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戦場を降りた最強の傭兵、大賢者の護衛となる〜魔法も魔獣も問題ない。害があるなら、潰すまで〜  作者: 竜ノ塚


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40話 帰る

「ヴィオ、さん……!」


 銀灰の髪、背に収まる巨刃剣、翠の双眸。

 離れて一刻。

 永遠のように感じられた時間。

 それが今、喉を震わす熱となって押し寄せる。

 前衛二人を担ぎ上げたヴィオが、一飛びでやって来る。

 座り込む魔法使いの横に寝かせ、ルナの前で片膝を突いた。


「待たせた」

「おかえり、なさい……ヴィオ、さん」


 埃っぽい泥、乾いた返り血、冷たい鎧。

 それでも、いつもの匂いがルナを包み込んだ。

 漆黒の頭に置かれた掌が、その体温が沁み込んでいく。


「ルナ」

「……はい?」


 籠手を外したヴィオは、皺だらけになった白いリボンを差し出した。

 ルナが日夜魔素を込めていた、護符のようなもの。

 その魔素が空になっていた。


「助かったぞ」

「宝物、ですから」


 リボンを握り締め、ルナはくしゃりと眉根を寄せた。

 頭の上の掌が数回弾むと、目頭を少し熱くさせながら、微笑みを浮かべた。


「ちゃんと、洗います、ね」

「あぁ」


 次に、ヴィオは周囲を見渡した。

 黒く焼け焦げた小鬼の山、転がる凶小鬼の肉塊。

 疲弊して、ボロボロで、限界を超えた六人の顔。

 様子を伺う、隠れていた村人。

 全員、生きている。

 ヴィオは六人の顔をしっかりと見つめ、一言呟いた。


「流石だ」


 その一言が、六人の胸に沁みていく。

 魔法使いは空を見上げ、兄弟は共に安堵の溜息を吐く。

 女剣士は双眸を細め、格闘家は満面の笑顔を浮かべる。

 僧侶は涙でぐしゃぐしゃにしていた。

 それぞれに視線を回し、最後にルナを見る。


「お前もだ。よく耐えた」

「――ヴィオざぁぁぁぁぁん!」

「へっ……ガキ、みてぇによ……」

「素直じゃないところだけは素直だな、お前は」


 魔法使いの()()に、女剣士が微笑みながら首を振る。


「誰も、死んでない……」

「あぁ。護られて、護ったんだ」


 静かに拳を握る弟の頭を、兄が優しく撫でる。


「はぁ〜、もうくったくた。お腹空いたー」

「ねぇ、褒めて。もっと褒めて、ねぇ」


 格闘家は足を上げて寝転び、僧侶はヴィオの腕を揺する。

 戦いは終わった。

 八人で、やり遂げた。

 胸に据えられた一つの芽が、絆となって花開く。


「歩けるか?」


 金と銀の双眸が左右に動き、弱々しく眉根を寄せた。

 立とうとしても、力が入らない。

 すると、ヴィオが強壮薬の残りを取り出して、面頬に注ぎ始めた。


「ヴィオさん? 何で――あっ」


 装着した途端、ルナの体が浮き上がる。

 左腕に抱えられ、分厚い胸板に頬が当たった。


「ご褒美、として完璧、ですね……」


 安心とは、これ以外ないのかも知れない。

 噛み締めるように、ルナがボソリと呟いた。


「お前達は歩けるか?」


 互いに顔を見合わせ、ぽつりぽつりと頷く。

 ヴィオも一つ頷くと、巨刃剣を抜き出して歩き始めた。

 突然の行動に、魔法使いが呼び止める。


「お、おいっ! どこ行くんだよ!」

「どこへ行く?」


 ゆっくりと振り返ったヴィオが、僅かに首を傾げた。


「帰る」

「「「……え?」」」

「依頼は終わった。ここにいる理由はない。話は以上だ」


 そう言って、ヴィオは再び歩き出した。

 が、直ぐに外套を引っ張られ、足が止まる。


