哲学書
その日の【ゴミ召喚】で現れたのは、ビニールの紐で縛られた『古本の山』だった。
丁寧に紙のカバーがかけられているのでどんな本かは、分からない。
「あー、今回は古本ですね。役に立つ情報が書いてあるといいですね」
俺が紐を解くと、バルト主任や研究員たちが群がってきた。
数時間後――
パラパラとページをめくっていたバルト主任の手が、ピタリと止まった。
「……神は、死んだ……」
主任の口から、教会が絶大な力を持つ世界の人間が絶対に口にしてはならない言葉が漏れた。
歴史小説を読んでさぼって……役に立つ情報が無いか探していた俺は、ヒェッ、と息を呑んだ。
「神が死んだ……そうか……。我々がいくら祈っても雨が降らず、疫病が治まらなかった理由……それは、最初から神などいなかったからだ!」
「「「な、なんだってー!?」」」
周囲の研究員たちが主任に詰め寄る。
バルト主任は、『ニーチェ入門』(おそらくニーチェの哲学をわかりやすく解説した本)を指差し、血走った目で叫んだ。
「見ろ! この異界の賢者『ニーチェ』は言っている! 神が定めた運命などない! 悲劇を肯定し、己の意志で新たな価値を創造する者……それこそが『超人』であると!!」
「「「おおおおっ!!」」」
「今まで実験が失敗するたびに教会の神父に寄付をして、お祓いを受けていたのは無駄だったのか!」
「我々は神の庇護を捨て、超人とならねばならん!!」
「バルトさんストーップ!!」
俺は慌てて本を奪い取ろうとしたが、遅かった。
バルトさんたちは首から下げていた神の護符を次々と外し、床に叩きつけ始めたのだ。
「ヤバいヤバいヤバい! 教会の人間に聞かれたら、全員一発で『火あぶりの刑』確定ですよ!! 思想の劇薬を摂取しないで!!」
だが、パニックはそれだけでは終わらなかった。
「……ほう。異界の学問とは、かくも合理的で冷徹なものか」
「え!?」
いつの間にか研究所に来ていた第一王子が、『君主論』を読み耽っていたのだ。
「で、殿下!?」
「『君主はキツネのように狡猾に罠を回避し、ライオンのように力強く狼を蹴散らさねばならない』……素晴らしい。まったくもってその通りだ。さらに『時には道徳を捨て、恐れられる存在になれ。ただし恨まれてはならない』とある」
第一王子の目が、これまでにないほど黒く、そして鋭く光り輝いていた。
「私が薄々感じていた『国家運営における綺麗事の限界』を、この『マキャヴェリ』という賢者は、子供にすら分かるように言語化してくれている。……カイトよ。この本は私が貰い受ける」
第一王子が後ろに控えていた執事に『君主論』を渡す。
執事の手には、既に
ギュスターヴ・ル・ボン著『群衆心理』
ロバート・B・チャルディーニ著『影響力の武器』
孫武著『孫子の兵法』
韓非著『韓非子』
ロバート・グリーン著『権力に翻弄されないための48の法則』
デール・カーネギー著『人を動かす』
ア●●●・ヒ●●●著『●が●●』
「ヒィ! 最後の本はダメです。それだけは絶対に!」
俺の叫び声が虚しく研究所に響き渡る。
「はっ!!!!!……ゆ、夢……か……助かった……」
俺は、冷や汗をびっしょりかきながらベッドから飛び起きた。
「……だ、大丈夫だよな?」
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次話明日7:00に公開予定。




