポンコツのわりに、女性を見る目はあったようです。ですが、代表に対する彼女の印象は最悪です。
北:まあ、金で解決しようとしたんだから、普通そうだよな。
伊東:そこで、仲直り計画です。代表の印象が-の現在。何してもダメでしょう。
しかし、何もしないと、彼女との関係も、ため息代表も、このままです。
AI開発は行き詰まり、軍事産業は停滞。エネルギー開発は他国に先を越されます。日本の、世界の損失です。みなさんに解決に向けての意見を募りたい。
南川:女性向け雑誌では、20~30代の女性が選ぶ理想の彼氏、3大条件は、
1つ目『清潔感のあるルックス』
みんな:ないな。
南川:2つ目は『優しく思いやりがある性格』
西田:代表、その前に、コミュ力皆無で、テーブルにもつけてないよな。
南川:3つ目が『自立していること』
西田:自立…。仕事は自立してるな。でも私生活はセバスチャン任せだろ。
南川:それな。でも、金持ちはそれが普通じゃね。
西田:ちなみに、他のリサーチ恋愛調査によると、一貫して『性格・価値観』が最重要で、見た目や、年収より優先される傾向があると書いてある。
みんな:あ~。価値観か~。
北:価値観はあきらめよう。だが他は何とかなるかもしれない。
まずは、贈り物だ。彼女の負担にならず、返却されず、いつでも破棄できて、でも破棄しづらい物。
北:あとは、清潔感のあるルックスだ、人は見た目が9割と言う。これは代表に努力してもらわなやならない。
開発部の男性陣の激しい討論が日夜おこなわれており、中には徹夜する日もあるほどだった。
白河・DG・夜舟様より頂きました
もしも、トンネル内で食事をしたなら
有名な心霊スポットのトンネルの中で、オーケストラ生演奏付きフランス料理のフルコースを食る姿。ちょっと見て見たかった。




