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娼館に堕ちた悪役令嬢を、元婚約者の王太子はもう一度愛する  作者: ももにく


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15/18

15

街道を、一頭の馬が駆けていた。


 馬上にいるのは、王宮騎士のアルベルト。


 レオンハルトから直接命令を受け、セレネ付きの侍女を追っている。


「この先か……」


 手元の地図を確認する。


 侍女が最後に目撃されたのは、王都から西へ向かう街道だった。


 そして、その先には一つの大きな街がある。


 夜の街として有名な場所。


 そこには、月影館もあった。


 アルベルトは眉をひそめる。


「まさか……」


 しかし、今はまだ確証がない。


 馬を走らせる。


 一方、その頃。


 月影館では、マリアンヌが花を束ねていた。


「マリー、これどこ?」


 ミラが花を持ってくる。


「少し大きい花?」


「うん」


「じゃあ、窓の近くがいいと思う」


「どうして?」


「香りが強いから」


 マリアンヌは花に顔を近づける。


「この花、少し甘いでしょう?」


「……すごい」


「何が?」


「見えないのに、ちゃんと分かるんだね」


 マリアンヌは微笑む。


「見えなくなったからこそ、分かることもあるのかもしれない」


 以前なら、そんなことを考えたこともなかった。


 見えることが当たり前だったから。


 けれど今は違う。


 世界は、少しずつ別の形を見せてくれている。


 その日の夕方。


 女主人がマリアンヌを呼んだ。


「マリー」


「はい」


「今夜、少し忙しくなるわ」


「……分かりました」


「あなたは客室の花を整えてちょうだい」


「はい」


 マリアンヌは頷いた。


 もう、以前ほど怯えなくなっていた。


 何を言われても、淡々と受け止める。


 それが自分を守る方法だと分かってきたからだ。


 けれど――


 夜になると、やはり不安になる。


 知らない人間の声。


 知らない足音。


 自分の知らない世界。


 目が見えないことで、そのすべてが何倍にも大きく感じられる。


 マリアンヌは壁に手を添えながら廊下を歩いた。


 そのとき。


 カツン。


 遠くから、靴音が聞こえた。


「……?」


 足音が近づいてくる。


 一歩。


 また一歩。


 マリアンヌは立ち止まった。


「誰……?」


 返事はない。


 けれど、足音は止まった。


 すぐ近く。


 マリアンヌは息を呑む。


「……」


 しばらくして、足音が遠ざかっていく。


 マリアンヌは胸に手を当てた。


「……怖かった」


 それを聞いていたミラが近づいてくる。


「大丈夫?」


「うん」


「顔色悪いよ」


「見えないけど……何となく、人の気配って怖いね」


「私がいるから大丈夫」


 ミラが手を握る。


 マリアンヌは、その手を握り返した。


「ありがとう」


 その頃。


 月影館の外。


 一人の男が建物を見上げていた。


 アルベルトだった。


「……ここか」


 侍女の足取りを追ってきた結果、辿り着いた場所。


 だが、すぐには入らない。


 王宮騎士だと知られれば警戒される。


 そこで身分を隠して調査することにした。


「明日、客として入る」


 アルベルトはそう決めた。


 そして――


 月影館の二階。


 マリアンヌは知らなかった。


 すぐ近くまで、王宮から来た人間が迫っていることを。


 さらに。


 その男が追っているのは自分ではなく、別の人物だということも。


 夜が更けていく。


 王都から遠く離れたこの街で。


 二つの運命が、少しずつ交わり始めていた。

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