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大賢者の用心棒〜部隊を離反して無職になった元傭兵、魔法文明の大陸で護衛兼冒険者になる〜  作者: 竜ノ塚


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20話 魔法を斬る

「テメェのせいだからなぁ……テメェが俺をコケにしやがったからだぁぁ!」


 咆哮を上げ、血痕の付いた大槌を地面に叩き付けた。

 破砕音が轟き、粉塵が舞い上がる。

 木々の匂いに土埃が混ざり、空気を一変させた。


『ヴィオさんに顎砕かれた事が、よっぽど()()()()()んですね』

「あぁ」


 上空から風を通してルナの声が降ってくる。

 ヴィオが頷くと同時に、巨漢が地面を蹴った。

 巨刃剣の柄に手を掛けた刹那、振り下ろされた大槌の一つを半身で躱す。

 追撃の横薙ぎを左腕で跳ね上げ、最小限の跳躍で巨漢の頭を飛び越えた。

 その脇腹へ、斜め後ろから回し蹴りを放つ。


「ぐがっ!」


 鈍い音を響かせながら巨体が宙を飛び、地面に落ちて転がる。

 だが、直ぐに立ち上がると、首を鳴らして笑みを浮かべた。


「ははは……痛ぇじゃねぇか。必ずぶち殺してやるよぉ……!」


 赤黒い血管が脈打ち、口から血が漏れ出ている。

 右の胴甲は足型にめり込んでいるが、特に気にする素振りはない。

 左の籠手の無傷を一瞥しながら、ヴィオはルナに問いかける。


「あれは魔法か?」

『違いますね。強化魔法も、治癒魔法もかけている形跡が見られません。魔素も雑に垂れ流しているだけですし』


 強化魔法とはなんだ、という疑問は一旦飲み込む。

 ヴィオの目にも巨漢の周囲に立ち昇る乱気流のような歪みが見て取れる。

 だが、霊峰のルナに比べれば雲泥の差だった。

 となれば、異常な耐久の理由は一つ。


(骨は確実に砕いた……薬か)


 見た目から、身体に相応の負荷が掛かっている事は明白。

 話して言う事を聞くような状態でもない。

 ならば――さっさと片をつける。


「ルナ、何か見えるか」

『ちょっと待ってください……ここから少し離れた斜面の下に、数人地面に倒れてます。恐らく、死んでいるかと』

「状態は?」

『顔が潰れている者二人、体がひしゃげている者二人。その他、四方に人影は見えません』

「……そのまま上にいろ」

『了解です』


 片方の大槌を地面に突き立て、巨漢が右手を翳した。

 ドス黒い魔素が集約されていく。


「轟け(いかずち) 貫け稲妻――《ライトニングボルト》」


 ヴィオへ迫り来る一筋の雷光。

 限界まで引きつけ、霞の構えから刺突を繰り出す。

 切先が雷光を捉え、二つに裂いた。

 分かれた魔法の残滓が、背後の大木を貫いていく。

 この時、ヴィオは新鮮な感覚を覚えていた。


(【死電】(レンディル)が見たら、どう思うだろうな)


 〈不能〉の効果範囲では、恩寵は動きを止める。

 だが、魔法は違う。

 ヴィオの元に確実に届き得る一撃だ。

 昨日までなら、些か脅威だったかも知れない。


「良い武器持ってんじゃねぇかぁ!」

「【巨刃剣・海鱗】、だったか。欲しければ、カトレアの槌へ行け」

「なら俺も見せてやるよぉ! 瞬く雷撃 吼えろ雷轟 雷霆纏いし槌と成れ――《属性付与(エンチャント)・雷域》!」


 膨大な魔素が溢れ出し、雷光が爆ぜた。

 黄金色の雷が降り注ぎ、大槌と一体となる。

 振るだけで耳を劈く雷轟が轟き、稲光が視界を焼いていく。


「全開だぁぁぁぁ!」


 更に膨れ上がる魔素が、大槌から稲妻を迸らせる。

 巨漢が構えを取った時――ヴィオの姿は何処にもなかった。


「なっ」


 一筋の風切り音が疾った直後。

 雷光が消え去り、地面に頭が転がった。


「喋り過ぎだ」


 一拍置いて、ヴィオは巨刃剣を背に納めた。

 首無しの死体を仰向けに転がして持ち物を調べると、籠手の内側で赤い丸薬を見つけた。


(やはり。何処でも似たような物を作る)


