36話 籠城戦
『俺が陽動となり、指揮官を追う。そうすれば、向こうは必ず戦力を割いてくる』
それが別働隊。
暴れる一人を釘付けにしておけば、本陣を落とす機会が生まれるからだ。
『お前達はそれを迎え討つ。通路を作り、誘い込め。その次は、空を警戒しろ。軍勢の中に弓兵の一団がいた。機を見計らって攻撃してくるぞ』
それが矢の雨。
ルナ達にとっては、計算通りの攻撃だった。
『そこから先は消耗戦だ。ルナの魔素が尽きる前に、俺が指揮官を潰す。こちらにも主力級がやって来るだろう。それまでいかに魔素を減らさずに持ち堪えるか……それが勝負の分かれ目だ』
小鬼が攻め入り、魔法使い達と村人が連携して討ち取る。
幾度か同じ事が続き、迎撃しつつも削られていた。
まだ矢の雨は定期的に降り注ぎ、ルナの魔素は確実に減らされていた。
「次が来たぞ! 杖持ちだ! 村の奴らは下がれ!」
魔法使いの怒号が響く。
防壁の上に立ち、馬車の隙間を抜けて来ようとする小鬼術師に魔法を放った。
あちらも魔法を返すが、風の壁がそれを遮る。
だが、明らかに薄くなっている。
「おい! ルナは大丈夫か!」
「はぁっ! 小鬼共になど、指一本触れさせんさ!」
息が上がっているルナを背に、女剣士が得物を振るう。
格闘家と剣士が、その横を固めていた。
重戦士は二枚の盾を持ち、最前列で小鬼を弾く。
「ルナ、飲んで。これで……最後だから」
僧侶が回復薬の瓶を開け、ルナの口に流し込む。
じりじりと。
小鬼の数が増えて来ている。
「くそっ! キリがねぇ……うっ!」
魔法を連発したツケが回って来た。
膝を突いた魔法使いが、拳を固く握り締める。
「くそっ……! くそっ! 俺が倒れて……どうすんだぁぁ!」
侵入して来る小鬼目掛けて、魔法使いが飛び降りた。
杖を眼球に突き刺し、小鬼から悲鳴が上がる。
飛び退いてその場が空くが、彼は前衛ではない。
「がっ!?」
後方から振り下ろされた棍棒が、頭を直撃した。
視界が揺れ、吐き気が込み上げる。
醜悪に歪む小鬼の面が、魔法使いを囲んだ。
「っ……く、そ……!」
零れ落ちた言葉は、不甲斐ない己への悪態だった。
それと同時に、蒼い風の刃が小鬼を屠る。
直ぐに重戦士が魔法使いの体を引き、ルナ達の方まで退避してきた。
「はぁ、はぁ……直ぐに、治癒……を」
首筋から汗を垂らし、ルナの息は荒い。
それでも向けられる庇護の視線が、助けられた己の弱さが。
魔法使いに唇を噛ませた。
「大丈夫、だ……ちょっとすりゃ、治る」
「……おい、感じないか?」
その時、女剣士が違和感に気付いた。
空が、ずっと明るいままだと。
金と銀の双眸が、柔らかく細められた。
「ヴィオ、さん……ありが、とう、ございます……」
『弓兵は俺が処理する。その後は、風の規模を縮小しろ』
淡々とした声音が、脳裏に響く。
ヴィオがやってくれた。
矢の雨はもう降らない。
「皆! ルナの前に集まって! 村の人達は集会所へ退避!」
剣士の号令を受け、それぞれが決められた動きを見せる。
集合した六人は、ルナを背にして武器を構えた。
その瞬間、風の壁が集会所から門までを包むように小さくなる。
「はぁ、少し、楽になりました……」
額の汗を拭い、ルナが微笑みを浮かべる。
束の間の安堵。
それでも、青タグに油断は見られなかった。
「残りの小鬼共を掃除しなくてはな」
「そうだね。皆、いけるかい?」
剣士が構え、一行も続く。
魔法使いも立ち上がり、杖と木の槍を構えた。
「当たりめぇだ!」
「ふっ、本当に素直じゃないな」
侵入している小鬼は十数。
今の一行には荷が重い。
だが、それを打破してくれる力が纏われた。
全身を包む、蒼い風が。
「……借りばっか作ってられっかぁぁ!」
「行くぞぉぉぉ!」
魔法使いを先頭に、それぞれが駆ける。
小鬼の一撃を躱し、受け止め、斬り付ける。
盾で弾き、槍で刺し、拳が骨を砕く。
剣戟で火花が散り、怒号が舞い上がる。
「はぁ、はぁ……ざまぁみろこのやろうっ!」
返り血を被ったフードを取り払い、魔法使いが空に吠えた。
兄弟も、女剣士も、格闘家も、僧侶も。
肩で息をしているが、場は制圧した。
馬車の隙間に目をやるが、小鬼の気配はない。
再びの安堵が、一行を包んだその時。
「グガァァァァァ!」
容易く打ち砕く咆哮が、響き渡る。
馬車を粉砕し、両手に棍棒を持つ凶小鬼が姿を見せた。
体躯に刻まれた傷跡、赤く濁る眼。
最初に村にいた個体よりも、戦に慣れている事は歴然だった。
ルナの目付きが鋭くなる。
「皆、さん……! 下がって……私、が――」
「ばぁーか!」
前に出ようとしたルナの前に、六人が立った。
「無理、はしてるな。いや、させてしまってすまない」
「今度はウチらの番だよねー」
「うん。僕達がやらないとね」
「死なせ、ない!」
「お前はやりすぎなんだよ。おいっ!」
魔法使いが僧侶に目配せし、ルナの横に付ける。
「ありがと、ルナ。次は、護るから」
ルナの手を握り、僧侶が魔素を注ぎ込んでいく。
金と銀の双眸に少しだけ光が戻ったルナは、少しだけ喉の奥が熱くなるのを感じた。
「テメェら! 死ぬんじゃねぇぞ!」
「「「おう!」」」
仲間を護る為、凶小鬼に立ち向かう。
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