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大賢者の用心棒〜部隊を離反して無職になった元傭兵、怨霊と呼ばれた女の護衛になる〜  作者: 竜ノ塚


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19/22

19話 初依頼

「時間通り……こっち」

「ご注文の品は、完璧よ」


 早朝。

 店の前で、職人達が二人を出迎えた。

 共に隈を作っているが、瞳は興奮を抑えきれていない。

 扉を開け、早く来いと急かす。


「金は足りたか?」

「全然……でも、いい。後で話す」

「そうか」


 工房に到着すると、一向は二手に分かれた。


「先ず……着てみて」


 机に並べられた鎧は、落ち着いた灰色で統一されていた。

 注文通りの各部位を、ヴィオは慣れた手付きで装着していく。


「……想像以上だ」


 鈍い艶を放つ全身は、まるで重さを忘れたかのように軽い。

 四肢の駆動を妨げずに柔軟に包まれているのに、耐久性も申し分ない。

 ヴィオが静かに頷くと、アンドレアは誇らしげに髪を掻いた。


「次が本命……生まれ変わった」


 金床に掛けられた布を取り去る。

 吊るされた照明を浴びて、青みがかった紫色の光沢を放つ剣身。

 鍔から切っ先に至るまで、薄く重なった淡い鱗を纏う。

 刃先が鋭く研がれた、新たな巨刃剣が鎮座していた。


「形は振りを見て、すぐ決まった……鱗を伸ばして、一体化させた。分割点も、面倒だったけど……完璧に仕上がった」

「そうか」

「この子の名前……【巨刃剣・海鱗(かいりん)】」

「そうか」

「――!」


 会心の名付けを流され、アンドレアの瞳が大きく見開かれた。

 呪詛でも吐きそうな顔でヴィオを睨むが、翠の双眸は既に剣に注がれている。

 工房の奥へ移動すると、前日と全く同じ軌道で剣を振った。


(重量は変わっていないが……軽い)


