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戦場を降りた最強の傭兵、大賢者の護衛となる〜魔法も魔獣も問題ない。害があるなら、潰すまで〜  作者: 竜ノ塚


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29話 顔合わせ

「強壮薬、回復薬、血止め、塗り薬、水薬……各種持ったな?」

「完璧です。強壮と回復は三本ずつあります」


 早朝。

 ヴィオは新たに購入した腰の背嚢に、ルナは港町から変わらないリュックに。

 それぞれ装備を満たし、大階段へ向かう。


「そう言えば、どうですか?」


 半歩前を歩くルナがくるりと振り返り、小首を傾げた。

 朝焼けの中、風になびく新品の外套。

 ヴィオの鎧と噛み合う、深い灰色に染まる滑らかな布地。

 探しに探し、やっと満足いくものを見つけられた。


「問題ない」


 いつもの短い肯定。

 それだけで、ルナの頬が僅かに緩む。


「気に入ってくれましたか?」

「あぁ」

「ふふっ……なら、いいです」


 そう言うと、また前を向いて歩き出す。

 漆黒の一房を大きく揺らし、石畳を跳ねる歩幅を広くして。


「お待ちしておりました。こちらへ」


 大階段の前で、受付嬢が出迎えた。

 少し間隔を空けて、二人組と一人の冒険者が階段に座っている。

 その横には、しっかりとした荷台が据えられた馬車が三台待機していた。


「これで全部か?」

「いえ、あともう一組来ます。それまで、お待ち下さい」


 受付嬢はいつもどおり、眉一つ動かさない。

 ヴィオは一瞥すると、周囲に視線を移した。

 質素ながら、上品な造りの荷馬車。

 それを三台用意するだけの財力が、依頼主にはある。


(駆け出しを卒業した七等級を複数人雇い、報酬を用意する事も容易……となれば)


 護衛依頼と言っても、危険度は様々。

 本当に()()()()()、上位を雇えばいい。

 だが、今回は七等級。

 街道や道中そのものは、さして難しくないのだろう。

 では、なぜヴィオ達をわざわざ推薦したのか。


「懸念点は何だ」


 淡々とした声音に、受付嬢が僅かに息を飲む。

 少し顔を伏せたまま、口元を手で隠して横に並ぶ。


「これは……私の杞憂かも知れません」

「それで」

「ここ数週間、東の街道を中心に冒険者が帰還していない事例が目立つのです。依頼、等級は様々。フラフラする方も多いので、一概に関係しているとまでは言えませんが……」


「要因がないとは言い切れない、か」

「……はい。ですから、推薦してしまいました」


 眼鏡の奥の瞳が、ほんの僅か苦悶に歪む。

 だが、聞こえて来た声音は、いつも通り平坦だった。


「依頼主に関しては、保証する。他の冒険者に関しては断言はしない……が、善処しよう」

「ありがとうございます……!」


 受付嬢から、小さく息が漏れる。


「すまん! 遅れてしまった」


 その時、最後の一組――三人組の女冒険者達が駆けて来た。

 細剣を腰に差したリーダー格が頭を下げた。


「待たせてしまって、申し訳ない」

「いえ、まだ時間前ですから。それでは、顔合わせを致します」


 受付嬢の号令を受けて、一同が集まった。


「僕達兄弟は前衛です。皆さん、宜しく」


 爽やかに頭を下げた剣士の兄と、その後ろで会釈した重戦士の弟。

 二人とも、背中に大きな盾を収めている。


「俺ぁ、後衛だけじゃねぇぞ。魔獣見つけたらぶっ放す」


 黒い魔法衣を着込み、三白眼に自信を宿す魔法使い。

 金属質な短めの杖を、指の間で回していた。


「私と、この元気が良いのが前衛。彼女は後衛だ」


 女剣士に紹介された二人は、対象的な風貌だった。


「よろしくねー」


 身体に沿うような道着に身を包む格闘家は、足を頭まで上げて挨拶する。


「眠い……」


 その後ろで、気怠そうに小さくなっている僧侶。

 ボソリと何か呟き、直ぐに下を向いてしまった。


「私はルナ、こちらはヴィオさんです。前衛後衛はあまり意識していませんが、私が魔法で、ヴィオさんが剣技を扱います」


 ルナが朗らかに挨拶すると、ヴィオも軽く会釈した。

 見たところ、六人の年齢はルナと同世代。

 冒険者歴は不明だが、しっかり依頼をこなしたからこその青タグ。

 ここでは先輩だ。


(……いや、ルナが一番年上か)


 全員の顔を一瞥してから、漆黒の一房に視線を落とす。

 すると、穏やかに微笑む金と銀の双眸と目が合った。


「今 余計な事を 考えましたか?」

「……別に」


 顔を背けるように、翠の双眸が全体に戻る。

 視界の隅ではルナの微笑みが刺さっているが、もう見ない事にした。


「はっ、情けねぇ。その年で白タグってだけでダセェのに、女に凄まれてちゃ世話ねぇな」


 魔法使いが嘲るように首を振った。

 ヴィオの視線が再びルナに戻る。


「今、ヴィオさんに言いましたか?」

「そいつ以外に誰がいんだよ。推薦受けたからって調子のんなよ」

「……そうですか」


 金と銀の双眸から、光が消えた。

 漆黒の一房の毛先が俄かに浮き上がり、静電気のような圧が発生した瞬間。


「お前の助言は留意しよう」


 肩に置かれた掌が、ルナの理性を引き戻した。

 魔素の変容にも慣れたものだと思いながら、ヴィオは静かに口を開く。


「俺達は新米だからな。先輩の後に食らいつくぐらいの仕事はこなそう」

「……ヴィオさん」


 話はここで終わり。

 ヴィオの声音が、そう告げていた。

 ルナは小さく息を吐き、気持ちを切り替えた。

 ふん、と魔法使いがそっぽを向いたところで、受付嬢が手綱を握る。


「挨拶は済みましたね。定刻となりましたら、出発してください。それと――」


 眼鏡の奥の瞳が、魔法使いに向けられた。

 眉一つ動かさないいつもの空気とは、まるで違う。

 明らかに、怒気を孕んだ声音が響いた。


「私が昇級審査に立ち会っていなくて、幸運でしたね。他者を貶める発言は看過出来ません。次に言質を取ったら、その場で降格処分とします」

「っ!……わーったよ。悪かったな」

「問題ない」


 ヴィオは淡々と返し、ルナと共に少し離れた位置へ移動した。


「一々反応していては、進むものも進まん」

「分かってます。自分の事は、何を言われてもいいですけど……」

「若いとは、あんなものだ。青タグとしての威厳もあるんだろう」


 敵を増やすよりも、顔見知りを増やす。

 分かってはいるが、ヴィオが絡むと途端に難しくなる。


「潰すのは容易だが、それでは面倒でしかない。ならば、結果で黙らせばいい」

「ヴィオさん……」

「お姉さんなら、簡単だろ?」


 差し出された大きな拳に、小さな拳が合わさる。


「そうですね。簡単です。目にもの見せてやりますよ」

「程々にな」

「ヴィオさんを馬鹿にした報いを受けさせます」

「……やめろ」


 ヴィオが溜息を吐くと、ルナは楽しそうに微笑んだ。

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