 ヴィオが思案していると、ルナが飛来してきた。


「終わりましたね」

「あぁ」

「この人、指名手配でしたよね。首かタグ、持っていきますか?」


 周囲に視線を走らせ、ヴィオは首を振った。


「不要だ。昨日八等級になったばかりの冒険者が、五等級の賞金首を持ち帰るなど、面倒にしかならん」

「それもそうですね……」

「それに……放っといても、()()()が来る」

「あぁ。何人かいますね」

「今は他の弔いだ」

「必要ですか?」


 純粋な疑問。

 曇りのない金と銀の双眸を見つめ、ヴィオは淡々と答えを返す。


「……怨親平等、だったか。白髪頭(おっさん)が言っていた」

「そういうものですか」

「……出来る限りは。今回に関しては、被害者だろうしな」


 ヴィオが指差した大槌を見ると、乾いた血痕がこびり付いている。

 ルナは静かに頷き、方角を示した。


「では、案内しますね」

「あぁ」


 二人はその場を後にした。



 ▽▼▽



 ギルド受付――



「お願いします」

「おかえりなさいませ。では、確認致しますので、お待ち下さい」


 カウンターに置かれた麻袋の中から、大顎や針を取り出す。

 その数二十、依頼達成だ。

 眉一つ動かさない受付嬢は、台帳に記録していく。


「余剰討伐含めまして、報酬は四万エクスとなります。お疲れ様でした」


 受け皿に置かれた報酬を取り、ルナの顔が綻んだ。


「ヴィオさん、初めての稼ぎです」

「あぁ」


 その時、眼鏡の奥の瞳が動いた。

 視線を受付嬢に移すと、じっとこちらを見つめている。


「……大閃蜂は、八等級では最難関。それを無傷、汚れすらなく達成してしまいますか」

「素人ではないからな」

「……噂も納得です」

「そうか」

「ですが、規則には沿って頂きます。規律が乱れると、面倒ですから」

「留意しよう」


 互いに淡々と、言葉を交わす。


「行くぞ」

「はい」


 二人を見送った受付嬢は、それ以上何も言わなかった。



 ▽▼▽



 夕暮れの中、変わらぬ活気を見せる大通り。

 何故か報酬を握り締めているルナが半歩前を歩き、ヴィオはその後方から視界をズラさない。


「今日は何を食べましょうか」


 その時、路地が目に入った。

 ヴィオはルナを促し、方向を変える。

 裏通りを更に曲がり、人気のない袋小路にやって来た。

 分厚い石造りの壁は高いが、越えられない事はない。


「来るぞ」


 壁際にルナを寄せ、その前に立つと巨刃剣の柄に手をかける。

 訪れた静寂の中、石畳を踏む均等な足音が響いて来た。


()()()()感謝致します」


 袋小路の入り口に、一人の男が現れた。

 白いスーツに身を包み、胸に左手を当て完璧なお辞儀を披露する。


「森からコソコソ付けて来ていたからな」


 真っ赤な髪を全て後ろに流した男は、柔らかな笑みを浮かべた。


「ラグドラール様、メレスギル様。此度は我がクランの不始末により、大変ご迷惑をお掛け致しました」


 男は二つの袋を、見えるように右手で吊るした。

 一つは何の変哲もなく膨らみ、一つは袋の底が血で滲んでいる。

 男は血が滲む袋を捨てると、もう一方を広げて見せた。

 中には、金がぎっしりと詰まっている。


「あの愚図の処遇には、ほとほと困り果てておりまして。我が団長は偉大な御方なのですが……いかんせん――甘いもので」

「そうか」

「つきましては、御二方に懸賞金と迷惑料をお支払いしたく、参上した次第であります」

「不要だ。喋るなら、()()を解いてからにしろ」


 猛禽類のような眼が、光を帯びる。

 男は袋を下げると、上に向かって指を回した。

 屋根の上から人影が三つ、男の後ろへ飛び降りる。

 逆光で姿が判別出来ない中、男の赤いタグだけが光っていた。

 すると、後方の一人の男が声を上げる。


「テメェ、うちの副団長の温情が――」

「止めなさい」


 副団長が制止した。


「貴方、死にますよ」

「……は?」


 副団長の表情は変わらない。

 だが、四人の心臓の位置に――蒼い風が燻っていた。

 ヴィオは横目でルナを見やり、()()制止する。


「ルナ」

「……分かりました」


 蒼い風が霧散し、ルナはまた静かになる。

 副団長は微かに喉を鳴らし、明確に口角を吊り上げた。


「お噂以上ですね……申し遅れました。(わたくし)、クラン【聖光の使徒】副団長を務めております、サリヴァン・ルーメンと申します。私含め、部下の無礼をお詫び申し上げます」

「それで」

「如何でしょう、団長のお側に仕えるというのは?」

「断る」

「クックックッ……かしこまりました。今は引きますが、御二方は団長のお側こそ相応しい。私は諦めませんよ」

「勝手にしろ」

「それでは、今日のところはこれにて。皆さん、参りましょう」


 静寂が戻った袋小路。

 ルナはヴィオを見上げ、小首を傾げた。


「邪魔、ではないんですか?」

「現状は。何でもかんでも潰せばいい訳ではない」

「……そういうものですか」

「敵を増やさず、顔見知りを増やす。それが一番、都合がいい」

「それで邪魔をしてきたら、どうしますか?」


 ルナが見上げた翠の双眸が、暗い光を灯した。


「その時は無力化を図る。殺すのは最終手段だ」

お読み頂きありがとうございます。

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明日から、第一部完結まで毎日20時投稿となります。


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