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戦場を降りた最強の傭兵、大賢者の護衛となる〜魔法も魔獣も問題ない。害があるなら、潰すまで〜  作者: 竜ノ塚


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39話 花開く

「はぁ、はぁ……倒すには、皆さんの全てが、必要です。私に、託して、くれますか?」


 今から言う事は、自殺行為に等しい。

 それでも、この状況を打開する為にはこれしかない。

 金と銀の双眸に宿る光は、未だ燃えている。


「失敗すれば、皆さん、は――いたっ」

「ばぁーか」


 その時、魔法使いに額を指で弾かれた。

 目を丸くしたルナに映ったものは、決意を固めたそれぞれの顔。


「チマチマ削っても、俺達六人じゃ勝てねぇ。でも、俺達六人を乗せたお前なら、勝てんだろ?」

「……はい、必ず」


 ルナが確かに頷くと、魔法使いが声を張り上げた。


「よーしテメェら! 俺達の全部、ルナにぶち込むぞ!」

「お前に言われなくても分かっている」

「言い方、キモい……」

「なーんか、やる気出ないんだよねー」

「ははっ……僕は、いいと思う……よ」

「う、うるせぇうるせぇ! さっさとやるぞ!」

「……ふふっ」


 微笑みを溢すルナの周りに、一行が集結する。

 盾を二枚持った剣士、装備を最小にした女剣士が前衛となり。

 魔法使い、僧侶、格闘家がルナの後ろに立ち、背中に手を当てた。


「俺達の全魔素受け取れぇ! どでかい魔法(やつ)ぶっ放す為になぁ!」

「……僕、も!」


 その時、弟がむくりと起き上がった。


「テメェ……死んでなかったのか!」

「おいおい、物騒な事言うなよ」


 口角を上げながら悪態を吐く魔法使いを、剣士が笑顔で諌める。


「ただ、それだけじゃ足りねぇんだろ?」


 魔法使いの問いに、ルナがゆっくりと頷いた。


「風も、防壁も、全て剥がし、ます」


 格闘家と兄弟が生きていたのは、風があったから。

 今、村人が無事なのは壁があったから。

 それを消してしまったら。

 もし攻め込まれたら――確実に、全員死ぬだろう。

 それでも、魔法使い達の手は背中から動かない。


「ま、どっちでも同じだ。足掻いて死ぬか、黙って死ぬか。そんなら、俺らは足掻いて死んでやるさ! なぁ!」

「「「おう!」」」

「皆さん……死なせ、ませんよ」


 風も、壁も、全てを消した。

 同時に、背中に温もりが広がる。


「グゥ……グガァァァァ!」


 意識が戻った凶小鬼が、激情の雄叫びを上げた。

 遮るものが消えた今、大気を鳴動させる衝撃が刺さる。

 それでも。

 構えを取った前衛の二人が互いに顔を見合わせ、左右に展開した。


「もはや、攻撃は必要ない」

「とにかく――時間を稼ぐ」


 剣士が走る。

 棍棒が振り抜かれた瞬間、直ぐさま回転して回避した。

 直後、凶小鬼の後頭部に何か当たった。

 振り向くと、小石が再び額に当たる。


「こちらだ間抜け!」


 こめかみに青筋を立たせ、女剣士目掛けて棍棒が迫る。

 だが、当たらない。

 最小装備になった彼女は、柔らかな足捌きで回避した。


 これが、作戦。

 零ではないが知能が低い――それが小鬼だ。

 ルナが()()()()

 六人で時間を稼ぐ、決死の逃避。


「何があっても、溜め切るまで動くんじゃねぇぞ!」


 棍棒が掠るたび、二人の肌が裂けていくたび。

 自分でも不思議なほどに、体が動き出そうとする。

 だが、やるべき事は変わらない。

 ルナは一点を見つめ、拳を握り込んだ。


(ヴィオ、さん……前を、向きます……!)


 その時、背中から手が離れた。

 四つあった内、残るは一つ。

 限界を迎えた体が地面に崩れる音が響く。


「もう、十分で――」

「ダメだぁ!」


 魔法使いの、精一杯の怒鳴り声。

 呼吸が浅くなり、全身が震える。

 ルナが見上げた瞬間、鼻血が噴き出した。

 それでも、三白眼は動くなと訴える。


「ぐっ……まだ、まだぁぁぁ! 全部持ってけぇぇぇぇ!」


 最後の叫びが木霊し、魔法使いの手が離れた。

 それでもまだ、足りない。

 でも、行くしかない。

 ルナが意を決して、前を向いたその時。

 背中に()()()()手が触れた。


「――皆、さん……!」

「間に、合った。良かった」


 微笑みを浮かべる僧侶の横には、村人達の姿があった。

 大の字になって倒れ伏した魔法使いも、口角を緩ませる。


「遅ぇ、よ……」


 村人達は、口々に感謝を述べる。

 助けてくれた事、見捨てなかった事、ここまで戦ってくれた事。

 その想いが、ルナに満ちていく。

 金と銀の双眸が、輝きを増していく。


「グガァァァァァ!」

「あぅっ!」「がっ!」


 凶小鬼が咆哮を上げた。

 棍棒が振り抜かれ、前衛の二人が弾き飛ばされる。

 だが、濁った眼が見ているのは異様な魔素。

 迸る蒼き風が収束していく、大賢者の姿だった。


「皆さん、ありがとうございます……いきます!」


 村人の感謝を。

 六人の絆を。

 そして、ヴィオへの信頼を乗せて。

 翳した両手から、想いが放たれる。


「――《八輪の蒼き風(オクタエル・)咲き誇れ(フロレイア)》!!」


 一陣の風が舞い踊る。

 蒼く染まった球体となり、凶小鬼の眼前に飛来した。


「グギ――!」


 蕾が花開くように。

 八枚の刃となった蒼き風が、凶小鬼を斬り裂いた。

 崩れ落ちた肉塊が転がり、一時の静寂が訪れる。

 柔らかな風と共に、大気が鳴動した。


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」

「やり、ました……!」


 安堵の溜息が、ルナの膝を折らせた。

 肩で息をしながら、額に汗を光らせながら。

 一行が勝利の余韻に浸ったその時。


「ガゴァァァァァ!」


 絶望が、舞い降りる。

 新たな凶小鬼が防壁を飛び越えて来た。

 鎖鎌で風を切りながら、醜悪な顔を歪ませる。


「くど、い……です、ね」


 六人も、村人も、ルナでさえも。

 もう、何も残っていない。

 立ち上がる力でさえ、使い切った。

 それでも――。


「負け、ません……! 絶対、に……!」


 だが、震える膝は言う事を聞いてくれなかった。

 金と銀の双眸が、六人を見やる。

 壁際で立ちあがろうとする前衛。

 地面を握り締める僧侶と弟。


 その時、視界が翳った。

 見上げると、魔法使いが立っている。

 今にも倒れそうな背中で、凶小鬼を睨み付けた。


「俺が、相手だ……ざぁこ……」


 空元気にすらならない、儚い悪態。

 不揃いな牙を覗かせた凶小鬼が、鎖鎌を振り抜いた。


「――っ」


 風切り音が響き、頭が転がった。

 崩れ落ちた体、光を失った眼。

 ルナの視界に映ったのは、いつもの淡々とした姿だった。


「見事だ」


 ヴィオが、帰還した。

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