 残心を取りながら、新たな剣身に視線を落とす。

 淡く光る鱗の波が、ヴィオの求めた答えを体現していた。


「お待たせしました」


 その時、全身を白い布で覆ったルナがやって来た。

 後ろのカーコムは満面の笑みを浮かべている。

 新たな装いとなったヴィオの前で止まり、全身を隈なく眺める。


「……いいですね。特に巨刃剣、しっかり魔素を感じます」

「そうか」

「あら、ほんと。でも、ルナちゃんも負けてないわよ。準備良いかしら?」


 ルナとカーコムが視線を合わせ、白い布が取り払われた。


「以前の装備を昇華させた、完璧な設計よ」


 現れたのは、深い蒼を主とした新たな装いだった。

 胸元を覗かせた袖なしの長衣は腰で細く締まり、足元へ流れる布の下では、黒の短パンと黒タイツが隙なく脚線を覆っている。

 肘から先だけを包む釣鐘型の別袖は、軽やかながら両腕を護る。

 首元で揺れる蒼の外套と、純白の短靴に走る金の意匠が、蒼風を従える者としての格を滲ませていた。


「どうですか?」

「問題ない」


 ルナの全身を一瞥し、ヴィオは淡々と返す。

 その光景は職人の二人にとって衝撃だったが、ルナは慣れている。

 ヴィオを見上げ、小首を傾げながらもう一言呟いた。


「似合ってますか?」

「あぁ」

「……ふふっ、ありがとうございます」


 二文字で返したヴィオに更に驚愕を見せる職人達だが、ルナは微笑みを浮かべている。

 アンドレアとカーコムは顔を見合わせ、揃って小さく息を吐いた。


「それで、金の話は」

「……あー、とりあえず足りない。特に……ルナのやつがメチャ高い」

「え」

「良いのよ、アタシが使いたくて使った素材だから。その代わり、ガンガン宣伝してきて頂戴ね」

「だから、店がいつもボロい。ヴィオもね……武器の事聞かれたら、ウチの店に」

「承知した」

「……いきなり借金生活ですね」


 アンドレア達に見送られ、二人はギルドへ向かった。



 ▽▼▽



 ギルド受付――



「お願いします」

「かしこまりました。依頼内容を照合しますので、少々お待ち下さい」


 握り締めた依頼書を、ルナは気合を込めてカウンターに置いた。

 受付嬢は至って冷静に、受注業務をこなす。


「……お二人の等級でも、問題ありません。受理させて頂きます」

「そうか」


 すると、受付嬢と視線が合った。


「これは雑談ですが……()()()()噂になる事は、避けた方が宜しいかと」

「話が見えんな」

「では、これを」


 そう言って差し出してきたのは、黒塗りの手配書。

 生死問わずの文言と懸賞金、絡んできた巨漢の顔が描いてあった。


「それで」

「こちらは指名手配(ブラックリスト)です。昨日クランを除名された後、懸賞金を掛けられました。この方をご存知ですよね?」

「さぁな」

「……その対応を貫いて下さい。面倒事を好む人は少ないですから」

「留意しよう」

「それでは、いってらっしゃいませ」


 ルナが先頭に立ち、いざ初冒険へ向かおうとした瞬間。


「どちらへ?」

「え? 転移陣(ポータル)に……」

「本日の依頼の場所は、北の山。徒歩です」


「……えぇー」

「行くぞ」


 小さな体がヴィオに引き摺られていく。



 ▽▼▽



 北の山中――



 生い茂る樹木の中。

 他の駆け出し達も散り散りになり、今は二人だけ。

 半歩前を歩くルナは、頬を膨らませていた。


「転移陣使いたかったなぁ」

「そうか」

「かなり高度な技術なんですよ? 新大陸(こっち)は物に魔素を刻むっていうか、定着させる事が文化として成り立っているんです」


 ルナが、新たな装いに視線を落とした。

 編み込まれた意匠は、周囲の魔素を効率良く取り込んでいる。

 試しに手に魔素を送り出して見ると、流れるように収束した。


「そうか。所で、今日の依頼は何だ」

「大閃蜂の駆除です」

「それで」

「最低十五匹討伐で、報酬はそれなり。八等級の中では難しく面倒だそうですよ」


 朝一のギルドは冒険者で溢れかえっていた。

 ヴィオの指示通り、残り物を取りに行った結果が今回の依頼だった。

 遠目に黒々とした巣が見えて来ると、二人は前後を入れ替える。

 ルナが指を翳し、蒼い風の弾丸が撃ち放たれた。

 直撃した巣は大きく揺れ、中から赤褐色の体躯が溢れ出す。


 幼児ほどの大きさをものともせず、直線的に飛び回る流線型の群れ。

 不快な羽音が重なり、大気を鳴動させる。

 数匹の蜂が木々の間を折れるように飛びながら、ルナに迫った。


「……やはり、軽い」


 刹那、樹上から飛来した巨刃剣が先頭の蜂を両断した。

 次いで、横薙ぎの一閃が左右の蜂を捌く。

 残心を取るヴィオは、淀みのない断面を見やった。


(大気に漂う、魔獣が纏う、その魔素を斬っている。故に、軽い)


 稲妻型に迫り来る蜂だが、結局は獲物の元に集結する。

 ならば、動かず待っていれば良い。

 ヴィオは重心を落とし、斬り裂き、払い、突き、薙ぐ。

 残骸の山が出来上がる中、ルナも準備に入った。


「それでは、私もいきますね」


 突進を仕掛けて来る蜂の大群、その悉くを風の弾が貫いていく。

 蜂は弾丸、蒼い風は砲弾。

 的確に撃ち抜かれた赤褐色の敵影が、みるみるその数を減らしていく。


「終わったか」

「お疲れ様でした」


 程なくして、群れは全て屠られた。

 二人は息を切らす事もなく、次の作業に入る。


「大顎か針の一部を持ち帰ると、討伐数が加算されるみたいですね」


 翠の双眸が、残骸の山に移る。

 全て急所を見事に斬り伏せていたが、肝心の部位までバラバラだった。


「……先に言え」

「忘れてました」


 対して、ルナは綺麗に頭部の中心だけを撃ち抜いていた。


「ふぅ、これで依頼分完了ですね。もう何体分か持っていきますか?」


 ルナが振り返ると、ヴィオの視線は別方向を見ていた。


「気付いてるだろ」

「大した反応ではなかったので」

「もっと警戒しろ」

「今後に活かします」


 ヴィオの合図と共に、ルナは《蒼き風の羽衣》を纏って上空へ回避した。

 直後、木々の間から人影が現れる。

 顔には赤黒い血管が走り、異様な魔素を垂れ流していた。


「見つけたぜぇ……クソ野郎ぉ!」


 指名手配に記されていた巨漢が、醜悪な笑みを浮かべた。

20時にもう1話更新です。

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