「何だ」

「いやっ! 終わってねぇし! 寧ろ全然話す事山ほどあるしっ!」


 驚愕に目を見開いた魔法使いが、両手を固く締めている。

 先ほどまで立つのも辛かった筈なのに。

 火事場の馬鹿力とは、こういう時に出るのかも知れない。


「何だ」

「何だっ!? 村の事とか、俺達の事とか、てか先ず休もうぜ!」


 徐々に引き摺られながらも、魔法使いが食い下がる。

 他の面々も追い付き、二人の攻防を見守り始めた。

 ヴィオは淡々と、しかし冷静に事実を告げる。


「お前は勘違いをしている」

「は?」

「俺達がいたところで、村に出来る事はない。ギルドに要請して、復興部隊を送るべきだ。加えて、戦争は終わったが……戦いは終わっていない」

「え……」

「見ろ」


 巨刃剣が指した先は、村の外。

 とんでもない数の小鬼の残骸の中、未だ蠢く残党。

 六人は息を飲み、置かれている状況を理解した。


「指揮官は殺したが、小鬼は小鬼だ。いずれ、本来の習性に則って動くだろう。今はまだ揺れているが、後手に回ればまた囲まれるぞ」

「じ、じゃあ! 馬車、馬車借りようぜ!」

「無意味だ」

「何でだよ!」

「一台の馬車に八人で乗るのか? 騎乗が来たらどうする? 加えて、そもそも街道は別の魔獣の生息地だろう?」


 ぐうの音も出ないとは、この事だった。

 体力も魔素も装備も満ちていた時とは、まるで違う。

 満身創痍で、装備も乏しく、馬車一台。

 狙ってくれと、宣伝して歩いているようなものだ。


「じゃあ……どうすんだよ」

「帰る」

「いや、だから……どうやってだよ」

「まだ日はある。向かって来る小鬼だけ対処し、昨日の河原まで強行する。あの地形は安全度が高い」


 ここで、ヴィオの足が止まった。

 高く積まれた左右の防壁を見やり、後ろを振り返る。


「ここを崩して、村への侵入は防ぐ。二〜三日なら持つだろう。後は……来るも来ないも好きにしろ」


 魔法使いは他の面々と視線を合わせ、軽い溜息を吐いた。

 そう言えば、ずっとこんな男だった。

 改めて実感し、笑みを浮かべる。


「分かった。行くよ」

「そうか」


 格闘家が門の外に視線を向け、朗らかに嫌な事を告げた。


「う〜わ〜。まーだ結構いるじゃん。デカいのもチラホラ残ってるね」

「極力交戦したくはないが……凶小鬼は狩るのか、ヴィオ?」


 女剣士が見上げると、ヴィオは静かに頷いた。

 僧侶はヴィオの外套を揺すり、無言の拒否を示す。


「誰も、死なせない」

「あぁ、そうさ。もう、誰もね」


 兄弟は拳を合わせ、剣を抜いた。

 魔法使いは杖をしまい、転がっていた木の槍を両手に抱えた。


「しゃーねぇー! やるかぁ!」


 気合いを入れる為、魔法使いが胸を叩く。

 その時、槍の穂先が漆黒の長髪の毛先を掠めた。


「あ、悪りぃ……つーかよぉ、テメェは何してんだよ!」

「えぇ……だって、歩けませんからぁ……」


 満足気に頬を緩めているルナに、魔法使いの怒号が飛ぶ。

 すると、翠の双眸が腕の中に落とされた。


「ルナ」

「はぁい、ヴィオさん……」

「歩けるようになったら言え。その場で降ろす」

「え」


 淡々と、平坦に。

 当たり前の事を言われてルナが固まると、六人は息を漏らしながら肩を震わせた。


「何ですかぁー! もぉ――」

「伏せろ」


 瞬間、ヴィオが半身になり膝を折った。

 魔法使い達も本能で追従した直後。

 視界が白光に侵された。


「「「グギャァァァァァァ!」」」


 天から降り注ぐ光の剣が、小鬼を一掃した。

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