板バネ
トラックを解体するため、ドワーフたちが血の滲むような思いで『工具』を作り上げた翌日のこと。
日課の【ゴミ召喚】を行い研究所前の広場に召喚されたのは、青い塗装が剥げ、所々凹んだ年季の入った金属製の『箱』だった。
俺はそれを見た瞬間、嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
(うわー……この独特のフォルム、どう見てもアレじゃん。このタイミングで開けたくないなー……!)
そんな俺の願いも虚しく、バルト主任が無邪気に留め具を外し、ガコンと蓋を開け放つ。
中に入っていたのは、まだまだ使えそうな、油と錆にまみれたスパナ、レンチ、ドライバーといった『工具』達だった。
「「「あっ……」」」
昨日までの苦労は一体なんだったのか。ドワーフの鍛冶師たちを含め、その場にいた全員が完全に沈黙してしまった。いたたまれない虚無感が広場を包み込む。
バルト主任はコホンと咳払いをして、パンパンと手を叩いた。
「まあまあ! 使える工具が増えるのは良いことですし、これで解体の効率もさらに上がりますな! さあ、トラック解体の作業に取り掛かりましょう!」
気を取り直してダンプカーの解体作業が進む中、車体の横に座り込んでいたバルト主任が、何層にも重なった分厚い鉄の板を指差した。
「カイト殿、この車輪の軸と車体を繋いでいる、何枚も重なった鉄の板はどのような役割を?」
「ああ、それは『板バネ』ですね。サスペンションといって、車がガタガタ道を走る時の振動や衝撃を吸収して抑える装置ですよ」
俺がそう答えると、バルト主任は顎に手を当てて深く頷いた。
「なるほど。我が国でいうところの、馬車の『革帯』のようなものですか」
「えっ!? この世界にもサスペンションってあるんですか?」
俺は思わず聞き返してしまった。中世ファンタジーの馬車といえば、木の車輪と車体が直結していて『乗るとお尻が割れる』のがお約束だと思っていたからだ。
「ええ。王族や有力貴族が乗る高級な馬車は、客車を丈夫な革の帯で吊るして揺れを和らげる構造になっているのです。ですが、鉄の板の反発力を利用して衝撃を殺すとは……カイト殿の世界の技術は、やはり桁違いに進んでいますな」
バルト主任はホコリまみれの板バネを撫で回し、キラキラと目を輝かせた。
「この『板バネ』の構造を馬車に取り入れれば、現在の革帯よりも遥かに快適な馬車が作れるはず……。殿下にご報告して、早速この機構を組み込んだ試作馬車を作ってみましょう!」
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次話明日7:00に公開予定。




