18話 設計
新大陸が魔法文明であるならば、やらなければならない事があった。
魔素を持たないヴィオが生き抜く為の、最も効率のいい手段。
巨刃剣で魔法を斬る――求めていた答えだった。
「では、頼めるか?」
ヴィオの問いに、アンドレアが確かに頷く。
「……鎧は?」
装備にも魔素がないと、職人の目が即座に見抜く。
ヴィオは感心しながら、要望を伝えた。
「肩、胸、籠手、膝、具足を頼む」
「じゃあ、先ず剣の案を決める……その後、採寸」
アンドレアはカウンターの奥を顎で示し、付いて来いと促した。
二人が続き、殿はカーコムが歩く。
「ルナちゃんは……魔法使いね」
「お察しの通り。広範囲が得意です」
静かに微笑むルナを見て、カーコムは内心息を飲んでいた。
全く魔素を感じさせない制御は、途轍もない集中力がいる。
それを息をするようにやってのけるルナは、元冒険者の目にも異質だった。
「それなら……魔素の流れを阻害せず、ガンガン攻められる設計にするわ」
「期待してしまいますね」
一行は廊下を抜け、地下へ降りる。
重厚な扉を開けると、奥行きの広い工房に着いた。
魔石造りの炉の中で、煌々と炎が燃え盛る。
焦げた油の匂い、床に付いた煤の汚れ、完璧に整頓された道具。
初めて見る職人の根城に、ルナの双眸が細められた。
「突き詰めた場というのは、佇まいから違いますね。アンドレアさんの本気が見えます」
「……アンディでいい」
「では、アンディさん」
漆黒の一房を揺らして小首を傾げたルナを横目で見つつ、アンドレアが頬を掻く。
褒められた嬉しさか、愛称で呼ばせた気恥ずかしさか。
ただ、この男にそんな情緒はない。
「それで?」
瞬き一つしないヴィオが指示を仰ぐと、ルナから小さく溜息が漏れた。
アンドレアの耳が仄かに染まり、僅かに語気が強くなる。
「……剣振れ」
「承知した。ルナ、下がってろ」
巨刃剣を構え、重心を落とす。
静寂を帯びた翠の双眸が、工房の奥の宙空を見据えた。
刹那――右後方からの逆袈裟斬りが空を断つ。
次いで横一文字の剣閃が走り、上段からの袈裟斬りで締める。
残心を取るヴィオの後ろで、拍手が鳴った。
「これは斬られる方に同情しちゃいますよ」
「綺麗な太刀筋ねぇ」
アンドレアは顎に手をやり、まじまじと観察する。
「そう振るんだ……腕の延長、だから刃先が鋭くなってる……鈍器じゃない、ちゃんと剣」
「巨刃剣、だからな」
「ヴィオにとって、その剣は何?」
カーコムに巨刃剣を渡したヴィオは、微かに首を傾げた。
金床に置くまでに何度もよろけている地人を他所に、アンドレアはじっとヴィオを見つめる。
「武器だ。それ以外に何がある?」
「……じゃ、聞く。その武器は、何かを壊す為?……護る為?」
使う者によって、善にも悪にもなる。
職人の問いは、残酷なまでに明瞭だ。
しかし、翠の双眸は揺らがない。
「契約を果たす手段だ」
ルナの口角が満足気に緩む。
やはり、もう――その時、翠の双眸と目が合った。
「違うぞ」
「……ヴィオさんはそんな事覚えなくていいんです」
軽く唇を尖らせたルナに、ヴィオは軽く肩を竦めた。
そんな二人のやり取りにカーコムは笑いを堪えるが、アンドレアの目には全く入っていない。
「契約……やっぱ、面白い。いいよ、形は決まった……巨刃剣は、生まれ変わる」
「そうか」
「じゃ、採寸……ルナは、ウチね」
「お願いします」
「ヴィオちゃんはこっちよ」
「あぁ」
工房を後にした一向は、店内へ戻る。
別々に採寸した後、改めて契約を交わした。
「じゃ、注文通りやるから……明日の朝一、来て」
「承知した」
「ルナちゃん、とびっきりのガンガン装備設計するわね」
「楽しみにしてますね」
二人を見送った後、アンドレアは袋から金貨を一枚取り出した。
「どこの国、これ?」
「見た事ないのよねぇ……」
カーコムも首を傾げる。
暫しの沈黙が流れ、二人は視線を交わらせた。
「二人とも……駆け出し、八等級だった」
「ルナちゃんの魔素は、そんなものじゃなかったわよ。すっごく綺麗に抑えていたけれど」
「ヴィオもそう……魔素を持たない欠格者なのに、あんな重たい剣を……捌いてた」
「……不思議よねぇ」
同時に天井を見上げ、思案に耽る。
だが、再び視線を交わらせると、互いに頷いた。
「とりあえず、仕事……手伝って、あの剣は持てない」
「そうね。アタシも設計図書かないと」
分からない事より、受けた仕事が最優先。
カトレアの名に恥じぬ物を造らなければ。
やる気を漲らせ、二人は工房へ降りて行った。
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