1、ヒロインに転生しました。
そもそも私はこんな展開を望んでいない。
っていうか意味が分からない。
自己紹介をさせてもらうなら、紺野理央、二十六歳、OL。
いや、今はもう違う名前で、そして乙女ゲームのヒロインになった。
――なりたてほやほやだ。
遡る……ほどでもなく、一時間ぐらい前。
私を転生させた謎の奴は、こう言った。
『君ねぇ……遅刻だよ。おかげで時間がない』
真っ白な霧の中、なにも見えない状況で。
混乱していた私へのフォローは一切なし。まさかの苦情。
遅刻って言われても、ここに来る予定なんてなかったんですけど?
――っていうか、どこですか?
ムッとしつつも、頼れるのはそいつだけなので大人しく説明を待つ。
……ただし、あれを説明とは言いたくない。
『名前はめんどいからエレノアで愛称はエレナ。推しはメインヒーローのまま。髪はデフォルトのピンクブロンド……』
こちらの意見など求めず、スラスラとのたまう。
推し?推しって何?いやそれより問題はピンクブロンドだ。
冗談じゃない。ピンクブロンドが可愛いのはヒロインだけ。
私は違う。
慌てて、「ピンクブロンドは怖い」と訴えたら、
『はぁ……時間ないって言ったよね?』
とため息をつかれた。
それでもこちらは譲れない。ふるふると首を振り続ければ。
『仕方ないなぁ。推しは変えられないけど、ピンクブロンドはすぐできるか。こっちだけね。何色?あ、今とおんなじでいいか。濃い茶色な。目は黒いみたいだけど、微妙だなぁ。髪と同じ色にしとくか。はい終わり』
なんとか、たった一つの意見は通った。
すぐできるなら最初からこちらの望みを訊いてくれてもいいのでは?と思わなくもなかった。
『あ、遅刻だから、時間を進めといた。って言ってもお前全然やってなかっただろう。お前がセーブした時点からのスタートだからな。それじゃ後は頼んだ。お前の頑張りが俺のポイントになる。転生させただけでもポイントはつくけど、幸せになってくれると俺の評価点爆上がりだから。あ、それとオートナビの親切設計だから、そこは安心して。なんたって俺は優秀だから』
……だからだからうるさいなぁと思いつつ、薄れ……ていかない意識。
なんの説明もされていない。
だから、推しとは何なんだ。セーブポイントとは?
ぐるぐると湧き上がる疑問。
――聞き覚えのあるBGM。
そこで、まさかと思った。
あれは『聖なる乙女を目指します』のオープニング曲。
やがて真っ白な霧は晴れ、
満開の桜の下、学園の門の前……ではなく。
生徒たちが歩く、学園の廊下に降り立った。
(……これは)
視界の端にちらつく、【一年目 五月第一週】の文字。
私の最新のセーブデータと同じ。
親友から『いいからやれ!推しは王太子だ』と勝手に設定され、少しだけやって放置したままの、あのゲームだ。
……ということは?
脳がぐるぐるする。
エレノアの知識?記憶?が浮上して、私の記憶?とぐるぐる、ぐるぐるしている。
私は、ヒロイン。
エレノアに転生した。
(……それなら、ピンクブロンドでも良かったのでは?)
トイレに駆け込んで、鏡に映った自分を見て
少し後悔した。




